夏の甲子園の二部制はスポーツ文化終了の序章 前編
スポーツ観戦で最も高校野球が好きだ。ここに理屈は無い。母によると4歳の時には既にテレビの前で釘付けになっていたとのこと。5歳の時には父の母校である鹿児島商が出場したのでアルプスに応援に行った記憶が鮮明に残っている。相手は前橋商で11-3で大勝した。知らないおじさんやユニフォーム姿の坊主頭の人たちと歓声を上げた。その次の試合は東洋大姫路と拓大紅陵だった。5歳ながら全出場校を暗唱していたので漢字の学校名を普通に読めた。それを周囲の人が褒めてくれたので更に得意になって好きになった。
その翌年の小1の夏。父親の車の中で例年のように車で鹿児島に向かっていた。長い道中も退屈しなかった。PLという名前の強豪校がラジオの向こうで戦っていたからである。しかし初戦は群馬の中央高校という無名校に苦戦していた。立浪と片岡と野村と橋本というすごい選手がいるのに苦戦していた。しかし終盤一気に逆転してそのまま春夏連覇。番狂わせという言葉を知ったのは正にあの車中で、弱者がどうにかして強者を倒そうとすると異様な雰囲気になることを子どもながらに感じ取った。
漢字も地理も番狂わせの空気もスターの萌芽も全部高校野球が教えてくれた。
以来、愛知県在住の身ながら、甲子園の生観戦は20回ほどを数える。近年はより地方大会の観戦にはまり昨夏も4回ほど愛知県大会を見に行った。今日で野球を終える人間が半分いて、明日も野球を続けられる人間が半分いる。その舞台を多くの大人が準備して、何千人もの客が見守る。4000分の1の勝者を目指して戦う姿を見る夏の大会が特に好きだ。
さてそんな夏の甲子園が今年から一部開催方法が変わることになった。初日から3日間、二部制を導入することが決まったのだ。以下のような日程になるらしい。
【従来】
1日目 開会式 9:00~ 第一試合 10:20~ 以降3試合
2日目 第一試合 8:00~ 以降4試合
3日目~ 4試合日は2日目と同じ
【2024年】
1日目 開会式 8:30~ 第一試合 9:50~ 第二試合 16」00~ 以降2試合
2,3日目 第一試合 8:00~ 2試合 第三試合 17:00~
4日目~ 従来の4試合日と同様
まだ試験的な導入で最初の3日間のみに限られるが、今の世の中の風潮を考えると近い未来に全期間二部制を導入するのはほぼ間違いない。今までは4試合日を9日間を含む14日間(加えて休養日3日間)で開催されてきたが、さすがに1日4試合の消化は難しいだろう。全17日間(休養日3日間)の日程になると考えるのが自然である。10年に1回の記念大会は出場校が7校増えるのでさらに3日間ほど長くなる可能性が高い。
こうなると休養日や前後の日、雨天等も含めて3週間程度の大会となる。休養日の無かった15年ほど前までは2週間で終わっていたので、相当長くなる感覚がある。そうなってくると必ず議題に上がってくる問題がある。滞在費の問題と阪神タイガースの問題である。
現在でも公立高校や地方の基盤が弱い私立高校が勝ち上がった場合に資金不足の問題が発生する。ベンチ入り選手と監督・責任教師は主催者から既定の旅費と滞在費の補助が出る。しかし応援団のソレに対してはクラウドファンディングで対応するのが現状だ。ここの金額が大会期間が伸びれば伸びるほど上がる。次に阪神タイガースは甲子園球場をホームにしているので、少し前まではこの夏場に死のロードと呼ばれる長い遠征期間があった。近年は京セラドームを活用するようになり、それ自体は緩和されたものの、大会の前後含めて1か月間本拠地を明け渡すのは難しいだろう。
今回の二部制の導入は当然熱中症対策である。その目的を考えた時に当然生まれる議論は「本当に甲子園球場でなければならないのか?」である。同じ近畿圏にある大阪ドームを使用すればそれは達成される。しかしそれはオリックスが過去の阪神と同じ状況になる為、他の球場と複数開催となる可能性が高いだろう。それは前述した大会期間の短縮にもつながる。ここ数年、夏の大会の話題のたびに上がる意見である「複数会場で開催すれば多くの問題が解消され万事解決」
私は複数会場同時開催が導入されたら、高校野球人気は数年で大きく縮小する確信がある。理由は「大会すべてをリアルタイムで観戦、視聴することが無理になるから」である。甲子園の春夏の甲子園大会の特異さは、全ての試合がその時間1試合しか行われていないことだ。私は年末年始の高校サッカーやラグビー、春高バレーやバスケットのウィンターカップも時間が合えば見る。しかし一定以上のめり込めないのは、これらの競技が同時開催であるからだ。サッカーであれば日テレで地元高校の試合を放送してくれる。しかし同時に優勝候補の試合であるとか、大会ナンバーワン選手が在籍する高校も同時に行われる。そちらをネットで見ようとすると地元校の試合がおざなりになる。つまり多くの試合を結果を知ってから見ることになる。これは裾野を広げにくいシステムと言える。
世界的なイベントでいえばサッカーのW杯が高校野球の進行と似ている。大会会場こそ複数だが同時に試合が行われるのは、おかしな駆け引きが発生しないように設定されている予選リーグの最終節のみである。世界最高峰の戦いが今この瞬間に1試合しか行われていない大会運営。これが熱狂的なファンを生む必要条件だろう。
このテーマは3回ほど続く予定だ。できれば沖縄大会が開幕する来週土曜日までには完結させたい。
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