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『ヘル中女の唄』 第3話

 ○穂高中学・外景
 
N「新入生を迎え、新学期が始まった」
   登校してくる生徒たち。
詩音の声「教えてッ」
 
○同・3年3組の教室
 
   詩音がひばりに顔を近づけている。
ひばり「(気圧され)アワアワ」
   奏音、茜、幸太郎もいる。
奏音「詩音」
詩音「(ハッとして離れる)ごめんなさい!」
茜「大丈夫か」
ひばり「(フラフラしている)」
幸太郎「急にどうしたんだよ」
詩音「……」
 
○桜神社・大桜前のステージ(回想・夕方)
 
   舞い踊る巫女の姿は、夕陽に照らされ女神
   が降臨したかのような姿に見える。
詩音の声「離れないの」
 
○穂高中学・3年3組の教室
 
詩音「あの歌声が!」
ひばり「!」
詩音「神社の跡継ぎなんでしょ、児玉さん。お願
  い、あの人を紹介して!」
ひばり「……」
茜「ひばりにも事情ってもんがあんだよ」
詩音「でも!」
幸太郎「何でそこまで」
詩音「……それは」
   チャイムが鳴り、麻衣子が入ってくる。
麻衣子「授業始めますよ」
   席に着く一同。
詩音「(残念そうに)」
ひばり「(ホッとして)」
奏 音「……」
 
○同・屋上
 
   ひばり、奏音、茜、幸太郎が弁当を食べて
   いる。
幸太郎「(おにぎりを頬張り)美味ッ」
茜「(焼きそばパンの麺をツルツルと飲み込む)
  お嬢様は?」
奏音「高岸先生に話があるって」
ひばり「話?」
   詩音の姿が遠くに見える。
一同「(詩音に気づいて)?」
詩音「(暗い表情)」
     *    *    *
茜・幸太郎「軽音部?」
奏音「(冷静にお茶を啜る)」
ひばり「……」
詩音「この学校に軽音部はないから、作りたいっ
  て言ったの」
 
○同・職員室(回想)
 
麻衣子「無理よ」
 
○同・屋上
 
茜「意外に冷たいな、麻衣ちゃん先生」
奏音「どうするの」
詩音「完全に無理ってわけじゃないみたい。部員
  5人と顧問の先生がいれば」
茜「新入生でも勧誘したらいいだろ。5人くらい
  ならすぐに集まるんじゃね」
詩音「嫌! 遊びでやるんじゃないからッ」
ひばり「!」
幸太郎「随分本気だな」
奏音「幼少期から、音楽の都ウィーンで育ったか
  らね」
詩音「バイオリンやピアノをはじめ、管楽器、打
  楽器に弦楽器、あらゆる音楽はマスターした
  わ」
茜「自慢かよ」
ひばり「(尊敬の眼差し)」
幸太郎「(奏音に)お前も出来るのか」
奏音「少しはね」
詩音「やるなら最高のメンバーでバンドがしたい
  の。じゃなきゃ日本に来た意味がない!」
ひばり「バンドの為?」
詩音「(頷く)……でもホントはね、バンドはもう
  いいかなって思ってたの」
ひばり・茜・幸太郎「?」
奏音「……」
詩音「周りにも同じクオリティを求め過ぎちゃう
  みたい。私って音楽の才能あるから」
茜「(白い目で見る)」
詩音「笑えるよね。気づいたら私の周りには誰も
  いなくなってた。天才故の苦悩ね」
幸太郎「(白い目で見る)」
奏音「(溜息ついて)そういうところだと思う
  よ、詩音」
詩音「(聞いてない)でもね、桜神楽を聞いて思
  いだした」
ひばり「?」
詩音「いいなぁ歌って、いいなぁ音楽って。こん
  なにも人の心を動かす力があるんだ、救う力
  があるんだ、幸せにしてくれるんだって」
ひばり「……」
奏音「(微笑む)」
幸太郎「それでひばりに聞いたのか、歌ってた人
  のこと」
詩音「最高の歌姫よ!」
ひばり「!」
詩音「(ブツブツと)私たちと同い年くらいよ
  ね。お面つけてたから何とも言えないけど」
茜「(見て)……」
ひばり「(俯きながら、嬉しそうな笑みを浮かべ
  ている)」
 
○同・職員室
 
   吉田と麻衣子がいる。
麻衣子「先生ってこの学校の卒業生でしたよね」
吉田「ええ、30年も前ですけど」
麻衣子「その頃って軽音部ってあったんですか」
吉田「え」
麻衣子「風祭詩音さんが軽音部を作りたいと言っ
  てきまして」
吉田「軽音部を?」
 
○桜木神社・ひばりの家・居間
 
   ひばりの祖父・児玉重蔵(74)が来る。
八重「おかえりなさい」
   ひばりの祖母・児玉八重(70)がいる。
   座椅子に腰掛ける重蔵。
重蔵「祭りの日」
八重「?」
重蔵「子供を見た」
八重「たくさん来てましたからね」
重蔵「あいつらの子供だ」
     *    *    *
   フラッシュバック──第2話より。
   働いている巫女姿の詩音と笑顔で会話して
   いる奏音。
     *    *    *
重蔵「両親の面影があったよ。ひばりとも仲良く
  しているみたいじゃった」
八重「……」
重蔵「クギを刺しておいたわ。ひばりを巻き込む
  なと!」
 
○たまきの家・リビング
 
   テーブルに置かれた2つのカップ──。
たまき「(溜息ついて)怖かったぁ」
   飾られた美男美女が写る写真──。
たまき「(見て)詩音と奏音は守って見せます……
  多分?」
 
○穂高中学・部室
 
   ガンッと閉められるロッカー。
   ユニフォーム姿の幸太郎と奏音がいる。
奏音「佐々木さんは何で言わないの? 幸太郎も
  だけど」
幸太郎「?」
奏音「ひばりちゃんのこと」
幸太郎「気づいてたのか」
奏音「祭りの時の状況を考えたらわかるでしょ」
幸太郎「(スパイクを手に取って)ひばりの意思
  が重要だからな。俺たちは見守る。茜もそう
  考えてるんじゃないかな。詩音ちゃんとひば
  りがどうするか、本人たち次第だろ」
奏音「そっか」
幸太郎「お前もそう思ってるから、何も言わない
  んだろ(ガッと奏音に肩組みして)それより
  自分の心配しろよ。チームにもっとフィット
  してもらわなきゃ困る」
奏音「(微笑み)ホント暑苦しいな、幸太郎は」
 
○同・屋上
 
   寝そべり空を眺めている茜。
茜「……」
     *    *    *
   フラッシュバック──。
ひばり「(嬉しそうな笑みを浮かべている)」
     *    *    *
茜「嬉しそうだったな」
 
○××小学校(茜の回想)
 
   ひばり(7)が同級生の男の子と女の子にいじ
   められている。
ひばり「やめて」
男の子「ちょっとくらい歌が上手いからって調子
  乗んなよ」
女の子「チヤホヤされると思った? ブス!」
   「やめろッ」と、茜(7)が来る。
   「暴力女だ!」「逃げろ!」と去って行く
   子供たち。
茜「あいつら……(ひばりを見て)!」
ひばり「(泣きながら)何で……私、歌っちゃダメ
  なの? もう嫌。歌なんか嫌!」
 
○穂高中学・屋上
 
茜「はあ」
 
○同・3年3組のベランダ
 
   サッカー部の練習風景を見ている詩音。
詩音「……帰ろ」
   その時、音が聞こえてくる。
詩音「!?」
   その音色はギター音だった。
詩音「この曲……」
 
○どこかの部屋(詩音の回想)
 
   テレビ画面──演奏しているバンドメンバ
   ー。
   かじりつくように見ている詩音(4)。
詩音「わああ」
   テレビ画面──ギターソロを奏でる長髪の
   男性。
詩音「(目を輝かせて)!」
 
○穂高中学・3年3組のベランダ
 
詩音「この音!」
   駆け出す詩音。
 
○同・廊下〜各部屋
 
   走っている詩音はドアを開けていく。
詩音「(ドアを開け)違う」
   別のドアを開ける。
詩音「違う!」
   次々と開けては走って行く詩音。
詩音「!」
    バッとドアを開けた詩音。
詩音「はあはあ」
   誰もいないその部屋にはドラム、キーボー
   ド、ベースなどの楽器が疎らに置かれてい
   た。
詩音「(中に入っていく)!」
   壁に立て掛けられたギター──。
詩音「(ギターに触れる)ここにいたんだ……誰
  が」
   と、窓から風に乗って歌声が聞こえてく
   る。
詩音「!」
 
○校舎裏・焼却炉
 
   歌声に導かれるまま走ってきた詩音。
詩音「!?」
 
○桜神社・大桜(回想・夕方)※第2話より
 
   面を被って舞い踊り、歌う巫女の姿
   ──。
 
○校舎裏・焼却炉
 
詩音「……」
詩音のN「脳裏に焼き付いたあの歌声がフラッシ
  ュバックした。私はまた、一瞬で心を掴まれ
  た」
 
○校舎裏に向かう道
 
   『数十分前』のテロップ──。
   大きなゴミ袋を手にしているひばり。
ひばり「(重そうに)茜に手伝ってもらえばよか
  った」
 
○校舎裏・焼却炉
 
   ゴミを捨てるひばり。
ひばり「ふう」
   と、ギター音が聞こえる。
ひばり「!」
   音色に聞き入るひばり。
ひばり「(目に涙が浮かぶ)」
 
○ひばりの家・一室(ひばりの回想)
 
   小さいひばりを抱っこしながら、歌を聴か
   せている女性。
ひばり「(嬉しそうに一緒に口ずさんでいる)」
 
○校舎裏・焼却炉
 
ひばり「(口ずさみ)!」
   ひばりは、空に向かって思いのまま歌い出
   す。
N「その瞬間、色鮮やかな花が咲き吹く空間が広
  がった」
ひばり「(空を見上げ歌っている)」
N「その歌声は……遥か彼方先に思いを届けるかの
  ように」
   走ってくる詩音。
詩音「!」
   ゆっくり近づく詩音。
ひばり「(素敵な表情で歌っている)」
詩音「(魅入られて)」
   と、バキッと枝を踏んでしまう詩音。
詩音「あッ(思わず口を塞ぐ)」
ひばり「!?(見て)え」
詩音「(申し訳なさそうに)」
ひばり「し、しし詩音さん!?」
詩音「(微笑む)」
ひばり「……聞いてました?」
詩音「(コクリと頷く)」
ひばり「(ビクビクして)ごめんなさい」
詩音「(近づき)児玉さんだったのね、あの桜神
  楽」
ひばり「違う……私は歌なんて」
詩音「児玉さん!」
ひばり「!(ビクッと顔を背ける)」
詩音「ボーカルになって!」
ひばり「ごめんなさ……え?」
詩音「私と、バンドしよッ!」
ひばり「!?」
              第3話へ続く

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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