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血と汗とチョーク汚れと土汚れ、そして2週間の垢と美しい日々の記憶(Bugaboos 遠征記4)

つづき

South Howser tower  
Becky Chuinard

8/17
2:30に起床。
いつもと打って変わって、テキパキと朝の準備をする。

3:30にテントを出た。 
昨日の偵察でアイゼンはいらないと判断し、軽い足取りでサクサクと下る。月の明かりが強く、ヘッデンはつけなくてもいい。幻想的な光に照らされたリッジは美しかった。ガレが強くなるとヘッデンを着ける。人工の光によって一気に視界が狭くなり、少し残念。



4:40、偵察で見たリッジに取り付く。

1P目哲がリード。
やけに難しい。トポだとⅤくらいのはずだが…。 

2P目、こーすけ。
右も左も難しそう。とりあえず右へ。¹オーバーハングの²チムニー。明らかに5.7じゃない。では左へ。こちらも弱点が全くないガラスのような垂壁。

これルート間違ってね?しょうがないから開始点に戻り、トポと睨めっこ。なんか登っているリッジの形状がBC稜の手前のミナレットに似ているな。

んんっ?いや、これ登ってるの違うルートだろ!!

伏線回収。実際は奥にあるリッジがBC稜であった。とりあえずすぐに懸垂開始。もう6時だ、少し焦る。哲の120㎝スリングを残置して、60mいっぱいで取り付きまで戻った。氷河に戻り、気をとりなして本来の取り付きへ。およそ45分くらい。8時にロープを結び、頭の片隅で³ビバークを考えながら最初の⁴ジャミングをキめた。

(1P目哲(Ⅴ))ちょっとした乗越を超えて、簡単だけど汚いクラックを50m

(2P目こうすけ(5.7))3本ほど並んだクラックの真ん中を登る。ハンドからフィンガーに45m

(3P目こうすけ(5.10-))ワイドからハンドへ移行し、小ハングに入る。ハングを超えるとハンドからオフフィンガー 


(4P目哲(5.8))左上するハンドからカンテを超え、別のハンドへ 

(5P目こうすけ(5.8))フィンガーを伝い、短い垂壁を超え、少し寝ているハンド・フィストのコーナークラック

(6P目哲(5.8))コーナークラックの続き。ビバークできるテラスに着く。実際、ビバークしたであろう跡がいくつかあった。


(7P目こうすけ(5.6))チムニーからハンドを辿り、小テラスへ。

(8P目哲(5.8))垂壁に真っ直ぐに伸びたハンド・フィスト。

(9P目哲(5.10-))フィストサイズのコーナーを6mほど上がり、ハンドサイズのクラックを登る。1箇所クラックがなくなり、おそらくA0用のピトンが打ってある。もちろんフリーで抜けた。ハンドを抜けるとフレームのようなフィストサイズを登りテラスへ。このピッチからgreat white headwallになる。


(10P目こうすけ(5.9))フィストサイズのコーナーを15mほど登り、垂壁の浅いフィンガーを登る。高度感も凄く、自分に“大丈夫、イケる!”と鼓舞して登った記憶がある。

(11P目哲(5.9))ワイドクラックを登り、被ったハンドを登る。ここはフォローも怖かった!!

(12P目こうすけ(5.8))快適なフィストサイズをサクッと登る。

(13P目哲(5.7 A0))物凄い高度感の中でプロテクションの取れないフェースを錆びた1本のピトンから伸びたボロボロスリングを掴み、5mほどトラバース。見ている方も怖い。もちろんフォローも!! トラバースを終えるとガリーを登る。

登りきったところで一度右へ20m懸垂しスクランブル区間に入る(14~16P目哲→こうすけ→哲(Ⅴ~Ⅳ))

今まで登ってきたところと比べればちょろい登りをコンテとスタカットを交えて登る。テントを出て15時間半。

ようやく山頂が見えた。15P目は僕だった。まだロープはあるし、なんなら最後は歩けるかもしれないがトップへは哲に譲ることにした。いつもはそんなことはあまり感じないのだがこのルートに関しては哲がいないと絶対に登れなかったと感じ、お礼がしたかった。



ラスト1ピッチ。いつものようにATCにロープを通し、コールする。TOPにさしかかるとき、カメラを回すことを忘れたためちょっと待ってもらう。“いいよ”と言い、数分後哲がTOPに立ち、雄叫びを上げた。僕もそれに答える。日はまだ高いが現地時間19時近くを回っていた。僕も引き上げてもらう。TOPを踏み、チョークと少しの血と土汚れの混じったボロボロの手で固く握手した。



さあ、ここからは長い長い懸垂。トポを見ると11回と書いてある。日が暮れるまで後3時間ほど。暗闇の中での懸垂だけは避けたかった。19:30下降開始。序盤で少々迷い、一度登り返したが直ぐに正規の下降ルートを見つけ、ガンガン降りる。


結果2時間ほどで11回の懸垂をこなして21:30に氷河に降り立つ。後はベースまで氷河を駆け下りるだけだ。20分ほどランニングというクールダウンを行い、21:50にベースに戻った。



この日のディナーは、食料を持っていておらず、チーズ1ピースとカルパス2本。「焼肉だな」と嬉しそうに白い歯を見せる哲が印象的だった。



youtubeやってます。
秋ですね~。秋といえば何よりもクライミングの秋!
ということで、瑞牆のマルチをご紹介。ぜひ参考に

インスタグラムもやってます。
9月に行った海外遠征の記録が徐々に投稿されるかも?
要チェックです

https://www.instagram.com/sansaitori_online/?igshid=MmIzYWVlNDQ5Yg%3D%3D


1.オーバーハング
:岩がせり出し、90°を超えるような覆い被さる形状をしたもの。登る際、兎に角、腕が疲れるし怖いしでルートの核心になることが多い。
クライマーは「この岩かぶってるね」と言いがち。
反対に傾斜が緩い岩は「この岩寝てるね」 *全然崖です*

2.チムニー
:人が全身入ることができる岩の割れ目。ひたすらに体のどこかを岩に押し当てて登る。登れば擦り傷確定。

3.ビバーク
:緊急野営。テントがあれば神野営。寝袋も持っていない・食料も持っていない状態で崖にいると…。

4.ジャミング
:岩の割れ目に体の一部を突っ込み登る技術。指サイズから体がすっぽり入るサイズまでを、フィンガー(指)ハンド(手)フィスト(拳)オフィズス(体半身)チムニー(体全身)と分類できる。
キまると気持ちいい////



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