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現実逃避してイワン・ブーニン(ロシア文学)を読む

「株式会社 主婦の友社 ノーベル賞文学全集7」
イワン・アレクセーヴィチ・ブーニン より

ミーチャの恋

<作品引用>何よりも素敵なのは、この日ひときわ美しいカーチャが、素直さと親しみに全身を息吹かせながら、何度も子供のように信じ切った態度でミーチャと腕を組み、彼女にとってはついてゆくのがやっとなほどの大股で歩いてゆく、ほんの心持もち傲慢そうにすら見えるくらい幸福そうな彼の顔を、下からのぞき込んでくれることだった。

<桃と紅茶のつぶやき>こういうのをやってみたい人生だった。

<作品引用>「あなたっておばかさんね。あたしがあんなに上手に朗読したのも、あなた一人のためにだってことを、感じてくれなかったの?」

<桃と紅茶のつぶやき>乙女は「あなた一人のために」(音楽学校を)受験したわけではなくても、こう言いましょう。

<作品引用>「…すべての原因は、カーチャが何よりもまず典型的な女性の本質だってことにあるのを、そろそろ理解してもよさそうなもんだがね。…男の本質たる君は、すっかり腹を立てて、種の持続という本能の崇高な要求を彼女に突きつけるってわけだ。…」

<桃と紅茶のつぶやき>由緒正しき男性諸君は、あれのことは「種の持続という本能の崇高な要求」と言いましょう。

エラーギン騎兵少尉の事件

<作品引用>おそろしく複雑できわめて興味深いタイプの男性は、…単に女性に対する場合だけではなく、概して周囲の世界の受け取り方全体においても感覚的に鋭敏な人種であるため、常にまさしくこの種の女性に心と身体のありたけで惹きよせられ、おびただしい数にのぼる恋のドラマや悲劇の主人公になるのであります。・・・こういう男性は、この種の女性との関係や恋愛が、常にどれほど苦しいものであり、時として真に恐ろしい破滅的なものになりかねぬことを、…感じ、見抜き、承知していながら、それでもやはり、まさしくその種の女性に一番心を惹かれ、抑えきれぬ力で自己の苦しみや破滅にさえ惹きよせられてゆくのです。

<桃と紅茶のつぶやき>「心理学」というものは、私にとってこうなっているのではないだろうか、と思った。「世界の受け取り方全体においても感覚的に鋭敏」とは、認知のゆがみを表しており、発達、パーソナリティ障害の特徴の一つでもある。心理学に興味を持つ人は、この種の女性(心理学)に心と身体のありたけで惹き寄せられるのかも知れない。

<作品引用>…あれを書いたのは、彼女の意思だったのです。概して僕は、あの夜、最後の瞬間にいたるまで、彼女の命じたことに、すべておとなしく従っていたのでした…

<桃と紅茶のつぶやき>作家とは…「あれを書いたのは、『ミューズ』の意思だった」と言い、「僕は、『ミューズ』の命じたことに従っていた」と言うような方々ではある。

財団法人国際言語文化振興財団

「イワン・ブーニン短編集 暗い並木道」より

パリで

<作品あらすじ>高齢独身?の富裕層ロシア人男性が、パリのレストランでウェイトレスをナンパする。そして、自分の財産を彼女に譲る。その後まもなく男性は死亡する。

<桃と紅茶のつぶやき>まあ、あやかりたくもなくも無きにしも非ず。

知恵遅れ

<作品あらすじ>エリートでどら息子の神学生が、夏休みで実家に帰省中に、むらむらして家の使用人(知恵遅れ、身寄り無し)を連夜レイプした。その結果男の子が生まれたが、彼はこの現実に向き合いたくないがゆえに、慈悲深い両親(補祭)の反対を押し切って、その母子を実家から放逐した。男の子は不具者だったので、母子は夏いっぱい、物乞いをするしか生きる道はなかった。冬は…

<桃と紅茶のつぶやき>これ普通に犯罪者でしょう。これが書かれたのは1940年9月28日。おそろしや。しかし、20世紀前半、日本も同じようなものだったのでは?そして、自分よりも弱者と見える者に対する態度は今も変わらないのよ。そして、使用人は黙っているしかないのよ。と思っていたら…mee toとか、某アイドル事務所の醜聞とか、暴露物語多いですね、最近。

日射病

<作品あらすじ>中尉は、ヴォルガの汽船で出会った人妻と日射病のような恋をした。女は名前も住所も告げず、中尉の前から去った。

<桃と紅茶のつぶやき>「ちょうど、この『日射病』のようなものでしょ?我々の『革命』とやらも」ということでしょうか?

宿屋

<作品あらすじ>スペインの山奥の宿屋に留まったモロッコ人が、宿屋の娘をレイプしようとしたら、「ニグロ」という名の、娘の飼い犬が、その男をかみ殺したという話。

<桃と紅茶のつぶやき>これは、犯罪を未然に防止した「事故」ね。乙女よ、犬を飼いましょう。

暗い並木道

<作品あらすじ>帝政末期に退役した軍人が、昔手を付けた使用人女と偶然30年ぶりに再開した話。女は、老軍人(と言ってもアラ還)が立ち寄った民宿の女将になっていた。昔話に、女は恨み言も言った。老軍人も自分の人生を呪った。しばらく話をして、汽車に乗るために出発した。馬車の御者は、女は金貸しで潤っていると話した。そんなことはどうでもいいと、失った日々を想像して首を振った。そして女に読み聞かせた詩を思い出していた。

<桃と紅茶のつぶやき>19世紀ロシア文学を世界に誇るロシア人は、文学者をアイドル並みに歓待する。今話題のあの政治家も、記者会見でさりげなく小説の教養などを披露する。恋人たちは、詩を読み聞かせていたのですね。それにしても、使用人に手を付け過ぎ・・・

ターニャ

<作品あらすじ>使用人に手を付ける話。放浪の途中、親戚の地主の家に厄介になった時、男は使用人のターニャを手籠めにした。第一次ロシア革命直前の、時代に引き裂かれた恋人たちの物語である。

<桃と紅茶のつぶやき>文豪の筆致は、それはそれは美しく、恋愛ドラマや映画を一つも見ない人でもこれだけで満足するでしょう。

以上


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