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「旬」の生産者

つくづく、ワインが買いにくい時代になったと思う。

止まらない円安や有名生産者のワイン価格の上昇も勿論だが、自分に必要なワインを吟味することが、年々、難しくなってきているように思う。

フランスやイタリアのような伝統産地では、ワインの「格付け」がそれなりに決着しており、自分の好みに合うか、価格に対して適正な味なのか、吟味するための材料が豊富にある。

こうした産地のワインで事足りる時代であれば、小売店や専門家の適切なアドバイスに基づいて必要なワインを選ぶことは難しくなかっただろう。ただし、円安やアジアの購買力の増大と相まって、今や伝統産地のワインの多くは価格が大きく上昇し、好事家には縁の遠い存在になりつつある。

次善の策として、新興産地に関心を向けたくなるが、そうした産地の「相場」を掴むことは容易ではない。カリフォルニアやオーストラリアを例にとっても、国内では新旧の生産者や市場動向に関する情報発信が十分とは言えず、まだまだ消費者や専門家、小売店の間で理解が進んでいるとは言えない。

例えば、「Kistler Sonoma Coast pinot noirが美味しい!」という記事を見たとして、そもそもKistlerがどの程度の生産者なのか、Sonoma coast pinot noirは単一畑のワインと比べてどう違うのか、自分は求めている味わいなのか等々、詳しい人でなければこうした点を吟味することが難しい。

あるいは、「新興産地のワイン特集」、「3000円までで美味しいワイン」、「食事に合わせるなら」のように、執筆者によって編集された二次情報に頼ろうとうすると、かえって自分の好みに合うワインを探しにくいように思う。

そこで、最近は自分にとって「旬」な生産者を追いかけることが良いのではないかと思うようになった。

新しい産地や領域に分け入る時に、惹きつけられる生産者に出くわすことがある。ラベルや生産者の写真、ニュース記事、ワイン会での出会い、知人やSNSの紹介等、きっかけは様々だが、心躍る新しい出会いがあれば自分で新領域を開拓する動機が生まれてくるだろう。何より、自分以上に自分の好みを知る存在はない。

そういう「自分にとって旬な生産者」を見つけることが、ワインが買いにくい時代には重要ではないだろうか。

Sandlandsは私にとってそうした生産者の一つだ。折に触れて閲覧していWineBerserkers.comでも度々言及されていた他、一部で熱狂的に支持されているRaj Parr氏がSandlandsと親交を深めている様子をSNSで発信する等、今注目の生産者だ。

Sandlandsは、Turleyのワインメーカーを務めるTegan Passalacqua氏のプライベート・ブランドで、カリフォルニアで忘れられた古樹を持つ畑のワインを適正価格でリリースしている。価格に対して優れた味わいという意味で、同産地では他の追随を許さない生産者でもある。

白桃、レモン、グレープフルーツ、ライム。美しい酸、抑制的な果実味。綺麗なアフター。王道の白ワインと言って良い。 複雑性では高級ワインには劣るが、「高級ワインの入口」に位置付けられる価格帯のワインに求められるハードルを大きく引き上げている。

これまでにも、サンソー、メンシア、カリニャン等、知名度に比して魅力的なワインを作ってきたSandlandsだが、今後Michael Black vineyardからMerlotをリリースすることが分かっている。

「推し」の動向からしばらく目が離せそうにない。

今日のワイン:
Sandlands Clarksburg Chenin blanc 2022
92+pts
https://sandlandsvineyards.com

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