真宮書子

小説家志望です。 小説は、ウソの世界です。ウソの世界でしか言えない真実もあります。 ウ…

真宮書子

小説家志望です。 小説は、ウソの世界です。ウソの世界でしか言えない真実もあります。 ウソの世界でしか表現できない思い、気持ちをめざしています。 ぜひ、ぜひ、ぜひ。ご堪能くださいませ。

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嬲(なぶ)る 元同級生

     第一章 一 学生アパートの一夜                                  気づかなかったぜ、まったく。  ウワサの勘違い女が、袖子のことだったなんて。どっちかっていうとおとなしくて、目立たないほうだったもんな。  成績はよくも悪くもなかったんじゃないかな。中くらい。容姿も……、まぁそこそこ、ということにしておこう。何といっても女だもんな、容姿に言及すると、思わぬとばっちりを受けかねない。  好意も悪意も持ってなかったな。思い出すこともなか

    • 【小説】嬲(なぶ)る 29 他人事だって、明日は我が身

           第六章 一 家庭内殺傷事件、勃発  人生を閉じると決めたとき、最後に連絡をするのは誰か。普通に考えれば、一番大事に思う奴だろうな、やっぱ。  衿子の場合は、立浪だった。冴子を3倍の給料で引き抜こうとして、フラれた男だ。爪マニキュア男でなかったのがせめてもの救い。それにしても衿子の周りにはろくな奴がおらん。人生の最期を託したのが立浪だったとは、あまりにも哀れだよな。  約束手形の無断発行がわかったとき、袖子は内容証明郵便を配達証明付きで取引先に出したんだ。  身内に

      • 【短編小説】私はトイレ 

        《あらすじ》  都心にある大手企業本社ビル内の女子トイレ。さまざま女子社員が訪れては、オフィスとはちょっと違った顔を見せている。女子トイレだけが知っている、ありふれた女子トイレ内の日常が、今日もスタートした。  気になるのは、始業まもなく駆け込んできた女子社員だ。昼休みが過ぎ、夕方になっても、ブースに閉じこもったまま出てこない。 《本文》 私は、トイレ。 名前はまだ、ない。この先も間違いなく、ない。 都心にある大手企業の本社ビル37階、東側中央に居座って30年が過ぎた。

        • 【小説】嬲(なぶ)る 28 家族が家族でなくなるとき

           七 お姉ちゃんが壊れちゃった  想像を交えて説明するな。気になるだろう、他人の離婚って。のぞき見根性って、誰の心にもあるもんだからな。  えっ、想像じゃしょうがないって? お前らだって、想像にすぎないことをさも事実かのように噂してるじゃん。  世の中、そんなもんさ。まぁいいから、黙って聞けや。事実も少しは交えているわけで、そう的外れでもないはずだぜ。  藤枝クリーニングの資金繰りが厳しくなり、やがて亭主も察するところになる。  亭主は、保証人から外してくれと言い出したん

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        嬲(なぶ)る 元同級生

          【小説】嬲(なぶ)る 27 家族が豹変するとき

          六 身内に差し込むヤバい影  衿子の亭主が、藤枝クリーニングから手を引いた経緯は知らないんだよな。特段、噂にもなっていなかったからな。  元々いてもいなくても関係ないというか、存在感がなくなっていたんだよな。  資金繰りが怪しくなってからは、衿子は経理も自分でやることが多くなっていた。亭主に文句を言われることが嫌だったんだと思うぜ。  都合のわるいことは何でもナイショにする癖があるからな。  最終的に、亭主がやったのは営業くらいじゃないのかな。それも嫌味や皮肉を言う得意先

          【小説】嬲(なぶ)る 27 家族が豹変するとき

          【小説】嬲(なぶ)る 25 悪女パターンはいろいろ

          五 ありがちな悪女沼  勤め人は誰でも、自分の将来に不安を抱えている。クビになる不安はもちろんだが、ミスをしたときの左遷、同期との出世競争に負ける、減給、上司からの叱責……数え上げればきりがない。 「お前はいいよ、藤枝クリーニングがあるもんな」    藤枝クリーニングが大きくなるにつれて、衿子の亭主も、そう言われることが増えたと思うぜ。  結婚当は街角のクリーニング店にすぎなかったので、亭主も家族の生活は自分で背負う気でいたはず。    しかし大きくなるにつれて、世間は亭

          【小説】嬲(なぶ)る 25 悪女パターンはいろいろ

          【小説】嬲(なぶ)る 24 時代に先がける、コスト

          四 選択制夫婦別姓のずっと前のころ  衿子のもう一つのコンプレックス。そこには袖子が大いに関与してるんだよね。いわば張本人なんだな、これが。  令和の時代界隈では、選択的夫婦別姓とやらがかまびすしい。しかし、当時、バブルもはるか前、結婚すれば同じ姓になる。これ一択だった。  しかも、ほとんどが男の姓に変わるものだと信じて疑わなかった。  おいらの周囲の女たちは、意中の男の苗字に、自分の名前をつなげては心をときめかせていたもんだ。  そんな時代界隈で、袖子の奴。天性の勘違い

          【小説】嬲(なぶ)る 24 時代に先がける、コスト

          【小説】嬲(なぶ)る 23 スーツを着た人が偉い! なんてことはない。

            三  スーツコンプレックス あの年は大雪だったな。東京も大雪にまみれていた。一面の銀世界のなか、実家をあとにした袖子は、以来、実家との音信を一切断った。 「どうしてる、元気か」   親父からは留守番電話に幾度かメッセージが残されていた。  しかし、袖子が返信することはなかった。 「一度口に出したことは、命に代えても実行する」  袖子のことだから、こんな理由だったと思うぜ。売り言葉に買い言葉ってことが通用しねぇんだよな、袖子には。  売り言葉どころか、3歩で忘れるのが

          【小説】嬲(なぶ)る 23 スーツを着た人が偉い! なんてことはない。

          【エッセイ】いくつになっても、恋に悩む

          今は今。 忘れたころに電話がかかってくる友人がいる。 私に用事があるわけでも、会いたいわけでも、ない。 用事があるのは私以外の人であり、会いたい相手も私以外の人だ。 とはいって用事などほとんどない。 用事がないから、困っているのだ。 学生時代、私と友人は、同じ男性に恋をした。 キャンパスでしばしば見かけていた先輩だ。いつもいつも私と友人は先輩を探し、遠くから見とれていた。 ロン毛から覗く鼻筋の通った顔。ベルボトムジーンズに、ヒールを履いた脚はスラリと長い。 「ジュリーよりカ

          【エッセイ】いくつになっても、恋に悩む

          【小説】嬲(なぶ)る 22 何事もナイショにすれば、波風立たず

          二 ナイショグセの恩恵と弊害  衿子の亭主は、高校卒業後、地元企業に就職した。そこで衿子と知り合い、結婚した。  当時は、個人のクリーニング店にすぎず、従業員は2人。1人は、親父が修業時代からの同僚、もう1人は中学を卒業して弟子入りした若者。まぁ、どこにでもある街角のクリーニング店といったところだな。  衿子は結婚後、亭主の転勤にともない、県内外で暮らすようになる。その間、2人の子どもに恵まれ、子育てに専念した。  藤枝クリーニングを手伝うようになるのは、夫が本社勤務にもど

          【小説】嬲(なぶ)る 22 何事もナイショにすれば、波風立たず

          【小説】嬲(なぶ)る 21 亭主と父親、どっちに味方する?

                 第 5 章 一 亭主と父親の板挟み  成長期、体の成長に心が追い付いていかない。肩書の出世に、実力がついていかない。そういうことって、よくあるよな。 藤枝クリーニングの苦境は、そんなところに原因があったと思うんだよね。  元々は小さなクリーニング店だった。農家の5男に生まれた袖子の親父が、クリーニング店の小僧として修業に いつもなら手水までイネの腕をつかんだまま入った。  5年間の修業を終えると、独立して自分の店を持ったってわけ。   そのまま小さなクリーニン

          【小説】嬲(なぶ)る 21 亭主と父親、どっちに味方する?

          【小説】嫐(うわなり) 全編

          《あらすじ》 今から30年余り前、猫も杓子もバブルに浮かれていた。世の喧騒は他人事のように、麦子は人生を一歩も進められずにいた。貴彦を思い切れずにいたからだ。 「話したいことがいっぱいあるんだ」と言い残して姿を消した、貴彦。以来10年以上、音信不通のままになっていた。 貴彦が使っていた方言「なやき」を手掛かりに、旅に出た麦子。そこで出合ったイネという女性の一生。夫に売られ、娼婦として生きた時間も組み込まれていた。 大正昭和の激動期を生き抜き、人生を全うしたイネ。京都、満州、九

          有料
          500〜
          割引あり

          【小説】嫐(うわなり) 全編

          【エッセイ】逃げると、ワニ

          地方出身なんだけど、自然には縁遠く育った。 小学校5年生のとき、自然のある場所に引っ越した。 木に咲く花は、すべて桜、草に咲く花は、すべて菊。 理科のテストに、そう書いて、バカにされた。 以来、理科は苦手だ。 通学路には、トカゲが出る。 光っている。 初めて見るトカゲが怖くて、立ち止まり、遠回りして 何度も遅刻した。 トカゲのない所に行こう。 そう思って、大学は東京にした。 授業を終えて、駅に降り立つと、パトカーががなり立てていた。 「ワニが逃げていますので、気をつけてく

          【エッセイ】逃げると、ワニ

          【エッセイ】逃げるばかりが、能じゃない。

          逃げたほうがいいときもあるけど、逃げないほうがいいときもある。 今はちょっと昔。 嘘つきました、だいぶ昔です。 上京した冬の夜道、いつものように一人で歩いていると、 男性が着いてくるのです。 小学校の壁が続く道で、人通りはありません。 私が走ると、男も走り、私が速度を落とすと、男も速度を落とします。 思い切って振り返ると、ニヤリ。 私は、怖くなって灯りのついている家に逃げ込みました。 常連だった喫茶店のマスターに迎えに来てもらい、そのときは 難を逃れました。 春休みに入

          【エッセイ】逃げるばかりが、能じゃない。

          【小説】嬲(なぶ)る 21 給料3倍でも、働きたくない事業所

          五 春の気配  新しい事務員は、美声の持ち主だった。それも、人並外れた美しさだった。本人も認めている。 「来た人は、事務所内をぐるりを見回すんです。電話に出た人はどこにいるのか探しているんだと思います。私が目の前にいて、応対しているのに。若いときから、そうだったんです。うふふ」  妖精が森の中を軽やかに飛び回るような声で答えた。  冴子の後任探しに、袖子が出した条件は、3つ。 1.大手企業に勤務経験があること。 1.円満な家庭を持っていそうなこと。 1.40歳以上、70歳

          【小説】嬲(なぶ)る 21 給料3倍でも、働きたくない事業所

          【エッセイ】子どもだって、恋に悩む

          やっぱり今はかなり昔。 同級生に恋をした。下駄屋のタケちゃんだ。 タケちゃんは、やや太め。 タケちゃんの書く「た」の字が好きだった。 大きくて、偉そうだったのだ。 「タケちゃん、一緒に帰ろう」 「うん、一緒に帰ろう」  ランドセルを背負って、タケちゃんを促す私に、言った。 「ちょっと待ってね。たみ子ちゃんを呼んでくるから」  ……。 傘屋のたみ子ちゃんと、タケちゃんは幼稚園時代からの 同級生だった。 おまけにタケちゃんちの下駄屋の斜め前が、たみ子ちゃんちの傘屋だった。 私を

          【エッセイ】子どもだって、恋に悩む