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血と汗とチョーク汚れと土汚れ、そして2週間の垢と美しい日々の記憶(Bugaboos 遠征記6)


Snowpatch Spire
Sunshine Crack  5.11-


No.434がルート


毎回、B-S colから戻ると目に付くラインがある。  

Snowpatch北面最上部に1本だけ真っ直ぐに伸びるクラックだ。あれはなんて言うルートかなと通るたびに調べようと思いながらベースに着くと忘れていた。

さて8/21、残り3日。計画していたルートも完遂し、さらに追加で登ったため成果としては上々だった。しかし、残り3日、ダラダラとベースで過ごすのは勿体ないというのが僕らの考えだった。何登ろうか。あんまり遠くに行くのもだるいな。でも、同じ山は登りたくない。トポと2人で睨めっこしているうちに、哲からSunshineはどう?ときた。  

確かにありだな。グレードは?   

5.11-。

おおぉ、結構攻めるな。正直、どこかで敗退するかなと思い、それなら全部登ったという今の気持ち良さで終わりたい気分もあったがイケるところまでと承諾した。

8/21
8:30にベースキャンプを出て、9:10に取り付き。薄々感じていたが雲行きが怪しい。遠くで低い音が聞こえる。¹スクランブル区間を通過し、荷物をデポして、垂直の世界へ。

1P目の5.10+。 
哲がリードする。オフィズスが後半あり、哲は叫んでいた。そこに追い打ちをかけるように空から水が落ちてきた。なんとか突破し、ビレイ解除のコール。上から「どうする?続ける?」と。流石に雨の中で5.11-を登るのは厳しい。「帰ろう!!」と返事。上から懸垂で哲が戻り、ベースへと逃げ帰った。

8/22
昨日の夜にどうするか話し合い、リベンジすることにした。ただ、やはり僕の中で不安はあった。おそらく昨日の雨でルートは濡れている。不安というよりも怖かった。 

7:50にベースを出発。
8:50にロープを結んだ。

(1P目こうすけ(Ⅳ))
ガレガレの脆い岩場を²トラバース。

(2P目哲(5.10+))
昨日敗退したピッチ。オフィズスパートもスムーズに通過。流石だ。


(3P目こうすけ(5.10-))
フィンガーからワイドを10mほど。そこから、フィンガーのトラバース。足は³スメア。後、少しのハングを超えピッチを切る。このピッチをオンサイトしたことで僕は気持ちが入った。絶対に登る。

(4P目哲(5.10+))
ハンドクラックからコーナーのハンド・フィスト。

(5P目哲(5.10+))
薄被りのフェースを登り、さらに小ハングを少し左から巻くようにフィストサイズのクラックを登る。巻いたとしても薄被りでフォローとしてはしんどかった。


(6P目こうすけ(5.11-))
ワイドからチムニーの小ハングを超え、さらにフィンガーのハング越え。まぁ、怖い。2個目のハング越えはカムを固め取り、一気に体を上げた。



(7P目こうすけ(5.9))
さっきのピッチからの5.9のため、簡単に感じる。フィンガーの薄被りからハンドサイズのフレークをたどる。


(8P目哲(5.9))7P目の続き


(9P目哲(5.10))いよいよ、いつも下から見上げていたクラックへ。今いる壁は北面だ。日は当たらない。しかし、この時間になると太陽は上がり、最終ピッチは日の中へと伸びる。

まさにSunshine Crackだ。

まっさらな垂壁に真っ直ぐに伸びたクラック。ただひたすらに美しかった。登りたいと言い出したのは哲だ。最後は哲にロープを伸ばしてもらう。


フィストサイズを40mほど伸ばして、そこからフィンガーで少しトラバースしフレークを登ると終了点。

いつものようにビレイ解除のコール。そして、余ったロープが引き上げられ、「登っていいよ!!」と声がする。

最後のクラックに手を入れた。怖くもあり、でもとても楽しい。いいクラックだ。フォローだけど、生涯忘れないピッチになると思う。哲が近くなった。


「やったな!!」
「俺ら全ピッチ、⁴オンサイトじゃん!!」

16:20、セルフビレイを取った。
やった。登った。最後にして、最高の気分だ。久々に体の奥底から嬉しさがこみ上げてくる感覚がした。いいクライミングだったと思う。



5分ほど、景色を堪能し懸垂に取り掛かる。懸垂は簡単だ。来た道を戻るだけ。8回ほど懸垂をこなし、途中絶望的なスタックを挟みつつ18:35に取り付きに戻った。

8/23
次の日のために少し荷物整理した以外は本当に何もしない一日だった。

下山


8/24
とうとう帰る日が来た。憂鬱だ。もう終わってしまうのか。10日間を超える内容でここまで帰りたくないと思える山行は初めてだ。

7:00に起き、ダラダラと準備をする。底が濡れたテントの中から装備を全て引っ張り出し、太陽光に当てる。乾かしている間に装備をまたモンスターザックに押し込む。

一人のアメリカ人が「今日帰るのか」と話しかけてきた。いくつか言葉を交わしたあと、「パッキングが終わったらコーヒー飲みにおいでよ」と誘ってくれた。もちろん「YES」と答えた。

彼は、アラスカで漁師をしているソロクライマーだった。それぞれの国の山について、どんなスタイルの遊びが好きなのか、それぞれの文化について語り合った。すると、スマホから一つの写真を見せてきて、「今度このルートの初登を狙っているんだ。でも、パートナーがいないんだよね」と言ってきた。半分冗談交じりで、「いないなら俺らを誘ってくれよ」と伝えると、「もちろん誘うよ!」と返ってきた。

9:30 彼と別れを告げ、仲良くなったいくつかのパーティとも挨拶を交わし、下山を始めた。帰りは走った。振り返らないためとか、別れを感じる暇を自分に与えないためとか、そんな感動的な理由じゃなく、コーヒーを飲み過ぎて迎えの時間に遅れそうだったからだ。40キロの歩荷でトレラン。虎之助さんに迎えられ、パーキングに戻ってきた。行動時間1時間半。早い。風呂なし2週間の野郎2人がいきなり車に乗るのは申し訳なく、とりあえず雪解け水の小川で水浴びをした。




とてつもなく短く感じられ、血と汗とチョーク汚れと土汚れ、そして2週間の垢と美しい日々の記憶を得た山行が終わった。




長い間Bugaboos遠征の記録にお付き合いいただきありがとうございました。後半は、以前書いたものを編集するだけで飽きてました。

ただやはりBugaboosはいいですよー。
氷河を歩き、十数ピッチのクライミングをして山頂へ。
そんなルート、日本にいくつありますか?
ルートも様々です。アルパイングレードから高難易度のグレードまで様々なクライマーを楽しませてくれます。

しかし、残念ながら2022の冬にSnowpatch Spireが崩壊してしまい、Sunshine Crackは消失してしまいました。恐らく我々が最後に登った日本人でしょう。

さて、次回からはYosemite遠征編と日々の思いをつらつらと書いていこうと思います。これ読んでいる人はよっぽど暇だと思います。是非お付き合いを


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さぁ!! 新作です!
アメリカ遠征編スタートしました 必視です!

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最近は秋のクライミング・アルパインをあげています。
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¹スクランブル
:クライミンググレードの中でもローマ数字で表現される簡単なクライミングが続く区間。かといって侮るなかれ。たまにとんでもない内容が潜在していることがある。欧米人はおおよそフリーソロで登り、5.9といったグレードで落ちている人も稀にいる。

²トラバース
:横移動のこと。縦に移動するより難しい…と感じる。最近だとグレートトラバースという言葉をよく耳にするのでは? そう、あのN○Kでやっている番組です。

³スメア
:足を置く場所が無くなったときの最終手段。何もないところにシューズを押し当てて、摩擦で乗る?技。よくわからないよね。私も同じ気持ちです。

⁴オンサイト
:クライミングにおいて最も価値のある登り方。実際に試し登りをして情報を得るのではなく、初見で1発で登ること。詳しいオンサイトの定義は人によって様々なんで気になる方は調べて☆

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