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『ライジング』 第3話
○武蔵特別少年刑務所・外景
三浦の声「会いたいヤツ?」
○同・廊下
甲 子「軸になる選手が必要だ」
三 浦「軸って?」
甲 子「エースだ」
○同・光平の独房
横になっている光平。
刑務官「(来て)橘、面会だ」
光 平「?」
○同・特別面会室
入ってくる光平。
光 平「?」
甲子と三浦がいた。
三 浦「法務省矯正局局長代理の三浦です」
甲 子「スーパースターの沢村だ」
光 平「……」
椅子に座る甲子と三浦。
光 平「(も座る)……」
甲 子「単刀直入に言おう。俺のチームに入れ」
光 平「!?」
甲 子「野球やってたんだろ」
光 平「やったことねぇよ、野球なんて」
甲 子「前に、少年を助けてたな」
* * *
フラッシュバック──第2話より。
顔面に衝撃が走り、吹き飛ぶ真田。
* * *
甲 子「見てたよ、君が投げるところ」
光 平「!」
甲 子「勝てば恩恵が貰え、また野球が出来る」
ガンッと机の音が鳴る。
甲子・三浦「!」
光 平「(が机を蹴った)余計なお世話だ」
立ち上がり出ていこうとする光平。
甲 子「もう一度、マウンドに上がりたいと思わ
ないのか?」
光 平「野球なんて2度とやらねぇ」
出ていく光平。
三 浦「ダメだな、あれは」
甲 子「調べてくれ、彼のこと」
三 浦「ああ……ああッ?」
甲 子「……」
○カネシマ編集社・美菜の席
デスクに座り雑誌を見ている美菜。
雑誌の表紙──『沢村甲子の栄冠』と書
かれている。
先輩記者「(来て)熱心だな」
美 菜「先輩」
先輩記者「食いつくのはわかるが……やけにこだわ
ってないか」
美 菜「私にはどうしてもやらなくちゃいけない
ことがあって」
先輩記者「?」
美 菜「このプロジェクトに繋がってる気がする
んです」
○甲子の家・リビング(夜)
書類を読んでいる甲子。
三 浦「(もいる)調べるのに苦労したぞ」
甲 子「……」
三 浦「どうする?」
甲 子「エースはあいつだ」
三 浦「(別の書類を甲子に見せ)実は気になる
ことが(指す)」
甲 子「!」
記事──『亡くなったのは15歳の少年・
上原悟』の表記。
○武蔵特別少年刑務所・外景(日替わり)
甲子の声「シニアで全国優勝。15歳以下日本代表
に14歳で選ばれエースナンバーをもらう」
○同・特別面会室〜別部屋
甲子、三浦、光平が机を挟んで座ってい
る。
甲 子「完全試合5度、ノーヒットノーラン10
回。完封は数知れず」
光 平「……」
* * *
マジックミラー越しに様子を見ている人
物のシルエット。
* * *
三 浦「しかし、突然代表合宿前に姿を消し、野
球界から名前が聞かれなくなった」
光 平「……」
甲 子「次に名前が聞かれたのは警察署」
光 平「(ピクッとして)」
甲 子「山梨に転校していた君は、素行不良の少
年として警察の厄介になること数回……期待の
星が暴力少年とはな」
光 平「(苛立って)ちッ」
甲 子「その後も、改善が見られないと判断さ
れ、少年施設に入れられる。数々のトラブル
を起こし、少年刑務所、ついにはここ、特別
少年刑務所に入る」
光 平「(睨み付ける)」
甲 子「それが橘光平、君だ」
光 平「だから?」
三 浦「将来も有望視されていたのになぜ」
光 平「イラついたからやった」
甲 子「……上原悟」
光 平「!?」
* * *
「……」と見ている人物のシルエット。
* * *
甲 子「中学からのバッテリーだろ。彼も同じく
日本代表に選ばれている」
光 平「……」
甲 子「だが、彼もまた日本代表のユニフォーム
を着ることはなかった」
光 平「(呟く)やめろ……」
甲 子「亡くなったからだ。代表合宿前日の夜」
光 平「(机をバンッと叩き)やめろッ」
シーンとなる一同。
甲 子「交通事故で」
* * *
目頭を押さえている人物のシルエット。
* * *
甲 子「これが原因じゃないのか」
光 平「違う」
甲 子「キャッチャーは女房役とも言われ、投手
にとってはなくてはならない存在だ」
三 浦「今の君を見たら悟君は悲しむぞ。しっか
りしろと叱咤するだろう」
光 平「……」
甲 子「中学生だった君には酷なことだったかも
しれない。しかし、彼の死を受け入れて前に
進むしか」
光 平「俺のせいなんだよ」
2 人「!?」
光 平「あいつが死んだのは……悟は俺を恨んで
る」
* * *
「!」と、人物のシルエットがドアから
飛び出していく。
* * *
光 平「俺に野球なんてやってほしいと思ってな
いさ」
バンッと、ドアが開き、入って来たのは
美菜。
美 菜「いい加減なこと言わないでッ」
光 平「!?」
美 菜「(ふぅと息を吐き)プロジェクトの担当
記者をやらせてもらってる上原美菜……悟の姉
です!」
光 平「!」
美 菜「すみません、突然出てきてしまって」
甲 子「(首を横に振る)」
美 菜「私は、あなたをずっと探してたの」
光 平「え」
美 菜「少年院までは調べがついてた。でもその
後は……だから思ったの。特別少年刑務所にい
ると」
光 平「……」
美 菜「プロジェクトが発表されたときチャンス
だと思った。あなたに会えるかもって」
光 平「何で」
美 菜「私、山梨に行ったわ。それだけじゃな
い。あなたがいた施設や刑務所の関係者にも
会った」
光 平「!」
美 菜「あなたの暴力には正義があった。違
う?」
光 平「……」
美 菜「あなたに助けられたと言う人がたくさん
いたわ」
光 平「……」
美 菜「理不尽な目に遭っている人を見て見ぬ振
りできなかったんでしょ」
光 平「たまたまだ」
美 菜「それとも罪滅ぼし?」
光 平「(えッ)」
美 菜「悟を殺したのは自分だという」
光 平「俺は」
美 菜「忘れたいの? 悟のこと」
光 平「!」
美 菜「私は忘れない。私の中で生き続ける。あ
なたは?」
光 平「……」
美 菜「きっと悟はこう言うわ(息を大きく吸い
込み)バカやろおッ!」
光 平「!」
美 菜「(微笑み)ってね」
光 平「……」
美 菜「悟は、あなたが大好きだった。嫉妬しち
ゃうくらい」
光 平「嘘だ……」
甲 子「何があったんだ、悟君との間に」
光 平「……俺は悟に、ずっと厳しいことばかり言
って要求してきた。罵詈雑言浴びせて。そし
てあの日も」
○野球グラウンド・ベンチ(回想)
座っている光平と悟。
光 平「正捕手になれると思ってんのか、悟」
悟 「……」
光 平「お前じゃこの先、俺の足を引っ張ること
になる」
悟 「え」
光 平「俺は上手いヤツなら誰でもいい」
悟 「ちょっと待ってよ」
光 平「俺はもっと先へ行くぞ。お前を置いて」
悟 「……僕も頑張るから」
光 平「頑張ってどうにかなるのか? 下手く
そ」
帰って行く光平。
悟 「……」
○武蔵特別少年刑務所・特別面会室
光 平「悟は、俺がどんなことを言ってもついて
きた」
甲 子「……」
光 平「だけど……きっとあいつは苦しかったんじ
ゃないか、つらかったんじゃないかって、い
なくなって思うようになった」
美 菜「……」
光 平「(俯き)あの日だって俺があんなことを
言ったから……」
美 菜「あれは事故。誰の責任でもない」
光 平「でも俺は悟に!」
美 菜「……聞いたことがあるの。光平君は凄い
の?って」
光 平「(顔を上げる)」
美 菜「怒られちゃった。凄いってもんじゃな
い。あいつはスーパースターだって」
光 平「え」
美 菜「あいつの女房役がつとまるのは高校まで
かもしれない。それでも僕はずっとあいつの
女房役でいたい」
光 平「(涙を浮かべ)」
美 菜「トレーナーになってもいい。メジャーに
行くなら通訳でも、サポートとしてでも。僕
は生涯、橘光平の女房役であり続けるんだ」
光 平「(涙を流す)」
美 菜「あいつの行く夢の果てがどこかはわから
ないけど……それを1番の側で見るのは僕しか
いない」
笑顔の悟の表情──。
悟 「あいつの夢の果てが、俺の夢だ!」
光 平「(顔をクシャクシャにして涙を流してい
る)」
美 菜「(涙を流し)光平君……あなたには未来が
ある。もう一度マウンドに立って。悟の思い
と一緒に」
光 平「……」
甲 子「どうする、橘光平」
光 平「……俺に夢見てんじゃねぇよ、悟(顔を拭
う)仕方ねぇな」
甲 子「!」
光 平「やってやるよ、ライジングプロジェク
ト!」
美 菜「光平君!」
三 浦「やったな!」
甲 子「……」
三 浦「甲子?」
甲 子「ダメだ」
三浦・美菜「え」
光 平「?」
甲 子「ダメだと言ったんだ」
三 浦「何で!」
美 菜「そうですよ!」
甲 子「仕方がないって言ったな」
光 平「え……あ、ああ」
甲 子「なめんなッ」
一 同「!」
甲 子「これに人生賭けてきたヤツもいる」
三 浦「……」
甲 子「俺もその1人だ。この先、矢面に立たさ
れることばかりだろう。日本中から批難さ
れ、罵声を浴びせられるかもしれない。負け
れば意味のないものになるかもしれない」
光 平「……」
甲 子「その程度の覚悟で、やるとか言うな!」
出ていこうとする甲子。
光 平「覚悟がないだと?(甲子を見て)勝負し
ろよ」
甲 子「?」
光 平「俺と野球で」
甲 子「!」
光 平「勝負だッ、沢村甲子!」
第4話へ続く
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