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なぜ保護者やコーチは子どものプレイに怒る必要が無いのか

 前回からの続きで、今回は「なぜ保護者やコーチは子供のプレイに怒る必要が無いのか」の中身について、書いていこうと思います。

 まず、そもそも「怒る」の定義について、少し触れたいと思います。怒っている状態って、厳密に定義すると難しくなる気がするので、ここでは簡単に「子どもから見て怒っていると分かる状態」だと定義したいと思います。一番わかりやすいのは、怒鳴っている。怒鳴らないまでも、いつもより声があきらかに大きい、などですかね。それ以外にも、表情とか、身振り手振りとか、子どもが「あぁ、怒ってるな」と思えば、それは大人が怒っている状態だと、ひとまずします。

 その状態になった大人(保護者、コーチ)に対して、子ども(小学生などの、まだ幼い時期は特に)が考えることは、「怖い」です。考えるというより、本能的にそう思います。そうなると、子どもの頭の中では、その怖い状態から逃避すること、逃げることが最優先されます。これは生き物として身の安全を最優先するという、本能による働きなので、誰にでも起きますし、強力でかつ即効性があります。強力で即効性があるので、大人はつい「怒る」という方法を採用しがちなのですが、この方法にはデメリットがあります。1つは行動の変化の理由が「怖いことからの逃避」なので、「怖いこと=怒る人」がいなくなると、行動は元にもどる可能性が高い点です。つまり強力かつ即効性があるのですが、効果は一時的で限定的なのです。子どもがきちんと自分なりに考えて、納得したり気が付いたりして、行動を変化させる方法が「深い理解に基づく長期的な行動変化」だとすると、怒られて行動を変化させるのは「怖さからの逃避による一時的な行動変化」だと言えます。
 
2つ目のデメリットは、怒られることに慣れる(人間はほとんどのことに慣れます)と、怖さが減少するので、効果が無くなるという点です。その結果、効果を得るためには、怒る程度をエスカレートする必要があります。少し大きな声で言えば従っていた子が、怒鳴らないと聞かなくなる、というのは容易にイメージできるのではないでしょうか。これは大人にとって段々苦しくなるパターンです。行き着く先は体罰だったりします。

 ペアレントトレーニングの考え方では、この「怒る」という方法を、状況によって使っても良い場面が想定されています。典型的な例は「子どもがケガをしそうな危険な時」です。車にひかれそうとか、高い所から落ちそうとかですね。この場合は、即効かつ確実に子どもの行動を変化させる必要があるので、怒る方法はとても有効です。ただ、この場合でも、怒った後に、なぜ怒ったのか、落ち着いて分かりやすく、理由を説明することが推奨されています。「怖さからの逃避による一時的な行動変化」から、「深い理解に基づく長期的な行動変化」に移行できるように、フォローする訳です。
 
 さて、ではスポーツ、サッカーの場面ではどうでしょうか?スポーツなので、日常生活よりもケガのリスクは上がりますよね。ただ、それはベースのケガのリスクが上がっただけであって「子どもの行動が理由でケガをしそうな危険な時」、もっと言えば「即効で行動を変えないと、ケガをしそうな危険な場面」というのは、そんなに多くはないのかなと思います。パッと思いつくのは「ふざけてプレイしていて危ない」ぐらいでしょうか。この場合は、怒る対象になるかもしれませんが、同じ様に、怒った後で、なぜ怒ったのかを落ち着いて、分かりやすく伝えることが求められるかと思います。

 ここまで読んでもらうと、理解してもらえると思うのですが、以前の記事で「サッカーのプレイに関して、基本、大人が子供に怒ることは、必要ないと思います。」と書いたのは、「ケガをしそうなプレイ」以外は、怒る対象にはならないと考えるからです。
 ただ、実際に見かける、子どものプレイに怒っている保護者やコーチのほとんどは「ケガをしそうだから」怒っていないですよね。色々な理由があるとは思いますが、煮詰めて考えると、そのほとんどが、「勝ちにこだわり過ぎている」か、単に「他に方法を知らない」か、あるいは両方で怒っているように見えます。
 勝ちにこだわることは、もちろん大切ですが、負けても、子どもはケガをしないですよね(笑)。むしろ、前回の記事にも書きましたが「スポーツの本質的な価値は、勝ち負けという結果にあるのではなく、本気でチームメイトや周りの大人と、遊びに取り組むなかで学ぶ、失敗や成功の体験というプロセスにこそある」と考えると、負ける、失敗するのも、勝つ、成功するのと同じ(かあるいは、それ以
上の)子どもの学びの機会
だったりするので、少なくとも、勝ちにこだわり過ぎて怒るというのは、大人の振る舞いとしては、不適切かなと思います。怒るのではなく、どうしたら勝てるかを一緒に考える、時にはアドバイスもする、失敗した時、負けた時は、一緒に失敗や負けを受け入れて、次の学びにつなげる、というのが期待される大人の役割じゃないかなと、思います。
 さて、では「怒る」のではなく、どうやって「落ち着いて、分かりやすく伝える」のか、「子どもの深い理解に基づく長期的な行動変化」を作っていくか、ということについては、次回の記事で書いてみようと思います。

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