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【エッセイ】逃げると、ワニ

地方出身なんだけど、自然には縁遠く育った。
小学校5年生のとき、自然のある場所に引っ越した。
木に咲く花は、すべて桜、草に咲く花は、すべて菊。
理科のテストに、そう書いて、バカにされた。
以来、理科は苦手だ。

通学路には、トカゲが出る。
光っている。
初めて見るトカゲが怖くて、立ち止まり、遠回りして
何度も遅刻した。

トカゲのない所に行こう。
そう思って、大学は東京にした。
授業を終えて、駅に降り立つと、パトカーががなり立てていた。
「ワニが逃げていますので、気をつけてください」
あのワニだ!

駅前のパチンコ店は、道路に面した一面をそっくり水槽にしていた。
そのなかには、ワニと蛇がいた。
蛇は私の胴回りより太い。ワニだって、どんな大きな人間より大きい。

「気をつけろって、どうやって気をつけたらいいのよ!!」
とりあえず、人のいるところにいることにした。

トカゲが怖くて東京に逃げたのに、なんでワニなのよ。
逃げると、敵はどんどん巨大になっていくものみたい。
人生はシニカルなのだ!

だからといって、ワニとどう闘えばいいか、いまだに見当もつかない。

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