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Psychological Traffic violation Verification

短編小説    

前略。

突然不服申し立ていたしますご無礼をお許しください。

私、○○○○○○○はこの度告知・交付日時令和×年×月×日午後×時×分の交通反則告知について、以下のような理由から再度捜査またはご検討をお願い申し上げます。

【内容】

告知・交付者の所属、階級等及び氏名:○○警察署巡査 B ○○

反則場所: ○○市○○町×丁目×番地×付近道路

反則日時: 令和×年×月×日午後3時33分ごろ

反則者氏名: ○○○○○○○

職業: 当日アルバイト(株式会社○○○○○)

反則事項・罰条: 携帯電話使用等(保持)画像表示用装置を手で保持して画像を注視 約20m進行

反則金相当: 18000円

なお、反則確認対応者は、○○警察署地域課自動車警ら班長警部補 A ○○

【経緯】

① 私、着信音を聞く。呼び出し時間設定はデフォルトで15秒。A○○の証言「画像表示装置を手で保持して画像を注視。約20m進行」反則日付令和×年×月×日午後3時33分頃(確認 A○○)

② 当該道路は長い直線道路で、車のスピードが速く、私はここで停止するのは危険だと思った。停止場所を探しながら減速し、後方安全確認。サイドミラーと目視で左側安全確認。左ウインカーで左側寄りに走行、ブレーキを踏み込み、ハザード点灯、停止、サイドブレーキを「踏み」、ハンドル左側中央部でギアをPに「持ち上げ」、停止。トヨタパッソの装備の操作方法。ハザードとサイドブレーキの順序は前後する可能性もある。

④ 応答15:33(履歴記録)停止中の私の車にAが近づく。応答34秒後に切断。

応答先、××市教育委員会教育研究所(直前の職場)

⑤ 私は、停止中の車内運転席側から見知らぬ男が何か言っていることに気づき、電話を切らずに窓を開けた。語気荒い怒号に私は何事が起きたのか瞬間的に理解できなかったため、それを聞きながらも電話相手と話したが、怒号で私の声も相手の声もかき消された。

⑥ 応答から34秒後(履歴記録)この時この怒号が相手にも聞こえたのか、電話は相手方から切られていた。私も、切れたことを確認して切った。この間もAの怒号止まず。B○○が来て更に怒号を浴びせられる。

⑦ B、信号の交差点まで進行して左折することを指示、誘導。私はそれに従う。

⑧ 15:40(履歴記録) 電話を切って、6~7分後の15:40、私は相手方教育委員会のCに、折り返し電話している履歴がある。混乱していたが、この時「後程折り返します」と言ったのか。この後教育委員会関連で数件電話している。

⑨ BとAの怒号が続き、「見た」という証言の言葉が2転3転した。制服を着ていて「○○署」と言っていた彼らに、私は特に身分提示を求めなかったが、二人は手帳も見せず、名乗らなかった。他2名の職員が来た後、やっと二人の名前を尋ねて教えてもらえた。

【検証】

1.トヨタパッソの特殊性

運転車両トヨタパッソのギアは特殊で、一般的な下部ではなく、ハンドルの左側に平行して付いている。Aの証言内容から、私の左側安全確認動作がスマホに目をやったように見えたり、停止動作手順がスマホに触ったように見えたり、停止時にギアをPに入れる前後の動作がスマホを保持したように見えたとしても不思議ではない。

Aは、私が運転中にスマホを操作したのを見たと言ったが、(ここで保持、注視からの論点変更)Aがその間数十mを駆走したのであれば、Aの視覚は静止時よりも不安定であったと予測される。トヨタパッソのギア操作の特殊性ゆえに、停止動作を見て勘違いし、「スマホを手に取った。操作した。」と見誤ったのかもしれない。そして足で踏むタイプのサイドブレーキのゆえに、サイドブレーキを引いた様子が見えず、咄嗟に「完全に停止していなかった」と言った可能性もある。

2. 証言内容は実現可能か?

私が電話応答している時刻は15:33の履歴が残っており、この時はすでに停止してハザードランプを出している。私が、少なくとも停止の状態で電話に応答していたことは、BとAも認めている。しかし厳密には「車輪が止まるまでが運転状態」であるゆえに、反則事項・罪状が成立するという主張であった。そうであれば、停止動作手順において左手でスマホを外から見える位置まで持ち上げていなければならない。トヨタパッソの装備で、手の小さい私にはそれは不可能である。

更に各種記録から確認できるが、私は3日前からこのトヨタパッソに乗り替えたばかりで、まだ運転に不慣れだったことを申し上げる。この日初めて仕事で遠出した次第である。パッソの特殊なギア位置やサイドブレーキのことや、直前の職業が準公務員であることも意識していたため、その日運転には特に慎重になっていた。更に私にとっては、どこか安全に停止できるところはないかと探しながらスマホを保持して画面を見ることは実現可能ではないことも申し上げたい。

3. 変化する証言と論点

最初Aは「スマホに目をやっていたのが横から見えた」と言った。私が、「その歩道の位置から左ボックスに置いてあった私のスマホが(Aに)見えるはずがない」と言うと「スマホを手で触っていたのを真横から見た。」に証言を変えた。更に、Bと一緒になって「(私が)手元でスマホを操作していた」とまで言った。Bは「10m先から見ていた」とも言った。その距離で確認できる視力を私が問うと、Bは、「10m先というのは自分の言い間違いで・・・」云々と、再度二転三転証言を変えている。私の「停止してから電話に出た」という主張に、Aはしきりに「車輪が完全に止まるまでが『運転』している状態です。あなたは車輪が止まる前にスマホを持った。」と強調した。つまり、この時点で、停止前20m区間を「画像表示用装置を手で保持して画像を注視、約20m進行」から、「車輪が完全に止まる前にスマホを持ったか持たなかったか。」ということに論点が変化していた。

4. 職業的目撃者認知バイアス

Bからの無線を受けて、Aが、「減速してくる車両は電話の着信を聞いて対応している」という前提ありきで見ていたのであれば、認知バイアスがあったことは否めない。

5. 運転者の選択的注意

あの幹線道路で、車両停止まで、他走行車両と左側の安全確認のために緊張し、乗りなれないパッソを操作すれば、停止時点で選択的注意、認知能力は使い果たしていたと言えよう。この時の私の場違いに覚えのない様子は、BやAも認知している。ゆえに停止も、AやBの姿を見て意識的に行ったことではないことも申し述べる。

6. 職業人としてのコンプライアンス

また、私の車にナビの装備はないし、ナビアプリもダウンロードしていないことを追記する。近年は、ダッシュボードにスマホを置いてナビアプリを使っている人も散見されるが、このようなアプリの使用方法が問題にされることはない。この時、AやBは安全運転のためには、音だけではなく目の前にある機器に反応することさえも道路交通法違反だと言わんばかりであった。もはや言いがかりとも思えるほど厳しく追及し、私に「電話の音に反応してちらっと助手席に目をやったかもしれない」と言わせ、怒号、罵声を浴びせるといった取り締まりだった。ご自身の前言を撤回するのも憚れるご職業と推察するが、職業人として最低限のコンプライアンスには従って欲しいと市民は願っている。

7. 技術と習慣

当然私の記憶も検証されるだろう。記憶にエラーはつきものであるが、エピソード記憶や感情記憶に比して「技術と習慣についての信憑性は高い」ということが判明している。私は、自分が運転を停止する過程を再度検証してみた。その結果、私には、乗り換えたばかりで運転し慣れないトヨタパッソで、停止前にスマホを持つような技術は無いことが再認識された。普段高速道路ではオーディオ機器を操作しないよう、乗る前に準備しておく程度の技術しかない。また、運転中にyoutube視聴や地図アプリを使用する習慣はあったが電話に出る習慣はほとんどなく、その他あえて危険を冒すような運転習慣もないことを申し上げる。

8.終わりに

以上私見につき、個人の身体能力や運転技術には差があることは承知している。その上でなお、彼らの論点が次々変化したのを見るにつけ、何をもって違反とするかの定義が、現場において私には全くもって不明瞭であったことも申し述べたい。今回の論点ではないが、「車輪が完全に止まる」と言われれば車に聞くわけにもいかず、それを証明するには彼らの目撃証言しかないのである。

1970年代以降様々な実験によって、目撃者の証言はそれほど信用できるものではないという事実が判明した。そのため、事情聴取手法における認知面接研究を始め、科学の発達の恩恵に浴する選択肢も多彩になっている。この度の件で、このような交通違反の取り締まりが、前時代的な職業人のコンプライアンスだけに頼った目撃情報のみで行われるのでは、市民生活の安全や、安心は保証されないのではないだろうか。少なくとも今の私には保証されていないと感じる。

以上、AとBの市民に対する取り調べに行き過ぎた言動、強制-自己同化型自白への誘導等はなかったのか、Aの誤認はなかったのか、お気持ちだけでもいただきたく、何卒よろしくお願い申し上げます。                

以上令和×年×月×日

【後記】

正直に申し上げれば、私は、この日はパッソに乗り換えたばかりだったのが幸いしてスマホのながら運転をしなかったわけであり、過去に全くなかったかと問われば、youtube視聴や地図アプリを使用することがあったことを告白する。そしてこの日以来私は、運転中はスマホをカバンの中に入れておき、取り出せないようにしている。
幕府や新政府が警備警察組織に、意図してならず者を入れ「毒には毒を」で運営していたことは歴史に明らかである。不本意ながらそのような組織は一般庶民が関わる輩ではないと結論し、この件を終了する。

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