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今、Canon A-1を振り返る


●上級機A-1

今、ボクの手元にCanon A-1がある。これは以前、会社の同僚から譲り受けたもので、その時点でもうフィルムの時代ではなかった。

A-1が現行機種だった時代、A-1はボディのみで8万円台と高価でボクには手が出ず、中古で安くなるのを待っているうちにAFのEOS時代となってしまい、結局フィルム時代には縁が無かったカメラであった。

<かつては手が出なかったA-1が手元に>

●CanonFDマウント

CanonFDマウントはその前身となるFLマウントの改良版だが、その際にシャッタースピード優先AEを前提として、従来からある「①絞り込みレバー」に加えて「②絞り値伝達レバー」と「③Aマーク伝達ピン」が追加された。

なお、①は撮影時に絞込む力を伝達するレバー、②は絞込む量を制御するレバー、③は絞りが"A"にセットされていることをカメラボディ側に伝えるピンである。なお「④開放F値伝達ピン」は、レンズの開放F値を伝えることにより、レンズごとに異なる「②絞り値伝達レバー」に対するF値の位置を補正させるために用いる。

CanonはこのFDマウントによりカメラボディ側から絞りが自由に制御できるようになり、撮影者が任意にセットしたシャッタースピードに対応する絞りを自動的に制御する、いわゆるシャッタースピード優先AEの「Canon EF」が登場した。

<シャッタースピード優先AE機の代表、Canon EF>

一方、Nikonマウントは絞り優先AEのためレンズ側の絞り設定値をボディ側へ送るだけであり、カメラボディ側から絞りを制御する仕組みを必要としなかった。単純に「絞込みレバー」があるのみ。そうやって登場した絞り優先AE機が「Nikomat EL」であった。

<絞り優先AE機の代表、Nikomat EL>

●両優先AEの時代

「シャッタースピード優先AEが偉いか、あるいは絞り優先AEが偉いか。」
かつて、カメラ雑誌を中心にしてユーザー間でこのような論争が持ち上がった。どちらかを選ぶということは、メーカーを選ぶということである。シャッタースピード優先AE派ならば自ずとCanon、絞り優先AE派ならは自ずとNikonとなった。

そんな時、両方に対応した両優先AEカメラが登場したことにより、その論争に終止符が打たれた。それが、Canon A-1だった。
A-1は、シャッタースピード優先AEに加え、絞り優先AE、そしてプログラムAEを搭載していた。それを可能としたのはFDマウントのおかげである。

両優先方式では、シャッタースピードと絞りの両方ともカメラボディ側で自動制御できることが求められる。ボディ側に存在するシャッターを同じボディ側で自動制御するのは何の苦労も無い。しかしレンズ側に存在する絞りをボディ側から自動制御するためには、マウントに絞り値を制御するためのレバーが無ければ不可能。そのレバーを持つCanonFDマウントでは問題無く両優先AEが可能となり、NikonFマウントではレバーが足りないため苦労することになる。

●A-1のAE制御方法

一般的なAE撮影での操作として、シャッタースピード優先AEでは、絞り環を「オート」にセットしてシャッタースピードを撮影者が任意に選ぶ。
一方絞り優先AEでは、シャッターダイヤルを「オート」にセットし、絞り環を撮影者が任意に選ぶ。つまり、カメラで操作する場合とレンズで操作する場合があるということになる。

しかしながらA-1の場合、シャッタースピードも絞りもどちらもカメラ側の「ATダイヤル」で操作するようになっている。ボクは昔から、このことを不思議に思っていた。

<ATダイヤルでシャッタースピードを設定(シャッタースピード優先AE)>
<ATダイヤルで絞り値を設定(絞り優先AE)>

その理由は恐らくこうだろうと思う。
CanonFDマウントの場合、「絞り値伝達レバー」が絞り制御(ボディ→レンズ)にも、絞り値伝達(レンズ→ボディ)にも使える。もし上記のような一般的な絞り優先の操作を実現させるならば絞り値伝達(レンズ→ボディ)とし、シャッタースピード優先の時には絞り制御(ボディ→レンズ)に切り替える必要がある。このような、動かしたり動かされたりの切り替えは、不可能ではないとしても機構としては大変だろうとに思う。恐らくA-1ではコスト的に厳しかったのではないだろうか。そこで、1つだけ選ぶとすれば、絞り制御(ボディ→レンズ)のほうになったのではないかと思う。

このようにすれば、シャッタースピード優先AE、絞り優先AE、両方ともボディ側でセットする操作体系となり、レンズ側は常に「オート」のままにしておけばよいので、絞り値伝達(レンズ→ボディ)が無くても困らない。

<いつでも絞りは"A"のまま>

A-1のこの手法は、どんなモードであろうともレンズ側の絞り設定は"A"のままとなるわけだが、「それならば絞り環は要らないのではないか?」という発想に繋がり、現在のようにレンズ側に絞り環が無いものが主流となったのである。そういう意味では、このA-1というカメラは現在のカメラに通ずる重要なマイルストーンと言っても良い。

なお「ATダイヤル」とは、Av=ApertureValue(絞り)、Tv=TimeValue(シャッタースピード)の両方を設定するダイヤルという意味であり、切り替えレバーを操作することでAv/Tvの切り替えが行われる。

●レリーズ方式

A-1は「電磁レリーズ」と呼ばれるシャッターボタンを持っているが、これは単なる電気スイッチに他ならない。なぜ当時「電磁レリーズ」などと大げさなことを言っていたのだろうか。
(※レリーズ:リリース、解放という意味)

<電磁レリーズ>

それ以前のカメラでは電子式シャッターであろうとも、シャッターボタンのほうは機械式のままで、シャッターの先幕を押さえておく係止(留め金)をシャッターボタンを押すことで払いのける構造だった。
そのため、テンションのかかった係止を外すにはそれなりに押し込む力と押し込む深さが必要で、シャッターボタンを押す感触は悪かった。

これはなぜかと言うと、電子式シャッターのルーツはスローシャッター用の機械式ガバナーをコンデンサー容量式の電子カウンターに置き換えただけのものだったからだ。要するにシャッターが電気式というのと、シャッターボタンが電気式というのは直接は関係ないということである。だからCanon EFでは、ガバナーを必要とするX接点以下のスローシャッターだけが電子式という中途半端な仕様だった。
(※機械式ガバナー:「ジー」という音がする歯車式遅延装置)

しかしA-1では、シャッターボタンを電気スイッチとすることで、極めてスムーズで軽い押し心地を実現した。
そのためには先幕の係止を外すのも電気式にしなければならないのだが、小さな電池の電力ではテンションのかかった係止を外すのは困難であるしタイムラグも発生するため、先幕はマグネット(永久磁石)であらかじめ押さえておくことで係止とし、撮影時はマグネット周囲のコイルに電流を瞬間的に流してマグネットの磁力を相殺させて解放してやるという構造としている。

<A-1のシャッター制御用マグネットとコイル>
<先幕の解放方法>

後幕のほうは先幕とは逆に、電気を流したコイルで吸着させておき、タイミングを計って電気を切れば後幕が解放される(そのため、長時間露光時は電池を消耗してしまう)。

このようにシャッターレリーズを電気スイッチ化することで、これまで機械式のピンで連動させていたモータードライブも電気接点だけあれば良いし、またリモート装置との相性も良いのが大きなメリットである。

ただし電池が無くなると単速ですらシャッターが切れなくなるという大きなデメリットもあった。
これまでは電子式シャッターのカメラでも単速であればシャッターが切れていたのだが、CanonのAシリーズは完全に電気依存のカメラとなってしまった。

●フィルム巻上げ

当時からA-1の巻上げレバーはゴリゴリして重いという評判だった。確かに今試してみると重いのだが、Aシリーズ以降のCanon機は全体的にゴリゴリをが強いように感じる。
ただしそれ以降はワインダー内蔵式カメラばかりで、巻上げレバーを持つカメラは現れなかった。

●ファインダー内情報

A-1では、ファインダー内情報表示にLED(発光ダイオード)が使われている。「LED」と言うと、最近は照明器具として登場してきたので新しい技術だと錯覚してしまうが、赤色LEDは50年以上前から使われており、CanonではEFで既にパイロットランプとして採用されていたので珍しいものではない。しかしA-1ではアレイ状にLEDが組み込まれ、セグメントのデシタル表示を実現しているのが画期的だった。当時A-1は「電池食い」として有名だったが、もしかしたらこのLEDが消費電力を高くしていたのだろうか?

●プラスチックボディ

A-1のトップカバーはプラスチック製であるが、黒塗装のため安っぽさは無い。確かに塗装で覆ってしまえば金属であろうとプラスチックであろうと同じ表面になるだろう。しかしながら当時のプラスチックはABSのようなエンプラではなかったせいか、ぶつけると割れてしまうというのが欠点である。なお、電子回路にノイズが混入するのを防止するためか、プラスチックボディの内側は銅メッキを施してある。

<プラスチックボディには見えない>

●A-1の軍艦部

改めてA-1を眺めてみると、軍艦部の造形が見事である。
なお「軍艦部」というのは、かつてのバルナックライカなどの操作部分がまるで軍艦(恐らく大正時代の駆逐艦など)の艦上構造物に似ていたためそう呼ばれた。一眼レフでは初期のものでも軍艦部とは呼べない形状なのだが、このA-1では「軍艦部」という言葉がピッタリくる。

<A-1の軍艦部>

●AE-1Pとの共通点

A-1は、その後のAE-1Pとの共通点が多く、パームグリップやワインダー、モータードライブなどが共用できる。しかしながらAE-1Pではファインダースクリーンが交換できるもののA-1では交換できない仕様になっている。ー眼レフカメラとしては、ファインダーはもう少し凝って欲しかった。
ちなみに、ほとんど使わないと思われるアイピースシャッターを搭載している。

<モータードライブMAを装着>

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