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技の盗用とオマージュによる盛り上がりの違い

プロレスでは、レスラーの必殺技にそのレスラー独自の技名がついているものがある。

名前がついている技には

・多くのレスラーが使う基本的(?)なワザだが技を出すレスラーによって名前が異なる技
(例:ラリアットは、長州力さんが使うと『リキラリアット』、鷹木信悟選手が使うと『パンピングボンバー』といった感じ)

・レスラーがオリジナルで開発した技
(例:内藤哲也選手の『デスティーノ』、高橋ヒロム選手の『TIME BOMB』など)

このうちの後者の技については、本人以外は使わない、というような暗黙のルールがある。

しかし今、この後者の技である、飯伏幸太選手の『カミゴェ』が、とあるレスラーにめちゃめちゃ使われてしまっている。

その暗黙のルールを堂々と破って、更にそれをネタに飯伏選手を挑発して盛り上げているのが、"ジェフ・コブ"選手である。

ジェフ・コブ選手は、元々飯伏選手と同じユニット(新日本プロレス本隊)であった。しかし裏切って今は違うユニットにいる。
レスリングのオリンピアンであるので、身体能力が素晴らしい。投げ技はもちろんのこと、体重110kgでその場飛びムーンサルトとか飛べちゃう。
かなりの破壊力をもった技もいくつも持っている。だから他人の技なんか使わなくたってスリーカウントが取れる技をちゃんと持っている。

しかしそのコブ選手がある時から飯伏選手の"カミゴェ"を様々な選手に使い出した。

そのうちにコブ選手が使う"カミゴェ"は"コブゴェ"と呼ばれるようになった。
そのことは飯伏選手の耳にも当然入っていた。

その"コブゴェ"が初めて飯伏選手の目の前で出されたのが2021.5.24。目の前でタッグパートナーに繰り出されたのであった。

その時の飯伏選手の試合後のコメント

相当ムカついているであろう。

飯伏選手がこのカミゴェを誕生させるまでには相当な生みの苦しみがあった。
そのことについて語っているインタビューがある。
(19分43秒ぐらいから)

飯伏選手は他のレスラーがやっていない技を新しく生み出すために、多くのレスラーの技を研究したのだと思う。長く続いているプロレス歴史の中では、もうありとあらゆる技が存在しているであろう。その中で全くのオリジナル技を編み出す。中々に大変であろう。

そんな中で誕生した『カミゴェ』

ネーミングには2つの意味が含まれている。

飯伏選手が"神"と崇めていた棚橋弘至選手との試合で初めて使って、それがフィニッシュホールドとなり初めて棚橋選手からシングルで勝利をおさめたから。
"神を越えた"という意味。
その時の映像がこちら。
(55秒ぐらいから)

もうひとつの意味は、同じく尊敬するレスラーであった中邑真輔選手の必殺技である『ボマイェ』(ランニング式膝蹴り)からのオマージュ。

だから『カミゴェ』と名付けられた。

そんな想いの詰まったカミゴェを、コブ選手はいとも簡単にパクッた。何回も。本人の目の前でも。

挙句の果てには、本人にも喰らわしてしまったのである。

自分の開発した必殺技でやられてしまう。

屈辱以外の何ものでもないであろう。

目の前でタッグパートナーに出された時を経て、今度は自分が貰ってしまう。
身体のダメージの何十倍もの心のダメージがあったであろう。

そこから2人の間の抗争は急激に激しくなった。
そして6/7大阪城ホールでの2人のシングルマッチが発表された。

そのシングルマッチ前の最後の前哨戦での試合後、2人は怪獣大戦争な大乱闘を繰り広げた。

なおこの乱闘の後、飯伏選手は興奮がおさまらず、丸2日眠れていないらしい。
(元々睡眠時間が少ない選手ではあるようだが…)

プロレス界でご法度とされている"他人の必殺技をパクる"ということが、ここまで発展して盛り上がるっている。
もちろん飯伏選手とコブ選手だから、ということはある。
でもこれが『カミゴェ』という飯伏選手のオリジナル技であるからというところも大きいであろう。

G1クライマックスで2年連続優勝を決めたのもカミゴェ。

デビューして16年目でやっと、小さい頃からの夢であったIWGPヘビー級のベルトを初戴冠した時スリーカウントをとったのもカミゴェ。

それぐらい飯伏幸太選手にとってはカミゴェは大切な技なのである。

だから、なんとしてでも6.7大阪城ホールでの試合は、飯伏選手に勝利して欲しい。
これまでで一番の最高の"カミゴェ"で。


ところで、他人の技を使うのは全てがパクリだとは言わない。
その選手への敬意やオマージュの意味で使われることもあるから。

その例のひとつが2016年のG1クライマックス決勝でのケニー・オメガ選手(現アメリカAEW所属)が出した技であろう。

ケニー・オメガ選手はこの試合で他のレスラーの技をいくつか繰り広げた。

自身が所属するユニットであるバレットクラブの、初代リーダーのプリンス・デヴィット選手の『ブラディサンデー』
バレットクラブ前リーダーのAJスタイルズ選手の『スタイルズクラッシュ』

最後は自身の技である『片翼の天使』でスリーカウントを奪ったが、それに繋がるまでの大事な場面で、かつての仲間の技を使った。

この試合でのケニー選手が放ったこれらの技は"パクリ"ではない。明らかにオマージュである。それはケニー選手の試合後のバックステージでのコメントでもわかる。

以前失った仲間のことも、忘れることはいけない。 アイツらがいなければ、俺は今ここまで来られなかった。 BULLET CLUBのおかげで、俺は初めて外国人選手で 『G1』 を制することがで きた。 だから、これは俺の勝利じゃなくて、 BULLET CLUBの勝利だ。

なお、この試合ではもうひとりのレスラーの技も出された。
それは先のカミゴェの話で出てきたDDT時代からの盟友である飯伏幸太選手の技、『シットダウン式ラストライド』である。

ケニー選手は飯伏選手に憧れてカナダから日本にやってきた。DDT時代から『ゴールデン☆ラバーズ』というタッグチームを組んでもいた。

盟友でもあり良きライバルでもある2人。

しかし、新日本プロレスに来てから2人の距離は離れた。様々な憶測が飛んでいるが、本当のところは2人しかわからない。

そんな関係性になっていた中でケニー選手が飯伏選手の代名詞と言われるこの技を使った。
G1クライマックスという世界一過酷ともいわれているプロレスのリーグ戦で。
そのG1クライマックス初の外国人レスラー優勝をかけた決勝戦で。

ケニー選手には何か想いがあってこの技を使ったに違いない。しかし、試合後のバックステージコメントで、この飯伏選手のシットダウン式ラストライドを出したことについて記者に聞かれた際のコメントは…

記者「試合中、シットダウン式ラストライドなど、技を出していましたが?」
ケニー「ノーコメント。次の質問」

コメントしても、自分の想いが正しく伝わるとは思わない、と考えたのではないか?
自分がこの技に込めた想いは大切なもの。だから自分の中にだけ置いておけばいい、
と思ったのではないかな?というのはあくまでも私の想像。

その想像にいたったひとつの記事がある。
プロレス界では有名な東京スポーツ岡本記者が書いた記事だ。
岡本記者はケニー選手とも飯伏選手とも非常に親しい間柄の記者である。だから、ケニー選手の本音がここにあると思う。

他人の技を使うにしても、ケニー選手みたいなのであれば、温かい感じで盛り上がる。そしてファンには頭の記憶だけではなく心にも温かい記憶が残る。

プロレスラーのオリジナル技は、レスラーにとっては料理人の包丁みたいなものであろう。
何年も手塩にかけて育て、それで商売をしている。

プロレスを盛り上げるためとはいえども、その包丁であるオリジナル技にはリスペクトがあって欲しいと思う。



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