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壮絶な臭いのなめし皮と皮製品

 
モロッコの市場でもホテルの売店でも、革製品が山積みとなっていた。
初日のホテルでもツアー客が、ホテルの売店で交渉をしていた。
皮製品でもスリッパが特に人気のようだった。
色鮮やかでキラキラと輝くスパンコール類に飾られてるのが多く、日本ではほとんど見られないようなデザインだ。
他のツアー客の女性陣も、私の姉妹たちもヒマがあればスリッパを吟味していた。
 
皮の染色作業場に行った。
ろくに説明も聞いていなく、バスから降りて日本語イヤホンをつけながらメディナに入って行った。
細い路地の両側には、小さな店がびっしりと並んでいた。
その店を見て歩きたいと思っても、足速やに前に進んで行き、ついていくのが精一杯だった。
ツアーの難点は、行きたいところに自由にいけないことだ。
少しでも、足を止めるとせかされる。
しぶしぶとついていくと、小さなドアのある中に入って行った。
中には革製品が、所狭しと並んでいた。
入るとすぐに、ミントの束を手渡された。
意味もわからず受け取り、後に続いた。
細くてうす暗い階段を、上がっていった。
すると、嫌な臭いが立ち込めて来た。
腐ったような動物的生臭さで、日本では経験したことない臭いだった。
到着したところは、皮の染色をしている現場が見える場所だった。
ガイドや添乗員は鼻の中にミントの葉を押し入れていた。
わたしも真似をした。
その臭さは、鼻の前にミントを置いて嗅いでいるぐらいでは我慢できなかった。
その作業所は、メディナの外れの川下にあった。
この臭いと川の汚濁のためであろうか、王宮とは一番離れた場所にあった。
この臭いでは当然だろう。
14世紀から、全く同じ方法で作られているそうだ。
その方法とは、
まず郊外で雄大なモロッコの大地で育った牛や羊やヤギやらくだが、殺される。
その肉はお肉屋さんに行き、その皮は毛付きで皮なめし場に運ばれる。
この場所の左の小屋の中あたりで、皮から毛や肉が削ぎ落とされ、軽く綺麗にされる。
左の方にある大きな水車みたいなものの中に入れられ、水と一緒に高速回転し、洗浄する。
皮と毛をはがす為に、白い石灰の中に浸けるが、匂いを和らげる為にハトのフンを入れる。
動物の皮膚は、放っておくと硬くなるため、それのたんぱく質を除き、コラーゲン質だけを残す作業をする必要がある。
その作業のために現代では、水に化学薬品を入れて使う。
しかし現代で多い化学薬品は、環境問題懸念があり、この鶏の糞が最高の手段であるという。
皮をはがし、更に匂いを取る為に、野菜の油・岩塩・タマリスクの粉を入れる。
皮になったものに色付けするが、昔からの自然の染色である
赤→ポピー、緑→ミント、黄→サフラン、茶色→ざくろ、
これらは、エジプトやイランと同じ染色材料なのだが、それを使っておこなう。
眼下に、無数の桶が並んでいた。
その桶に染料を入れるために、色分け別に、コーナーとなっていた。
桶が100以上並び、色分けされているその光景は、やはり【世界遺産】となる要素はあった。
職人さん達は、半裸でその桶に入り、足で踏んでいた。
もちろん、ミントなど嗅いでいなかった。
この中で、一日作業する重労働はじめ、この臭いの世界ではどんなに大変かは想像を絶する。
そして世界中同じであるが、その労働に見合う賃金は与えられていない。
一日600円だという。
作業場の壁には、染色された皮が干されていた。
乾いて出来上がった皮は、職人さんのところに運ばれ、形に合わせて皮を切断する。
他の職人さんにより、切られた皮が縫われる。
皮が硬いから、まず必要な分の穴をあけて、その穴に糸を通して縫う。まさに職人技となる。
メディアのちいさな店先に座り込んで、皮を縫う人、穴をあける人、糸をつむぐ人、その人々が大勢いた。そしてすべて男性だった。
本来なら裁縫は女性の仕事のはずだが、イスラム圏では女性は仕事ができない。
 きらびやかに完成された製品には、多くの汗と苦痛が、あった。
 

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