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夏の思い出。小学校受験生とその家族が見た景色。

「夏の思い出を一つだけ選んで!まるっと急速冷凍してあげる。レンジでチンすると新鮮なまま味わえるよ!」

そう神様が言ってくれたら。
きっと2022年の夏を選ぶと思う。

✏️2022年7月私はお受験塾にいた

今日も外は35度を越えている。
抱っこ紐ではまだ0歳10ヶ月の次男は少し眠そうにボケっとしてる。 
都バスに乗りこむやいなや長男はまっしぐらに後部座席へ。
最近よく一緒になるおばあさんが今日も挨拶してくれる。

紺色の鞄と靴袋を持つとそのまだ小さな体は大きく揺れてバスから降りる足取りもおぼつかない。
着いた場所はビルの7階。
感染予防のためトイレで手を洗う間立って待つ。
抱っこ紐が肩に食い込んで痛い。次男が寝た。

トイレから出てきた長男は裾からシャツが出ていてハンカチを折り畳んでポケットに入れるのに永遠に時間がかかっている。
受付に背を向けてこっそりシャツをズボンに入れハンカチもポケットに入れる。
エレベーターで到着する子ども達が次々に入室する。

検温したら長男を促し一緒に揃っておじぎをする。
「こんにちは!」

✏️夏期講習とは?

ここは小学校受験で半世紀以上の歴史がある塾の一校舎。
年長の新年度、つまり前の年の11月から通う長男は終電に飛び乗ったのごとくの入会、つまり新参者だ。
もう何年も通っている子達は流れるように上履きを履き下履きを靴箱にしまって「行って参ります」と送りの家族に挨拶している。
長男は先生に応援され、もたもたとそれに続く。

保育園を休んで夏期講習に来ている。
1週間は面接特訓と工作。その後の1週間は面接特訓と工作と運動とペーパー問題。
お弁当を持って雨の日も風の日も通った。
なんと10時から16時まで年長児が研鑽する。
難関校クラスの子はプラス1時間。

面接特訓が親子の日は次男はベビーシッターさんに預けて夫と3人で来る。
新参者の長男だが毎日家でも勉強するし土曜日は小学校のオープンスクールに行く。
月曜日は保育園を早退しダンス教室も行く。
試験に模倣ダンスがあるからだ。

夏期講習が終わるとじきに土曜日は直前講習が始まる。
夏から小学校受験界の流れは一層加速するように感じた。
土曜日は小学校の行事や模試が重なるから塾は振替えて水曜日に、これまた保育園を早退して来ることになる。
結局、試験の本番が終わるまで実に80回、一度も行きたくないと言わず塾に通った。
それどころか、試験本番の後に行った最後の授業のあと、もう行けなくなるのは嫌だと言った。

✏️夏期講習までの道のりを振り返って

塾へは、嫌がらなければ通い続けよう。
小学校受験は別にしなくてもいい。
座って先生のお話が聞けて、鉛筆やハサミが使えるようになって、なんなら絵が少しだけ上手になればいい。

そう考えていた。

なにせ、保育園で先生には集団生活における問題を指摘され、区の施設で発達検査まで受けたし、保育園で絵が展示されると長男のそれは周囲と同年齢の子が描いたと思えぬ産物だったのだ。

それがどうか。
超名門と言われるところではないが、私立小学校を無事に複数受験し、ご縁もいただいた。

両親とも地方出身、大学も地方。
母親に至っては人生で私立の学校に行ったことすらない。

塾に入りたての頃は出来ないことだらけで先生に大層心配された。
月一の模試で0点の項目もチラホラあった。

「お母様。周りがみんなできて自分だけ出来ないのは辛いでしょうから、家でも練習してあげてくださいね。」と先生に優しく励まされ、自作素材で道具や積み木の練習をしたり自作問題をやらせたり、まさにオーダーメイドの対策をした。お友達が使う問題集は難し過ぎて、真っ赤になった授業プリントを機嫌がいい日に一問だけ、一緒に解いた。

いつ塾から辞めた方がよいですよ、と言われるか、長男からもう行きたくないと言われるかヒヤヒヤした。着いていけなさすぎて迷惑になって途中で迎えに来て下さいと呼び出しがかかるかもしれない。幼い子に挫折感や劣等感を植え付けたらどうしよう。

そんな心配をよそに、毎週の教室へは嫌がりもせず、遅刻もすることなく通った。思い返すと、むしろ楽しいと言っていた。
冬と春の特別講習はまだとても参加できる状態ではなかったが、出来る事も増えてきてゴールデンウィークの特別講習をやり切り、夏期講習の申込をするに至った。本番まで途切れることなく続いていた毎日のプリント学習の記録を遡ると始まりは3月。夏期講習の申し込みをした頃にはとっくに周りの子と同じ問題集を解いていたのだ。

✏️小学校受験、やってみよう!

受験まで見据えておらず、次男の育休は6月で切り上げようと思っていた。
しかし、夏期講習の申し込みをしたとき決めた。

お受験、やってみよう!!

育休を延長して、私はお受験ママになった。

夫がいない日は次男を抱っこして長男の塾の送り迎えをした。
長男を保育園へ送り、塾で先生との面談をして、保育園に長男を迎えに行き、塾へ送り、終わる頃塾へ迎えに行き、一番多い時は次男を抱っこして家と外を1日に5往復した。

夏期講習を境に長男の目の輝きが変わってきた。
小学校での体験イベントを楽しんで、ここに行きたい!と自ら言うようになった。受験校に特化した授業のある校舎に遠征したり、他塾の外部模試を受けて、いろんな場所に行けることにワクワクしているようだった。
手をつないでバスに乗ったり電車に乗ったりして、長男の成長を側で見て。
幸せな時間だった。

小学校受験は、中学高校大学と違い、親にも点数がつく。
願書の内容も、小学校でのイベントの訪問回数も合否判断に織り込まれる。
長男の足を引っ張らないように夫と対策した。乳児を抱えて落ち着いて願書や面接の内容を練ることができるのは夜子ども達が寝ている間だけ。
長男の長所は?短所は?どんな大人になってほしい?なぜその小学校で学んでほしいのか?
寝ても覚めても夫婦で考え続け、夜には鉛筆で書いては消して原稿を作った。

✏️夏期講習の思い出を胸に今思うこと

受験は秋だが、ターニングポイントとなった夏期講習の思い出が一番濃く残っている。

毎日の通塾を2週間続けた上に、その前にコロナが保育園で流行って1週間自宅保育したから子ども達と一緒にいた時間がとにかく長かった。0歳と5歳の子どもの面倒を一日中みるのはなかなか大変だ。まだ2人一緒には遊べないし食事は全く別のものを用意するし0歳は授乳も昼寝もある。
けれどとても幸せだった。まさに幸せの塊だ。

私は幼い頃のことを思い出していた。

田舎でエレクトーンを習っていた私を母は最寄りの無人駅から各駅停車で街の駅まで連れて行ってくれた。最寄り駅まで坂を登ったり降ったり30分くらいかかる。背中には2歳下の弟がおんぶされている。
幼い弟を連れて1時間のレッスンの間、フードコートやスーパーの休憩所で時間を潰していたそうだ。
母はいっとき足の親指の爪が剥がれて包帯を巻いていた。エレクトーンの椅子が倒れて怪我をした記憶がある。今思うと私が倒してしまったのかもしれない。怪我をしても小さな弟を連れエレクトーンに連れて行ってくれた。

夏の私が幼い頃の私の母に重なって、もう遥か昔になってしまった思い出が蘇り、温かいような不安で泣きたくなるような、なんとも言えない気持ちになった。
何度も母に会いたくなった。
コロナ禍で祖母の介護をする両親にはずっと会えていない。

受験までの全行程を考えると秋が一番ピリピリして大変だったかもしれない。
それにもかかわらず終わってしまうのが惜しかった。
まだまだ長男の手を引き次男を抱いて、日差しを浴びて夕陽に照らされたかった。
3人一緒の影を眺めていたかった。

物事には始まりがあれば終わりがある。
受験も終わり。次男は保育園に入り私も育休から復帰した。
長男はもう春から一人で電車に乗って学校に通えるほど成長してしまったのだ。
思い出すのは桜が舞う合格を告げるパソコンの画面ではなくて、塾や模試に向かうときに握った手の感触や、送り出した時の小さな背中、勉強に打ち込むときの真剣な眼差しばかりだ。

✏️忘れられない一言

本番の日、受験会場で私は言った。
「ここへ連れてきてくれてありがとう。パパとママにたくさんの素敵な景色を見せてくれてありがとう。」

すると長男は言った。
「みんなで、ちからいっぱい合わせてがんばったんだよ!パパもママも、いまおうちで待っててくれる〇〇ちゃん(弟の名前)も!」

そのとき、正直、試験の結果はどうでもいいと思えた。
家族みんなで力を合わせた経験が長男の人生のどこかで、そしてわずかにでも何かの支えになればそれで充分ではないか。ぜひそうであってほしい。

2022年の夏の思い出。

それはきっと私の人生の支えにもなってくれる。
今後もきっと、子どもを信じて、子どものために何ができるかを考えたらいいのだと気づけたから。

幸せな時間をありがとう。

🌴続編があります。
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