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第2回<後編>高校野球マニアック地区予選試合展望#第106回全国高校野球選手権大会#北北海道予選1回戦(令和6年7月15日第二試合)#旭川東高校VS帯広大谷高校に注目

「北北海道の偏差値No.1公立校」と「十勝の絶対的王者(私立)」が対戦。

106回を迎える全国高校野球選手権の北北海道予選1回戦の「旭川東」と「帯広大谷」の対戦が面白い。
なぜならセオリーに囚われない「知能」と「才能」が雌雄を決する因縁の一戦だからである。

*前半はこちら


「頭を使うおもしろい野球」旭川東高校

「アメリカの野球は頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつある。日本の野球は頭を使うおもしろい野球であってほしい。」

イチローの引退会見より抜粋

メジャーリーグのデータ分析は行き着くところまで達しており、選手はデータに基づきプレーするだけなので、最終的には個々の才能勝負となる。一流アスリート同士の真っ向勝負は迫力があり、いかにもアメリカ人好みである。
高校球児の大型化も顕著であり「飛ばないバット」の導入等で調整を試みるもパワー偏重の傾向は変わらない。
しかし「柔よく剛を制す」に惹かれるのというのが日本人の趣の深さ。
メジャーリーガーとしてはサイズに恵まれかったイチロー氏は、頭を使い「柔よく剛を制す」野球を「おもしろい」と表現した。

イチロー氏は旭川東高校への直接指導を通じて「頭を使うおもしろい野球」と、「自分を律して厳しくする」という言葉を残し、来期に向けての正しい努力の積み上げ方を伝授した。
旭川東高校は甲子園に向けてのチームスローガンを「自律」とした。
目的と方向性は定まった。
後は合理的に考えて、行動を積み重ねるのみ。

「目的を持って行動し、合理的に考え、効率的に環境と接する能力」
これは心理学者ウェクスラーによる「知能」の定義である。

旭川東高校のセオリーに囚われない「知能」は、イチローイズムを吸収してどんな「おもしろい野球」を披露するのか。
校内にはイチロー氏の打球により割られた窓ガラスが2022年の準優勝盾に寄り添い展示されているという。
そこに優勝旗が掲げられるのは勝利の女神のみぞ知るところである。

「才能の集大成」帯広大谷高校

「才能」の意味を広辞苑で調べると「素質または訓練により得られた能力」とある。

旭川東高校が「知能型」の日本野球なら、帯広大谷高校は「才能型」のアメリカ野球に近い。
2022年、帯広大谷高校に数多くの「才能」が入学する。
その才能は入学して3ヶ月あまりでスタルヒン球場のグランドに立つ。
2022年に旭川東高校と対戦した準々決勝の先発投手は1年生であった。
これだけなら良くある話だが1番セカンド、4番レフト、6番ファーストが1年生である。
先発メンバーに1年生が4名。3番手投手も1年生であった。
練習試合のB戦では無い。あと3つ勝てば甲子園の公式戦である。

それだけ今の3年生(当時の1年生)は入学当初から輝きを放っていた。
帯広大谷高校は甲子園を見据え才能たちに賭けたのだ。
対する旭川東高校はオール3年生。調べた限りでは今回対戦する3年生(当時の1年生)はスタンド応援だったはずだ。

2年後、屈辱のコールドゲームを体感した当時の1年生が3年生になり、ほぼオール3年生チームでリベンジを図る。
「才能の集大成」の年である。
帯広大谷高校の才能世代は経験と訓練の機会を与えてくれた先輩たちのためにも、甲子園以外見据えていない。

「伝統校へのアンチテーゼ」帯広大谷高校

帯広大谷高校野球部は創設当初、同好会であった。
今でこそ甲子園出場校、プロ輩出(日ハム杉浦投手)の強豪私学だが、1997年の創設は、甲子園出場ありきの強化指定部では無く、女子校が共学になったので「野球好き集まれ」的に結集した同好会であった。

指導者も創設当初から変わっていないため、強豪校となった今でも創設当時のマインドは大きく変わっていない。
脱丸刈り、無意味な大声やダッシュはしない等、良い意味でリラックスしたムードなのだ。シートノックも独特でヌルヌルと始まり、キャッチャーフライに至らずスルッと終了する。見方を変えると無意味な儀礼的な流れを削ぎ取ったスマートな印象。
「野球好き集まれ」という原点回帰。
威圧感は無いが、元気はあるという矛盾。
気合いと根性で大声をあげてくる伝統強豪校に「元気を使うベクトルが違うだろ」と言いたげである。

伝統校へのアンチテーゼ。
セオリーに囚われない才能集団。
それが帯広大谷のスタイルである。

イメージに囚われない「知能」と「才能」の対戦(試合展望)

昨秋、イチロー氏が「甲子園まであと3歩も4歩に必要」と話したように見応えのある試合になるには旭川東高校のレベルアップは必須。
「学習の成長曲線」のような急激な成長期が夏に間に合えば、旭川東高校の勝機は十分ある。
具体的には下半身強化による打球速度アップ。
帯広大谷高校の投手陣はバランスが良く継投策により失点を許していないが、絶対絶命時にギアチェンジ可能な絶対的エースは存在しない。
鋭い打球の継続により得点圏に塁を進めることが出来れば、得点に繋がるケースは多いと考えられる。
基礎が固まって無いと「知能」は駆使出来ない。
冬場に取り組んだイチロースクワットの効果は如何に。

一方、帯広大谷高校は春の段階で戦力は円熟。
帯広大谷高校の見えにくい強さはデータ分析班泣かせだ。
150キロ投手や超高校級スラッガーなどの突出した選手は居ないが、試合に影響を与えるキープレイヤーが複数存在し、才能が高いレベルで整っていることから強さが見えにくい。
また秋季(新人戦)、春季の全道大会で南北海道の強豪校と本気の試合をしたことから才能たちの野球IQは進化している。
旭川東高校のデータ分析が帯広大谷高校のアップデートに対応できるかが鍵である。
更にユーティリティプレイヤーが揃っているため、ポジションチェンジも頻繁に行う。セオリーに囚われない大胆な戦術に混乱しないことも重要である。
しかし才能まかせのチームでもあるため、時折、バグが発生する。
その一瞬のスキを見出し、突けるかが攻略の決め手であると推測される。

波乱がなければ才能豊かな帯広大谷高校の横綱相撲になる可能性があるが、旭川東高校が「頭を使うおもしろい野球」を展開することが出来れば勝負の行方はわからない。

「才能」と「知能」の雌雄は7月15日(予定)に決する。

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