お客さんから見てかっこ悪いこと
とある業務の請求書を出すように言われた。転職したばかりなので、会社の中の業務とか担当とかがどうなっているのかがよくわからない。そのお客さんの担当の中国人の女の子に聞いてみた。
「ね、この請求書発行したけど、もう出してもいいのかな?」
「まだ全部終わってません」
だよねー。
「終わったら教えますから待ってください」
「はい」
素直にはいと言った後についでに聞いてみた。
「いつもってどうしてるの?日本人が請求書出してるの?」
「いいえ」
だよねー。
「発票も請求書もあなたが出してるの?」
「はい」
「じゃあ、私、出さなくていいよね?」
「……」
そして、その後、相談して見積もりは私が出すけど、それ以外は今まで通りその女の子が出すから必要ないということになった。やれやれ。
新しく入ってきた人が、会社のそれまでのルールを知らないから余計なことをしてしまうのはよくあることである。しかし、お客さんから見たら、時々Aさんだったり、時々Bさんだったり、あるいはAさんもBさんも請求書を重複して送ってきたりすると、とっても格好悪いと思う。
それはつまり社外のお客さんに、私たちは社内でコミュニケーションが取れていない人たちですと教えているようなものだからだ。社内で連絡や意思疎通がうまくいっていない会社のサービスは往々にして悪いものである。
「出せと言われたから請求書発行しちゃったんだけど」
「じゃあ、今月ギリギリに出しましょう」
「そうだよね。終わった途端にさっさと請求書出すのってあれだよね」
「あれですね」
ここで小さく感動した。なんというか、さっさと金をもらいに行く行為が中国人の目から見ても「あれ」なんだというところにである。
お客さんにサービスを提供しているのは、当たり前なんだけど、日本人だけじゃない。中国人の子は中国人の子で、お客さんの会社の中国人の人と付き合いがあってサービスをしてきているのである。だから、中国人の子とよく相談しながら日本人も動くべきなのだ。こういう時は日本人がやって、こういう時は中国人がやると相談しながら交互に動くのがチームワークである。
だから、まず、中国人の子がやっている仕事の中身を理解することと、尊重する姿勢がとても大事なのである。
仕事はバラバラに動いてはならない。それは結局お客さんに伝わり、そういうことはカッコ悪いし、それにそういうやり方だと時間もかかるし効果が悪い。
昨日と同じようなことを書いているが、良いチームワークのためには、コミュニケーションを取れる信頼関係が非常に大事である。
また別の時に別の中国人の子と話していた。とある業務が予定した期間に終わらなさそうだから、期間を延長して作業するために我々の仕事が増える。しかし、売り上げも増えるという話である。
「仕事は増えるけど、売り上げ増えるからいいよね」
仕事とはマニーのためにやるものである。常に心にそろばんを。すると、年下の中国人の子に真面目な顔で諭された。
「わたしは自分たちの仕事が増えるから嫌だとかそういう話をしているのではないのです」
「ん?」
のほほんとして、頭の中で、契約金額のゼロの数を数えていたら真面目な声音で語りかけられた。
「お客さんから見たら時間がかかってお金もかかるのは損です。それを私たちがまるでわざと引き延ばして売り上げ増やしたと思われるかもしれません。一時的なお金を求めて、信頼を失っては元も子もありません」
「……」
今日、二度目の感動をした。ちなみに、わたしは軽く説教を受けていた。それから頭の中でゼロの数を数えるのをやめて、自分もちょっと真面目モードに切り替えた。
「それは確かにそうですが、なぁ……」
スケジュールは確かにギリギリなんです。
「無理をしてスケジュールを引っ張って、間に合わなかった時も迷惑をかけるし、そこはよく相談しながら決めれば大丈夫でしょ」
「ああ、そうですか」
いや、なかなかどうして、年下の子達だからとか、中国人だからとか思って何も考えていないんじゃないかって思うのは、やっぱり違うのですよ。日本人も中国人も年上で、目上の人にはあまり自分の考えをはっきりと言いませんから、だから、上は勝手に何も考えていないんだろうなんて思っちゃう。本当は隠しているだけで、実はちゃんと自分の考えを持っているのですよ。
それを、上の立場で話してもらうというのは、結構難しいですよ。
いや、今日は小さく二つ感動したよ。いつもは隠れていて見えない新しい一面を見ることができたからな。
自分は、自分が何もかもを決めて引っ張っていくような仕事の仕方ではなくて、私がちゃんとしていないから、下の子達がしっかりしなきゃって自分から色々やってくれる、そんな環境を望んでいます。そういうふうに仕掛けられて、その仕掛けがちゃんと動いたら、とても嬉しい。
リーダーになりたいとか、そんな気持ちも全くない。ただ、団体として、組織として動くとき、必ず取りまとめの人間が必要です。それは役割みたいなものです。組織に属している以上、自分にもしその役割が当てられたら、自分なりにできるところまでやります。今は自分は上の人間ではないですから、自由ですね。
仕事が楽しい。今週はなんか、妙にそんなふうに感じる。
わたしはもともとサービス業向きですね。今までサービス業ではなかったけど、だから自分のサービス業向きの資質を持て余していましたから、今が楽しい。
転職してよかったな。
「この前のあのお客さんは怖かったです。もう話したくない」
「ああ、話さないでいいよ」
「え、話さないでいいんですか?」
「話すのはわたしやるからそばにいても黙ってりゃいいよ。あんな人今まで何人もいたもん。ぜんぜん平気ー」
わたしの最も得意とするスキルだ。普通ならコミュニケーション困難なちょっと難しい人ともやり取りできる。
中国人の同僚の人たちともう少しいろいろ話したいから、頑張って中国語勉強しようかな。
ものすごく久しぶりにそんなことすら思った。
雨なのに傘を持っていなかったので、(傘をさすのがすごく嫌いなのである)しょうがないのでセブンイレブンでまた安い傘を買ってしまった。小雨の中を帰る。
2024.05.23
優等生著
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