ホタテ

実家に戻って四半世紀を過ぎた。
父・喜朗とは当初から衝突が多く、何度家を出ようと思ったか知れない。
悲しいかな自活する生活費を捻出できない身ゆえ、ここまで来た。
喜朗の角はどんどん落ちてきてしょんぼりしているようにさえ見える。
依然の様にぶつかっていては高齢者虐待になりかねない。
 
夕食時、喜朗と私は発泡酒を一缶分け合って飲む。
母・澄子はウイスキーのロックを小さなグラスに一杯。
澄子「やっぱりお酒は疲れが取れるねえ」
喜朗「…ホタテ?」
澄子「うん。お酒」
喜朗「今日、ホタテ食べてないべ」
ホタテ…食べてないし、誰もホタテの話してないよ。
 
私は食卓で二人に挟まれてこの会話を聞いている。
言葉は挟まない。
余計ややこしくなり、最終的に三人そろって疲弊することを学習したから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?