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認知症とガンと父④

抗がん剤の影響で、重度の皮膚障害がでて
しばらく入院していた父も、連休明けに退院し
今日は退院後の再診日でした

母に頼まれ受診に付き添ったのですが
予約時間の1時間前に、採血と胸部X線を受けるよう指示があり
検査を終えて診療科の受付を済ませて待合室で待機

予約時間が来るまでに30分くらい待って
予約時間が来てからも一向に順番は回ってこない…
予約時間を1時間余り過ぎて、ようやく呼ばれました
(まあ、大きな病院はそういうものだとは思いますけど)

診察室に父、母、私の順に入室すると
主治医の医師が私を見て
「今日は娘さんも一緒なんですね」と言われました

「〇〇さん、どうですか」と父に話しかけますが
医師の目は電子カルテを見たままで、父を見てはいませんでした
母が、「皮膚の赤みは引きましたが、まだ掻いています」
と、父の袖を捲りながら答えました

医師は、母に背を向けたまま
電子カルテを操作しながら説明を始めました

今回は副作用が強く出ているので引き続きの治療は困難であること
治療を始める前の胸部X線やCTで見つかった影は、現在見られないこと
血液検査の腫瘍マーカーも正常であること

説明する目は、父でも母でもなく、私のほうを見ています

母は、ずっと抱いていた思いを打ち明けました。
「もう、こんなしんどそうなのかわいそうなんで、治療はしなくていいと思うんです。」
すると医師は、少し振り向きましたが視線は母に届かないまま
「私は、無理に治療を進めようとは言っていませんよ」と答えました
「今回、腫瘍の影がなくなっているのを見るとよく効いていると言えます
このまま、治った状態になる人もいますが、また腫瘍が出てくる人もいます
腫瘍が出て悪さをするようなら、またその時に考えましょう
とりあえず、1か月後にCTを撮ってみましょう」

医師は、診察中、一度も父と母と視線を合わせませんでした
なぜか、私だけが何度も医師と視線が合っていました

医師が診察しているのは父のはずなのに
父の皮膚の状態を実際に触れてみるわけでもなく
病状説明においても、父の目を見て話さない
なぜ、なんでしょう

それは、父が認知症で理解力が乏しいからですか?
言ってもわからないから、本人に言わないんですか?
自分の気持ちを打ち明ける母を見ないのも
自分が言ってほしくないことを母が言っているからですか?

私はすごくモヤモヤしていました
今私が抱いているこの疑念を口に出したほうがいいのかどうか
言いたいけど、言った後の空気を考えてしまい、言えませんでした

「お父さん、先生はね、お父さんのガンは小さく見えなくなってるって
血液検査も、ガンが悪さしている数値じゃなかったんだって
今は薬が効いている状態だから、しばらく抗がん剤はしないって
来月、CT撮って、変化ないか見てみましょうって」
私は、父に医師の言葉を簡単にして伝えました

父が「わかった」と頷いたので、診察は終了となりました


帰宅してから母がこんなことを言いました
「お父さんにぶつぶつが出た時に、先生に皮膚科を紹介してくださいってお願いしたんよね。そしたら先生が、『そんなことでここの皮膚科を紹介しよったら皮膚科がパンクしちゃいますよ』って言うちゃったんよ。
お父さんの皮膚がどうなっとるか、ひとつも診んくせに。
じゃけ、私の知り合いの息子さんが開業しとった皮膚科に紹介してもらったんよ。でも、今回入院して皮膚科も診たんじゃけ、ここの皮膚科で診てもらいたよね。」

・・・
それを、なんで今言うのよ…

もし、それが本当だったら
『そんなことでここの皮膚科を紹介しよったら皮膚科がパンクしちゃいますよ』
抗がん剤投与による有害事象を「そんなこと」と言って
どういう状態なのか目視しないで「皮膚科がパンクする」って
医師が言うことですか?

たとえ、患者家族が高齢者で情弱で視野が狭くても
たとえ、患者が認知症で理解が困難だったとしても
目の前の患者家族はひとりの「人」です
人としての尊厳があり、尊厳は守られるはずのものです

どれほど研究を重ね知識や経験が豊富であっても
医師は患者の上にたつ存在ではありません
ただ、医療の専門家として病気の治療に対して患者家族に助言し、
治療の技術を駆使して病気の快復・緩解に導く「職業」に就いている人ですよね

人から「先生」と呼ばれるようになると
自分の立ち位置が高いところにあると思ってしまいがち…
なのかもしれませんが
いのちに関わる仕事に就くものとして、いのちを、人の尊厳を
軽視しないでいただきたいです

これ以上母に、不信感を抱かせないでください
父や母の心に、寄り添った診療をお願いします

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