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認知症の母 17万円の行方 その2

「認知症の母 17万円の行方 その1」の続きです)

 母がデパートで購入した高額アクセサリーを返品するために、急遽仕事を半日休み、実家に行きました。仕事は忙しい時期で、本当は休みたくなかったのですが、なるべく早く返品する必要がありましたので仕方ないですね…。

 母は前日の電話でのやり取りをすっかり忘れていました。昨日、どこへ行ったか、17万円を預金からおろして何をしたか、も忘れていました。認知症が進行し、ここ1年以上印象に残ったこと以外は、新しい記憶の保持は難しくなってましたので、想定内です。
 体調は良いようなので、お金の話をしても理解できると判断しました。すぐに忘れるとしても、この場では返品に同意し、一緒に出かけてもらわないとなりません。

私「昨日電話をした時は、お金をおろしてアクセサリーを買った、って言ってたよ。そのアクセサリーはどこにあるのかしら?」
母「そんなこと言ってた?う~ん…。探してみる。(貴重品をいつも入れてる所にないか、探し始める)」
母「あった!」
母が小さな箱と、保証書、レシート等を持ってきました。指輪!サイズ直ししていたら、返品できない!レシートは指輪の保証書と共に保管してありました。
私「お母さん、この指輪、16万5千円もするんだね。今、こんな高額な物を購入する余裕はあるかしら?」
母「(通帳を見ながら)私の貯金を使って、何を買うか私の自由。まだ貯金はある。」

 私は4年前のカード会社とガス会社等の督促状を見せ、4年前に貯金は0(ゼロ)だったこと、4年間かけてようやく貯めた貯金であると説明しましたが、督促状なんてもらっていないと言います。督促状の現物を見せても効果はありませんでした。
私「じゃあ、4年前に貯金が全く無かったことは、とりあえずおいておこう。今ある貯金額を確認しよう。」
 母は17万円をおろした際に記帳していなかったので、ネットで最新の取引記録を印刷し、それを見せました。
私「お母さんが死んだら、お葬式をあげないとならない。(生協の家族葬見積書例を見せて)家族葬でもこのとおり90万円以上かかるの。お骨を遠く離れた郷里の墓に入れないとならないから、その費用も必要だね。家族で行くから最低○○万くらいはかかるね。死ぬ前に普通は病院にお世話になるよね、入院費用も必要、〇〇万くらいは必要かな。さぁ、全部合わせていくらになるかな?」
母が暗算ができなかったので、紙に足し算を書き出し、一緒に合計額を確認しました。
私「今の貯金で、足りてる?」
母「…足りない。葬式しなくていい。」
私「お母さんがしなくていいと思っても、やらざる得ないの。しないと世間や親戚が私を許さないの。お金足りないね、我が家は息子の教育費が無茶苦茶かかったから、貯金はありません。お母さんがお金を遺しておかないと、葬式も納骨も入院費用も出せないの。」
母「…。家を売ればいい。」
母の常套句、“家を売る”の登場です。
私「家を売るには何か月もかかるの。最短でも半年くらいかかる。葬式も入院費用もすぐに支払わないとならないものばかり、現金を用意しておいてもらわないと困るの。そもそも、お父さんが遺してくれたこの家は売らない。」

次に生活費の話をしました。
私「お母さん、年金は毎月いくらもらっている?」
母「毎月じゃなくて、2ヶ月に1度振り込まれている。」
母から具体的な年金額は出てきませんでした。
私「今、年金でひと月あたり、○万円もらっているんだ。これからマンションの管理費、水道ガス光熱費、固定資産税等でひと月あたり〇万円かかる。 
これを引くと、○万円。ここから食費やデーサービスの費用、生きるために必要な費用を払うことになる。指輪の値段はこれより高い。ひと月に使えるお金より高いものを買っていいのかな。」
母「…。」

 これ以上、母を追いつめると逆ギレするので、逃げ道の提案です。
私「お母さんが○○デパートで高額アクセサリーを購入したのは、昨日わかったので、デパートに返品できないか、電話で相談をしました。物を見ないと返品可能な商品か分からないので、お母さんと一緒に物を持って来てくださいと言われました。」
母「昨日買ったばかりだから返品できるわよ!返す!」
母はすっかり返品モードになり、返品が受け付けられない場合もあるという説明は耳に入らなくなりました。とにかく返品に同意したからヨシとしよう…。

 母と一緒に物を持って、早速デパートへと出発です。返品に行くということを忘れられると困るので、着くまで4~5分おきに、これからどこに何しに行くのか、何度も確認。デパートに着く前に銀行のATMで通帳に記帳し、17万をおろしたことも一緒に確認しました。
 約束した時間にデパートの売り場を訪ねると、アクセサリー売り場のマネージャーさんが既に待っており、すぐにレシートを確認し、商品を買った売り場へと移動しました。母は返品モードを維持しており、騒ぐこともなさそうだったので、個室ではなく売り場で返品の確認をすることになりました。
 母の指輪購入に対応したスタッフがいて、母が新聞の折り込みチラシを持って、購入する気満々で売り場を訪れたことを教えてくれました。前々から母は新聞の折り込みチラシを見て、そのデパートに出かけることが多く、実家に行ったときはチラシが目立つところに置いてあると処分するようにしていました。いつものパターンが復活したのか、恐ろしい…。

 商品の状態に問題がなかったため、返品OKとなり、商品代金を取り戻すことができました。事前に電話で相談していたため、手続きはスムーズにおこなわれ、デパートのスタッフの皆さまには感謝しかありません。
 この返品騒動を母にちゃんと覚えておいてもらいたいですが…、無理か…。通帳と銀行のキャッシュカードを母に持たせておくのは危険なので、適当な理由をつけて一ヶ月ほど私が預かることにしました。このまま預かったままでいたいですが、通帳を持つことへの執着はとても強いので、約束どおり来月には返さないと、電話で返せコールを何度もしてきそう…。

 つかの間にはなりそうですが、母の通帳と銀行のキャッシュカードを預かることが出来、いつも抱えていた“母が貯金を勝手に使い果たしたらどうしよう…“という不安から解放され、無茶苦茶ほっとしました。母がいつでも預金をおろせる状況が、私に大変なストレスをもたらしていたことがわかりました。

 精神科の主治医にこの件を報告したところ、この先何か起きたときに法的に母を守る必要があるので、既に結んでいる任意後見人の契約を発動することも検討しては、とアドバイスをもらいました。この先誰かにだまされて、高額の契約にサインすることもあり得ます。どうしたらいいものか…。

 


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