【小説】嫐(うわなり) 全編
《あらすじ》
今から30年余り前、猫も杓子もバブルに浮かれていた。世の喧騒は他人事のように、麦子は人生を一歩も進められずにいた。貴彦を思い切れずにいたからだ。
「話したいことがいっぱいあるんだ」と言い残して姿を消した、貴彦。以来10年以上、音信不通のままになっていた。
貴彦が使っていた方言「なやき」を手掛かりに、旅に出た麦子。そこで出合ったイネという女性の一生。夫に売られ、娼婦として生きた時間も組み込まれていた。
大正昭和の激動期を生き抜き、人生を全うしたイネ。京都、満州、九