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超過死亡がワクチンのせいだとか言う前にぜひ読んで欲しいこと

人口動態統計月報で2021年の死亡者数が出ました。これまでと少し数字が違ったので修正しながら分析していきます。
2020年の死亡者数は1,372,755人、2021年は1,439,809人。その差は67,054人です。
死因別人数は執筆段階ではまだ10月までなので正確なことは言えませんが、色々データを俯瞰して見ていたら一定の見解に至ったので記しておきます。

世の中にはタイトルのようなことを本気で思っている方がかなりいるようです。特に発信力のある方々の影響が大きいようです。インフルエンサーの皆様はいま一度よくお考えになられてから発信しないと、信頼を失う結果になりますのでお気をつけくださいね。

さて、まずは1950年からの死亡者数の推移のグラフを見てみます。


図ー1 1950年からの日本の死亡者数の推移

戦後、一時期は人口も少なく、1980年頃まではあまり死亡者は増えていませんでしたが、その後、次第に増え始めています。そして2000年頃から概ね年に2万人〜2.4万人くらい、平均して2.2万人程度の増加が趨勢となっています。一応、2000年以降のアップを示しておきます。

この趨勢の最大の理由は高齢化の進展です。医療の進展で寿命が延びた面はありますが、団塊の世代の高齢化もあり増加要因となっています。他にも様々な要素が合わさっての結果です。増加数には東日本の災害死亡者数の約1.6万人なども含まれ、上のグラフにも膨らみが見られますが、一時的な数字のため趨勢の要因ではありません。

このような中、2020年は前年比約8300人の減少となっています。つまり平年並みなら2.2万人増加となるところ、マイナス0.8万人で合わせると約3万人ほど趨勢より少ない年だったことになります。

この理由はいくつかありますが、2020年の初めは歴史的暖冬でインフルが少なかったのに加えて、コロナ対策の徹底がインフルにも奏功し感染者は2020年度はほぼゼロでしたし、その他の感染症も軒並み過去最低水準でした。
また新型コロナの感染拡大に伴い、初めてのことで徹底したリモートワークや外出自粛となり、国民全員が極度に用心したことで、不慮の事故なども含め、亡くなる人は例年になく少なかったと推測されます。

さて2021年についてですが、まずデータを整理します。過去5年位の推移は以下の通り。

     年       死亡者数  対前年増減
2016年    130.8万      1.8万
2017年    134.1万      3.2万
2018年    136.2万      2.2万
2019年    138.1万      1.9万
2020年   137.2万   △0.8万
2021年   143.9万       6.7万
(四捨五入の関係で小数点以下が合わない場合があります)

趨勢と言ってもバラつきはありますが、仮に2020〜2021が平年並みの毎年2.2万人増と想定すると、2021年は、新型コロナがなかったとすれば、2019年の138.1万+2.2万×2=142.5万人となってもおかしくありません。

ややこしいですが、下の図で理解いただけたら幸いです。

図ー2 2015年以降の死亡者数の推移と趨勢との比較(端数の為小数点以下は合わない)

この142.5万人に、2021年の新型コロナによる死亡数の約1.6万人を加え、インフルがなかったので平年並みの約0.3万人くらい差し引くと、143.8万人となります。

つまり、趨勢と新型コロナ、インフル無しの条件だけで 143.8-137.2=約6.5万人の増加は説明できて、実績が6.7万人の増加であるため、残る0.2万人がその他の要因による増加となります。この程度であれば毎年のばらつきといっても良いくらいですが、多少考察してみたいと思います。

ただ、「平年並みと仮定した場合の推測値」と実績値の差のため、数字で個別に定量的な分析はできません。そこで考えられることをあげてみましょう。

あくまで定性的な考察ですが、

直接的な新型コロナによる死者以外にも、医療崩壊による手術の後送りや救急の受け入れがなく救えなかった命など、様々な新型コロナによる間接的な影響や、経済的心理的影響による自死、団塊世代による高齢化の加速、そして毎年の年間死亡者数のばらつき等々、複合的な要因なのだろうと考えています。

また、幸いにも2020年には感染症が過去最低レベルであったため、例年なら感染症で亡くなるところだったのが長生きできたけれど、翌年に寿命を迎えて老衰で亡くなった方もいることでしょう。

高齢者施設や医療機関などで別の死因で亡くなったと認定された方もいるかもしれませんが、死因別のデータを見る限り、それほど大きな変化はないように思います。

巷で、2020→2021の増加分は全てワクチンが原因だとしか考えられないとするトンデモ主張が聞こえてきていますが、そのような大きな数字には統計上なり得ないことはご理解いただけたでしょぅか。

あくまで統計的にですが、複合的な要因や毎年のばらつきもあること考えると、2021年の対前年比約6.7万人の増加という数字は、全くおかしな数字ではないということです。

(年の途中の数字を元に一度記述しましたが、最終的に基礎数字にかなり大きな差異がありました。謹んで訂正いたします。)


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(2022.10.10追記)

こちらに貴重なコメント(ご質問)を頂きました。今年、2022年の2〜3月の大阪府の死亡超過がワクチン以外に説明できるのかと言うというものです。

私の見解は、解答欄の通りですが、改めてグラフなども示しながら説明したいと思います。

ワクチン接種は全国で一斉に始まり、どの都道府県も概ね同じような接種率となっています。もし大阪だけが超過死亡が出ているのがワクチンが原因だとすると、大阪の人は特別にワクチンに弱くて死にやすいということになりますが、そんなことは無いですよね。

ワクチンのせいだ考えるとそのような矛盾が出てきます。

都会部では超過死亡が多めですが、地方の都道府県では顕著な超過死亡は出ていません。ですのでワクチンと超過死亡の関係は都道府県との比較においても否定されます。

それでは大阪は実際どうだったのか。グラフで見て見ましょう。

図ー2 大阪市の新型コロナ関連データの推移
(2021/1ー2021/10)

これは大阪府が日々公表しているデータをグラフ化したものです。期間は2021年1月〜2022年10月です。第4波から第7波までの推移となります。
折れ線の紫が陽性者数(右軸)、赤は死亡者数(左軸)です。
棒グラフは重傷者数で、オレンジは60歳以上の高齢者、青が50代以下の基礎疾患あり。濃い緑は50代以下で基礎疾患がない人の数です。

2021年は大阪では1月から3月は新型コロナによる死亡数はほとんどありませんでした。3月頃からアルファ株による第4波が始まり、大阪府は特に医療逼迫が著しかったため、4月〜6月に多くの方が亡くなられました。

このことは、下の大阪府のこの一年半の超過死亡グラフからも分かります。

大阪府の2021〜2022(7月)の超過死亡

今年の2022年2月〜3月はどうだったでしょう。1月初めから第6波が来て、特に2月から死亡者が非常に多くなっていました。

超過死亡はざっくり言えば過去平均に対して対象年(この場合今年)は死者が多かったのかどうかいう相対的な数字です。特に去年との比較では、大阪では明らかに今年の2月〜3月は新型コロナによる死亡者が増えているのです。

一方で昨年の4月以降、第4波による死亡者が増えましたが、実は今年も4月は第6波による死亡者が多い時期でした。

このため、両年とも絶対数は多いのですが、昨年と今年の差分は打ち消されて少なくなっています。これが超過死亡の特徴です。グラフにあるとおり、今年の4月以降は超過死亡がでていません。無視できない大規模な死亡者数がでているにもにも関わらず、です。

この先第7波の影響が出てくるはずですが、このグラフは6月までですので数ヵ月後に反映されることでしょう。

大阪府の今年の超過死亡数


超過死亡数は相対的な数字であり、新型コロナによる死亡者数の絶対値とは全く異なります。例えば、新型コロナの死亡者数などをテーマとするとき、超過死亡の仕組みを理解していないと勘違いしやすくなります。

最近、多くの賢そうなお医者様や学者様達が、超過死亡はワクチンのせいだと主張されている現状があまりに統計を無視した議論になっているので、今回のノートを作ってみました。

私なら、様々な要因が複雑に絡んでいる超過死亡等は使わず、絶対値を用いて答えを出そうと思います。


以上、まずは全国的に見た過去長期の趨勢の関係と、大阪の直近の個別の動きの2面から、このテーマについてコメントしてみました。

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