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小学校の思い出 9 バスのボタン

「降ります」のボタンを押そうとゆっくり腕を伸ばして、もう少しでボタンに触れるというところで他の人が押した音が鳴った。
その時にふと思い出した。

小学生の時、バスに乗るとたいていの子どもが必死になって「降ります」ボタンを押す競争をしていた。
みんなどうしても自分が鳴らせたかった。
たまたま何人かで乗って、最初から誰が早く押すか、やろうぜという時まであった。
降りる一つ前の停留所ですでにみんなボタンに触れて待っている。
一応ドアが閉まってから、がルール。というか当然だ。
高校生や大人は黙って押すのを譲ってくれていた。
中学生は押すことがどうでもいい子が大半だったが、中には後ろを振り返ってニヤニヤ笑いながらバスが出るのを一緒に待ち構える中学生もいた。
もちろん私たち小学生は撃沈だった。
「意地悪なお兄ちゃんやね」と私の話を聞いて母が言っていたが、まあ私たち小学生にだけボタンを押す権利があるわけでもない。
そもそも公共の乗り物で、ボタン押し競争をするほうが問題ありだ。と今なら思う。

それにしてもなんであのボタンがそんなに人気だったのだろう。
押すとチンという金属音がして運転席の後ろにある「つぎ、止まります」の文字の背景に電気がつくだけだ。文字に電気がつくのではなく、文字の書かれたプラスチック板に電気がつくだけ。
音もトライアングルや鐘のように綺麗に響くわけでもなくて、自転車のベルを鳴らそうと指を手前まで少し動かしたところで指が滑って鳴らし損ねたような音だった。チンというよりチグっという感じ。
綺麗な音がして文字版もキラキラしたり回ったりするなら面白そうだが本当にいったいあれの何がよかったのだろう。謎だ。

今はそんな競争をするような光景は見たことがない。
子どもがあまり乗っていないのと、乗ったとしてもボタンに興味もないだろう。持っているスマホのほうが気になるだろうしなあ。

なーんて昔の光景を懐かしんで締めくくろうとしたのだが帰りのバスで、子どもが3人も!
そして1人はお母さんに頼まれて、やっぱり嬉しそうにボタンを押していた。

わーい、仲間だね。


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