肉を切らせて骨を断つ 7/1 神戸vs札幌


7/1(土)に行われたJ1の神戸vs札幌。イニエスタの神戸最後の試合として注目が集まった一戦だったが、試合は札幌ペースで進んだ。札幌ペースを呼び寄せたのは札幌のマンマーク守備だった。結果は1-1。セットプレーから神戸がなんとか追いついた。

フォーメーションは神戸4-1-2-3で、札幌3-4-2-1。試合中のシステム自体の変更はなく、攻守での可変も見られなかった。

札幌の強気のマンマーク戦術

札幌は攻撃がフォーカスされることが多いチームだが、この試合は守備が特徴的であった。特徴的と言っても複雑性はなく、最もシンプルな戦術の一つと言える「マンマーク」であった。神戸のCBとアンカーに対して、札幌の前線3枚を当てる。全ポジション1対1のマンマークを作り出した。

メリットとしては相手に自由を与えないこと。フリーでボールを持てるのはGKのみであるため、ハマれば相手の攻撃を無効化できる。
デメリットは体力消費が激しいこと、個人能力差の対決となること、スペースが生まれやすくなること。特にスペースに関しては大きなデメリットになる。FWが落ちてくれば、そこにスペースが空き、走り込めば簡単に裏を取れる。前半の15分頃のパトリッキの決定機はまさにその形だった。

個人的にはデメリットが多い戦術だが、札幌はそれを徹底して90分間戦った。
チームとして非常に明確なビジョンを持てているはずだ。そして、それを落とし込み、全員がやるべきことを徹底するのは、チームの文化としての根付きを感じる。監督のサッカーを長期で熟成させてきた札幌だからこそできる戦術であり、チーム・選手・監督の信頼関係が見える。

この試合ではこのリスクある戦術がハマった。神戸は攻撃を組み立てることができず、前半ほとんど攻撃が機能しなかった。
打開策としては「能力差」「スペース」が鍵になってくる。これこそ神戸が今シーズン軸としている「大迫のポストプレー」だ。

攻撃でもリスクをとる札幌

札幌がリスクをとるのは守備だけではなく、攻撃も同様だった。札幌は攻め方もはっきりしていて、それはメンバーを見れば分かる。
前線3枚はスピーディーにゴールへ前進できる。サイドは広く張り出し、個人で突破してクロスやカットインからのシュートを果敢に狙う。中盤は素早い押し上げから攻撃に厚みを持たせる。DFは狙った場所へのロングボールで素早い展開を行う。

基本はカウンター的な攻撃が多い印象で、前線のスピードが大きな役割を果たしている。が、適当に前に蹴ってスピードを使うということはほとんどしないことは驚きであり、監督の拘りを感じる。
DFラインからビルドアップを行うのだ。攻撃に入った時の準備のために、DFラインへのフォローなどの動きはあまり見られず、DF3枚と中盤2枚でなんとか剥がすと言った形である。敵にハマってミスすることもしばしばであり、失点まで繋がるケースも多々ある。

なぜそんなにリスクのある攻め方をするのか?
自分としては2つ理由を考察した。
1つ目は再現性である。適当にボールを蹴るだけでは、相手の守備によって上手く行く時いかない時が大きく分かれてしまう。そうではなく、自分たちがやるべきサッカーを持つことで、どんな相手にも自分たちのサッカーを展開して、同様のチャンスを作り出すことを目指しているのではないか。
2つ目はカウンターを作り出すため。札幌はカウンター的なスピーディーな攻撃を得意としている。その状況を自分たちが作り出そうとしているのではないか。自陣に相手を取りに来させて、相手の後方の人数を減らし、スペースを作っているのではないか。
こうすることでいつでも自分たちが得意とする攻撃を展開することができる。

まさに肉を切らせて骨を断つ戦い方である。

神戸のハイプレスからの失点

肉を切らせて骨を断つのは神戸の守備も同じだ。今シーズンはハイプレスからのショートカウンターが得点パターンの一つになっている。

ただ、この試合に関しては、そのハイプレスが失点の引き金になってしまった。
この日の札幌の得点は、ある程度余裕を持った状態での右サイドからのクロスをGKが飛び出してパンチング。パンチングがすらす形となってしまい、相手FWの目の前へ。それを押し込みゴールという形だった。

が、注目すべきは「なぜクロッサーがある程度余裕を持った状態だったのか」である。結論を言うと、マークが一人ずつずれてしまい、サイドへのプレスが遅れたからである。
ではなぜマークがずれたのか。それはハイプレスに失敗したからである。
札幌の田中が中央にドリブルしてCBへバックパス。そのバックパスに神戸の山口がハイプレスのスイッチを入れる。山口が出たことで、山口が元々見ていたマークが外れる。その近くには札幌の田中と、そのマークをしていた神戸の汰木がいた。山口は汰木がカバーをしてくれると思って出たが、汰木は2人のマークを見ることができずに田中だけをマークした。結果、山口の元々マークしていた選手へとパスが通って、フリーで前に運ぶ。そこから1人ずつマークがずれていき、右サイドへとボールが運ばれていった。

ハイプレスをする以上、ハマらない場合も多々あるため、仕方ないが、このシーンもハイプレスが失点の要因となってしまった。もちろん、その後のリカバリーでなんとかなることもあるが…

神戸の交代メンバーの失敗

この戦い方に対して神戸はどう対処しようとしたのか。
先発に大迫がいなかったため、ハーフタイムで大迫を投入する。これは札幌守備の打開策としては最適解だと思う。

交代したのは汰木。この交代だけでの判断ではないが、個人的には汰木の不在が大きく響いた印象だ。
大迫に当てる戦術をするべきだとは思っていた。ただ、それは「大迫の裏のスペースをスピードのある選手がついて一気にゴールに向かう」攻撃のためだと考えていた。大迫がロングボールをもらってそれをバックヘッドで裏へ流すという形をイメージしていた。
従って大迫はやや落ちながらロングボールを受け、かつ、その後ろに広大なスペースを作り出す必要があったため、GK→大迫→武藤のようなシンプルな攻撃をすれば良い。
しかし実際にはSBやウィングからのボールが多く、スペースは生まれなかった。ボールは保持できるが、決定的なスペースへの侵入までは至らなかったという後半だった。終盤には大迫が組み立てに参加して、クロスに遅れて入るという形まで見られたことから、戦い方として明確な指示は無かったと感じた試合だった。

だとするとフィニッシャーでゴリゴリ進むパトリッキよりも、パス、ドリブルを使いながらタメを作れる汰木を残すべきだったのではないか。

それでもセットプレーから1点をもぎ取った神戸には勝負強さを感じた。苦しい試合を引き分けにできるかどうかはリーグ戦では重要なことである。

最後に

リスクをかけながらの攻防は非常に新鮮で見応えのあった90分だった。試合終了時にほとんどの選手が倒れ込んでいたことからも、この試合の消耗度が見て取れる。

自チームの強みをどう活かすか?

それをチームとして体現することの重要性・面白さを感じた試合であった。

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