AI妄想記(#1):AIに個性を与えろ!行きつく未来はロックマンエグゼ? -「エピジェネティック型AI」を提唱

0.前書き

近頃、生成系AI(Generative AI)についてのニュースを見ない日はありません。生成系AIのインパクトは凄まじく、その影響はAI業界だけでなく、製造業や金融、さらには我々コンサルタントといったビジネスサイド、政治や学術(教育)にまで波及しています。(国や企業の危機、新技術の登場はコンサルの飯のタネです)
いわば、インターネット、スマートフォンに続く第3のパラダイムシフトとも目されているのです。

先週は世界デジタルサミット2023が開催され、人工知能(AI)に代表される新しいデジタルテクノロジーが紹介され、活発な討議が行われました。具体的には、ChatGPTなどのAI、仮想現実(VR)、メタバース、ブロックチェーン、量子計算、光電融合技術といった、Web3.0の分散型ネットワークを代表するような技術について議論が交わされました。

そして今週(というより今日)は、特に生成AIに焦点を当てたNIKKEI生成AIシンポジウムが開催されました。
AI研究の第一人者である松尾先生をはじめ、つくば市長、Google、法律の専門家など、さまざまな分野からの著名人が集結し、このテーマを深く掘り下げました。

シンポジウムの様々な議論を受けて、私たちは今、生成AIがどのように我々の世界を変えるのかについて考え、想像を膨らませてみたいと思います。そのためには、さまざまな視点からAIと向き合い、その可能性を探ることが必要です。
そこで、次の一連の投稿では、以下のテーマについて考えていきたいと思います。これらは今後追加される可能性があるものの、現時点では主なテーマとして考えています。

A.AIに個性を与えろ!行きつく未来はロックマンエグゼ? -「エピジェネティック型AI」を考える(本日)


B.息子の上司はAIロボット?家に招いたのはAI彼女? -禁忌「感受性」をAIにつけてみる


C.シビュラシステムの構築は完全な平等社会? -AIは資本主義国家を変える力があるのか?

 

D.Web3.0で求められる次世代型リテラシーとは? -「創造的な考え」と「フェイク情報」を仕分けていける


これらのテーマを通じて、我々は新たな視点からAIの進化を理解し、その影響を考えていきます。そして本日はこの一連の投稿の第一弾という位置づけで、AIに個性を与えることについて考えることにします。

1.処理性能向上で実現した生成系AI

本日の講演では、「トランスフォーマー」と「自己教師あり学習」という二つのキーワードを生成型AIの進化を牽引する技術として挙げていました。これらの技術の詳細はネットで検索すればより詳細な内容が出てくると思います。ただ、これらの技術をざっくりでも知ることで今流行っている生成系AIをより具体にできるため、すこしこれらの用語を整理していきましょう。

トランスフォーマー(Transformer)

「トランスフォーマー(Transformer)」は、2017年にKaiserらが発表した論文に基づいています。これは大規模言語モデルが巨大なテキストデータを処理できるようにするための中核技術で、この技術のおかげで自然言語処理させる文章が長文化されても違和感なく処理されるようになりました。RNNとAttentionという組み合わせで担っていた自然言語処理をMulti-Attentionにすることで長文処理が可能となりました。「Attention Is All You Need」 というその論文のタイトルは、AI技術の歴史において金字塔となるかもしれません。(原文:L. Kaiser et. al., 2017. 「Attention Is All You Need」 https://arxiv.org/pdf/1706.03762.pdf)

自己教師あり学習(Self-Supervised Learning:SSL)

次に、「自己教師あり学習(Self-Supervised Learning:SSL)」について見ていきましょう。ML(Machine Learning)の世界では「教師あり学習」「教師なし学習」という言葉が2010年前後に爆発的に流行しました。自己教師あり学習は、その進化形と言えます。教師あり学習は人が正しいデータセットを事前に用意する必要があるため、学習データが大きくなればそれだけ開発工数が膨らみます。しかし、自己教師型は疑似的なラベルを自動で作成するため、ひたすら処理に徹することができるのです。

これらの技術が組み合わさる(自然言語処理の性能を向上させ(トランスフォーマー)、自動処理で膨大なテキストデータを学習する(自己教師あり学習))ことで、ChatGPTをはじめとした生成型AIが生まれてきたのです。ここで大事なことは、何か新しい概念や根底を覆す技術というより、従来モデルを力技(処理性能・精度の向上)で実現したという点です。

ChatGPTのアーキテクチャイメージ(日経新聞から着想を得て作成)

2.生成系AIは「人の良き友人」となりうるか?

今の生成系AIのモデルが理解できたところで、次に生成系AIの行きつく未来を妄想してみましょう考えてみましょう。生成系AIは最終的にどうあればよいか。私は人間社会に溶け込んだ「人の良き友人」となる未来をイメージしました。
AIが「人の良き友人」となるためには、どのような要素が必要でしょうか?まず、人に置き換えて考えてみましょう。信頼できること、誠実であること、適度な距離感を保てること、喜怒哀楽を共有できること、いろいろ挙げられます。特に(ChatGPTが頭に残った状態でブレストしていくと)「価値観があった発言」というのは一つ重要な点ともいえるかもしれません。
「価値観があった発言」という言葉を要素分解してみると「パーソナライズされた共通情報がある程度擦りあっている(阿吽で語れる)」「発言に対する意図を踏まえて発言できる(空気が読める)」とも言えます。

つまり、AIが人の良き友人となるためには、「ユーザのパーソナライズされた共通情報を持ちつつ、日々のやり取りを踏まえた回答が返せること」が必要条件となると言えます。(もちろんほかの要素もまだあるので、いったんは必要条件にとどめたいと思います)つまり、LLMはみな同じであっても、個別の情報をインプットし、パーソナライズされた生成系AIというのが今後想定される未来なのです。

3.次世代AI:エピジェネティック型AIを妄想してみる

少し話は脱線するのですが、皆さんは「ジェネティック」と「エピジェネティック」という用語をご存じでしょうか?前者は良く知っているが、後者はよくわからない、という方が大半でしょうか?
「エピジェネティック(Epigenetic)」は遺伝学の用語で、遺伝的な特徴(ジェネティック)とは対をなす概念です。
ジェネティックな状態というのは、親から子供に遺伝された際、例えば血液型や髪質といった遺伝的な形質が遺伝情報(DNA)に対して一意である状態を指します。西暦2000年のヒトゲノム計画の考え方でもある、ヒトの全DNA情報(ベース)を読み解けば、その人の抱える形質や遺伝病、潜在的に持っている形質が明らかになる、という考え方です。
一方エピジェネティックな状態とは、遺伝情報(DNA)によらない多様な形質の状態を指します。具体例を挙げましょう。私たちは1つの細胞(受精卵)から分化して人の形を成しています。しかし、目の細胞や皮膚の細胞といった、同じ遺伝情報(DNA)を持つにもかかわらず、全く異なる細胞に分化することができています。これは遺伝情報をベースとしつつ、環境や状況に応じ、遺伝子の発現に調整が働いた結果なされます。つまりエピジェネティックな状態とは、全DNA(ベース)を読み解くだけでは全貌がつかめない、成長や学習によって多様な分化がなされる、という考え方を指します。

この生物学的な概念は昨今の生成系AIの進化に沿わせることもできます。AIが同じDNA(LLM)を持ち中道的な回答をなしているジェネティック型AIの時代から、AIがユーザーごと個性を持つエピジェネティック型AIの時代へと進化する可能性があります。つまり、現状のAIが持つ一般性とユーザ個々の情報を統合し、パーソナライズされたAIを実現するのです。
ここまでくると表題の意図が見えてきたと思います。そう、生成系AIはロックマンエグゼの登場を示唆しているのです。
(ちなみにカプコンは今年で40周年らしい。めでたいですね)

ジェネティックなモデルとエピジェネティックなモデルのイメージ

これは専門知識を覚え込ませるといった、現在考えられている法務AIや物流AIといったものとは異なるモデルだと考えています。
エピジェネティック型AIは、初期状態のAIからユーザごとに独自の成長・発展を遂げる、タイムスケールすら武器にする技術と考えています。これは人とAIがともに成長してくる伴走型成長タイプのAIの到来ともいえるのかもしれません。
これには常時インプットできるようにウェアラブル端末の携帯や、タイムスケールによるAIの伴走型成長モデルを確立する必要があると考えています。

最後に

今回紹介したエピジェネティック型AIは、”現時点では”妄想の域です。例えばパーソナルデータの蓄積と学習は膨大で処理しきれない、といった技術的な問題あると思います。ただ、今までの議論を見ればわかる通り、処理しきれないものは処理性能をあげて処理すればよい、という力技の技術革新を我々は目の当たりにしています。つまり、モデルができれば、どんなことでもゆくゆく実現できるのです。

次回はこのエピジェネティック型AIの妄想をさらに発展させ、「AI上司」や「AI彼女」の可能性について考えてみたいと思います。

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