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【名盤伝説】 "PRISM / S.T."(1977) 日本のフュージョン界の先駆け 待望のデビューアルバム。

お気に入りのミュージシャンとその作品を紹介しています。日本のフュージョン界の先駆けPRISMの1977年リリースの1stアルバムです。

1970年半ばにはまだフュージョンという言葉はなく、クロスオーバーと呼ばれていました。ジャズ、ロック、ラテンなどジャンルの様式に拘らず、様々な音楽的な要素が混じり合い、それまでには無かった斬新なサウンドを模索するアルバムが続出した時代です。

当時のジャズ界は特にしきたりが厳しいようで、個人的にはジャズの作法についての詳細は知識はありません。ジャズテイストと評するだけで、その界隈から猛反発されるという妙な時代でした。当時ロックばかりを聞いていた私でしたが、ギターソロの格好良さとか、プログレ系の特徴でもある長いインスト部分などは素直に受け入れていました。

とはいえ歌が全く無いとか、テーマもそこそこにアドリブばかりで延々とソロが続くジャズとか、渋すぎるブルース系の冗長なソロには、多少の抵抗がありました。

しかしそんなインスト曲の魅力に目覚めさせてくれたのが、ロックギタリストの大御所Jeff Beck。1975年リリース『Blow By Blow (邦題:ギター殺人者の凱旋)』という、なんとも勇ましい邦題がつけられたアルバム。硬軟取り混ぜた全曲インストもので、当時はまだ高校生だったロックファンの私にもこのアルバムは衝撃的でした。しかも、よく分からなかったボーカルの無しで何気にジャズっぽい構成も、あのBeckが演っているというだけで、飽きることなく聴き通せました。

そんな頃、高校の音楽仲間の間で「凄腕のジェフ・ベックのコピーバンドがあるらしい」との噂が流れました。日本人でギタープレイを中心に聴かせていたのはCHARCREATION竹田和夫くらいしか知らなかった私達でしたが、この噂には興味津々。いつかは聴いてみたいと思っていたところ、当時新宿西口の大ガードの先にあった新宿ロフトウエストでライブがあるとのこと。高校の仲間数人でこっそりと見に行きました。この日1stは和田アキラ森園勝敏、2ndは竹田和夫ブルースセッションというプログラム。私のライブハウス初体験。地下にある鏡張りの壁の細長い潜水艦の艦内のような店内は、大人なお兄さん達で溢れる薄暗い音楽空間。そこにいる自分に酔いましたね。

当時のチケット発掘しました。裏面にはオーダーのBeerの文字。
時効ということでお願いします(汗)。

その後に何処からか、かなり高音質なPRISMのライブ音源がカセットで回ってきました。そこにはベックの『Blow By Blow』の曲やサンタナの「哀愁のヨーロッパ」、さらには彼らのリリース前の1stアルバムの曲も収められていました。

そして同年に待望のアルバムがリリースされます。遂に出たぞと、仲間内でこぞってコピーに励んでいた・・・そんな懐かしい高校時代の思い出のアルバムです。

1977年リリースの1stアルバム

参加メンバーは和田アキラ(G)、渡辺建(Bs)、久米大作(Key)、伊藤幸毅(Key)、森園勝敏(G)、鈴木リカ徹(Drs)。四人囃子で名前は知っていた森園もメンバーとしてクレジットされています。

内容は全編ギターを中心としたインストで、彼らの初期の代表曲のオンパレード。爽やかな「Morning Light」、サンバノリの「Cycling」(カセットでもお客さんから「ノリ曲演奏して」とリクエストされていました)、泣きのギターが沁みるバラード「Love Me」など。録音は時代を感じるものの、今でも機会があれば演奏したいと思う、魅力たっぷりのアルバムです。

そんなPRISMですが、その後数々のメンバーの変遷があります。個人的には初期も良いのですが、青山純(Drs)が参加していた時代のライブが案外好きです。

和田アキラの過激でギラギラした早弾きと、渡辺健の優しいフレットレスベースの織りなす特徴的なサウンド。大袈裟なリフと感動的なテーマがPRISMならではの魅力なのだと思います。
そんなPRISMの他のアルバムなどについては別の機会にご紹介したいと思います。

残念なことに和田アキラは2021年3月に敗血症による多機能不全で帰らぬ人となります。私が彼を最後に観たのは2018年4月6日に中野サンプラザで開催された村上ポンタ秀一の”音楽境地”のステージ。松岡直也や深町純などの曲を演奏しながら、PRISMの曲は1曲も取り上げられず、しかも病み上がりで終始俯いたままの立ち姿で弾き続ける様に、寂しさを感じました。

時代はかなり違いますが、30年前のポンタがPRISMの魅力を存分に語る動画がありました。咥えタバコで演奏する様子に時の流れを感じますが、この界隈の人たちの仲の良さがよく分かる内容になっています。このメンバーの中で既に3人が鬼籍に入られました。教授も含めてあの世でセッションできるだけのメンツが揃ってしまうなど、未だこの世の住人としては寂しい限りです。
だからこそ、こうした音楽の良さを次の世代にも引き継がなくてはと思います。

この記事のタイトルでPRISMのことを「日本のフュージョン界の先駆け」としましたが、四人囃子Sadistic Mika Bandからの高中正義なども、後先関係なく、先駆けの一員だと思います。そんな時代のことについても追って紹介したいと思っています。

こちらの記事も宜しければご覧ください。


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