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柚木麻子『barきりんぐみ』(fromほろよい読書)

入院中のお供に買ったは良いものの、そんな余裕はなくずっと放置したまま読めずにいましたが、やっと最近子どものお昼寝タイムに読書をする余裕が出てきたので読みました。

出会い

ほろよい読書という題名に惹かれたのは、ずっと禁酒をしていたからかもしれません。ワインも日本酒も飲みたい。おしゃれなカクテルも飲みたい。そんな欲望からこの1冊を手に取っていました。

おいしいお酒を飲むように、1編ずつじっくり味わって。
ただし、短編の最後であるこちらの作品だけはビールをがぶ飲みするかの如く一気読みしてしまったので印象深いです。

ほろよい読書にはさまざまな人気作家さんたちによるお酒にまつわる短編が5つ入ったアンソロジーなのですが、一番好きだったのがこの『barきりんぐみ』でした。子どもを持つ前だったら、『初恋ソーダ』のほうが刺さっていただろうと思います。笑

ほろよい読書の他のお話は別でまたまとめようかしら。

『barきりんぐみ』のあらすじ

バーテンダーで遊び人の主人公・有野はコロナ禍で暇をしているとき、大学の同級生でちょっと苦手ながさつ女子・大塚から、ギャラ有りでzoom飲みでバーテンダーをしてほしいと頼まれる。有野はおしゃれ女子会を期待し、ちょっとした下心で臨むものの、いざ入室するとそこは「きりん組」のパパママ達の愚痴大会だった。

…このしばらく連絡を取っていない間にがさつな同級生がママになっている、というのがなんだかリアリティがあるなぁと思いながら物語に引き込まれました。

感想

大塚のキャラがとても魅力的。有野とは真逆の価値観を持っていそうな愛情の深そうな女性で、モテそう。こういうママ友達がいたらいいなと思いました。
有野にとって苦い思い出だったあだ名の真相が明らかにされたときはほろっと泣きました。勝手に被害者意識を持って傷ついてしまうことってあるよね、青春時代って。20年近い誤解が解けてよかったです。

また、令和の保育園事情らしいなと思ったのが、同性の事実婚や国際結婚、親世代の年齢もバラバラなこと。
柚木麻子さんは『おいしいごはんが食べられますように』が好きだったんですが、リアルな人間関係を描くのが本当にお上手ですよね。あっちはドロドロした陰湿な感じだったけど、こちらは温かみのあるパパママたちの横のつながりがリアルに描かれていました。
zoom飲みのガヤガヤした雰囲気を小説で表現できるのがすごい。

そして一番刺さったのは有野がふとさまざまな夫婦模様をzoomで目の当たりにした時に、自分が一度として女性にヒステリーや不安をぶつけられたことがなく、恋した女性の眉なし顔も見たことがないと気付くシーンでした。たしかに、主人公がしているような独身男女のおしゃれな恋愛って、例えば温泉旅行しても女子はちょっと早く起きてすっぴん風メイクを仕込んだり、男子も部屋を入念に掃除しつつも「連れ込む気なんてなかったんだけど」風を装ったりとぬかりなかったりしすよね。それって恋愛の楽しい部分だったりもします。

しかし、いざ夫婦になって子どもが生まれたら、すっぴんの髪の毛ボサボサなまま子どもの面倒を見たり、服だって子どもの世話をしていたら汚れたり伸びたり。そんな姿を晒しあうことになります。でも、それを「だらしがない」とか「所帯じみている」といったネガティブではなく、主人公の目からはポジティブに捉えているのがいいんですよね。

恋愛のきれいなだけのときめきも楽しいものだけど、刹那の関係になったりもする。一方でいろいろな顔を見せ合い、きれいごとだけじゃない夫婦の関係がとっても尊いものに描かれているのが印象的でした。

主人公の有野がいつか深い関係を誰かと築けるといいなと願うばかりです。

まとめ

先にも書きましたが、このお話がここまで刺さったのって、自分が子持ちになったからなんだろうなぁ、と思いました。そして最近所帯じみてきたなぁと鏡を見ながらネガティブな気持ちになっていたことを肯定してくれたのがこのお話だったこと。

ほろよい読書自体、1編がとても短くどれも読了感の良いさわやかなお話が多いのであまり読書をしない人にもおススメです。
他にも離婚する夫婦の話、甘酸っぱい青春の話なども収録されています。

ただし、妊娠中や授乳中の方、ダイエット中で禁酒中の方は絶対お酒が飲みたくなるのでおススメできません。笑


莢子


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