『ライジング』 第2話
○カネシマ編集社・フロア
N 「記者会見から一夜明け……」
美菜の声「担当にしてくださいッ」
編集長の前に立っている美菜。
美 菜「追いかけたいんです!」
○記者会見場(回想)
会見席に座っている甲子と三浦。
甲 子「なぜ監督を受けたか……まず、私の生い立
ちを少し話しましょうか」
* * *
ロッカーの中に捨てられている赤子。
甲子の声「生まれて間もない頃」
* * *
甲 子「私はロッカーに捨てられていました」
ザワつく会場。
甲 子「(制して)運良く拾われ、入った施設で
は家族のように接し育ててくれました」
不機嫌そうな記者・北岡卓志(52)。
北 岡「……」
甲 子「隣にいる三浦も同じ施設で出会った友で
あり、大切な家族です」
三 浦「(微笑む)」
甲 子「話は割愛させて頂きますが、順風満帆な
人生を歩んだわけではありません」
美 菜「(メモしている)」
甲 子「しかし、捨てられたことを恨んではいな
いし、今の私があるのは人との出会いのお陰
です」
記者A「監督就任に関係が?」
甲 子「私なら、少年たちと共に歩めると思った
からです」
記者B「驕りではないですか」
甲 子「それくらいの覚悟と自信がなければ向き
合えません。私自身、多くの支えがあり生き
てこれました」
美 菜「……」
甲 子「今度は私がそういう存在になりたいと思
い、監督を引き受けさせて頂いた次第です」
記者C「全ての少年が沢村さんのようにはいかな
いでしょう」
甲 子「というと」
記者C「沢村さんは野球の才能があったからよか
ったですが、他の人が同じようになれます
か」
甲 子「野球は、きっかけに過ぎません」
北 岡「(舌打ち)」
記者A「勝てなかったらどうするんですか」
記者B「希望はなくなり、もっと深い闇を抱える
ことになるのでは?」
北 岡「ちょっといいですか」
北岡を見る一同。
北 岡「綺麗事だよね、沢村さん。犯罪者はどこ
まで行っても犯罪者」
三 浦「どういう意味ですか」
北 岡「クソな人間は変わらねぇってこと」
ザワつく一同。
北 岡「勝ったら出所できる、恩恵をもらえるな
んてことになったら、もっと犯罪が増えるん
じゃないですか? 捕まっても野球やればい
いんだって」
三 浦「そうならないよう、法務省、政府、警視
庁とも連携をとってやっていきます」
北 岡「本当に連携なんか取れるのかよ」
三 浦「(思わず)口を慎め!」
ピンと空気が張り詰める。
北 岡「(面白がり)ひゅーおっかねぇ」
美 菜「……」
北 岡「沢村さんはどう思いで?」
甲 子「……だから、あなたたちがいるんでしょ
う」
「?」となる記者陣。
北 岡「えっと……よくわかりませんが」
甲 子「嘘偽り無く!報道する。それをやってい
ただければ結構」
北 岡「は?」
甲 子「その先に、全ての答えが待ってます」
北 岡「そんな曖昧な」
「いいですか!」と立ち上がる美菜。
北 岡「ああ?」
甲 子「どうぞ」
北 岡「チッ(ガタンと不機嫌そうに座る)」
美 菜「素人な質問なんですけど」
甲 子「(微笑む)」
美 菜「甲子園優勝校とやって勝てると思ってい
ますか?」
北 岡「はッ、何だそれ!」
美 菜「(北岡を見て、歯を食いしばり、いいい
ッとする)」
北 岡「(イラッと)」
甲 子「勝てるか……私はこう思います。死ぬとき
に笑って死ねれば、人生勝ちだなって」
美 菜「え」
甲 子「試合の勝ち負けは少年たちにとっても、
私にとっても大きなことですが、ちっぽけな
ことなんです」
美 菜「(微笑み)矛盾してますね、それ」
甲 子「ああ、確かに」
美 菜「沢村さんにとって野球とは?」
甲 子「(曇りない瞳で)人の道です」
○カネシマ編集社・フロア
美 菜「是非、私に!」
編集長「実はな、法務省からのお達しで取材NG
なんだ」
美 菜「ええッ」
社員1が来る。
社員1「編集長、お電話が」
編集長「誰」
社員1「沢村と名乗る人から」
美 菜「!」
○武蔵特別少年刑務所・隣接グラウンド(日替わり)
打撃練習をしている少年たち──をネッ
ト越しに見ている甲子と三浦。
三 浦「あの子いいだろ」
鋭い打球を飛ばす少年。
三 浦「厳選したからな」
甲 子「他の3チームも似たような感じか?」
三 浦「(頷き)どうだ? やれそうだろ」
甲 子「……それなりに、な」
三 浦「?」
○同・通路〜広場〜広場の別場所
歩いていく甲子と三浦。
甲 子「?」
自由時間を過ごしている少年たち。
甲 子「(見て)全員にチャンスを与えることが
出来ないのが残念だな」
三 浦「これをきっかけに新たな更生プログラム
が出来るかもしれない。その1歩だろ」
甲 子「……」
* * *
隅の方で、真田と少年2人がリキを囲ん
でいる。
リ キ「(怯えて)」
少年1「真田さんは超一流のボクサーなんだ」
真 田「余計なこと言ってんじゃねぇ(顎で合図
する)」
少年1がリキを羽交い締めにする。
リ キ「!」
* * *
広場に出てきた光平。
光 平「(欠伸して)ふああぁ」
「ごめーん!」の声に見る──軟式ボー
ルが転がってくる。
2人の少年がキャッチボールをしていた
のがわかる。
光 平「(拾おうとして)!(見る)」
* * *
真田が構えている。
真 田「歯食いしばれよ」
拳を振り上げ、パンチを繰り出した瞬
間、真田の顔面にドンッと衝撃が走る。
真 田「!」
地面に蹲り顔を押さえる真田。
リ キ「???」
真 田「(顔を押さえ、起き上がり)誰だッ」
シーンとしている広場。
真 田「見たか、お前ら!」
真田の頬にボールの痕がついている。
少年1・2「(首を横にブンブンと振る)」
刑務官「(が来て)自由時間は終わりだ! 部屋
に戻れ!」
小走りで戻っていく少年たち。
少年2「行きましょう、真田さん」
少年1「(リキを離し)だ、大丈夫っスか」
真 田「クソがッ」
去っていく真田と2人。
リ キ「(力が抜けて座り込む)……今のって」
転がっている軟式ボール──。
* * *
帰って行く光平。
光 平「(欠伸をしながら)うわあぁ」
* * *
広場を見つめていた甲子。
甲 子「(微笑む)」
○武蔵特別少年刑務所・入り口
キョロキョロしながら歩いてくる美菜。
美 菜「ここが……」
武蔵特別少年刑務所──。
美 菜「(見て)!」
壁に北岡が寄り掛かっている。
美 菜「(指して)ああッ」
北 岡「あん?」
美 菜「クソ記者!」
北 岡「随分な言い草だな」
美 菜「会見で嫌なことばっかり」
北 岡「若いなぁ。オムツ履いたペーペーか」
美 菜「性格最低最悪のセクハラ記者!」
北 岡「(溜息ついて)何でいるんだ、お前」
美 菜「そっちこそ」
扉が開いて出て来る甲子と三浦。
三 浦「?(2人を見て)取材はNGだと通達し
ましたよね」
甲 子「いいんだ、2人は」
三 浦「は?」
甲 子「俺がOKを出した」
三 浦「はああッ?」
美 菜「(緊張した面持ちで)直々に名前を挙げ
て頂き、ありがとうございましゅ(噛んだ。
真っ赤になる顔)うう」
甲 子「そんなに改まらないで」
北 岡「俺にまで声をかけてくれるとは」
甲 子「何か面白そうでしょ(笑顔で)濁ってな
いキラキラした瞳を持つ彼女と、どす黒く汚
い瞳のあなた」
北 岡「喧嘩売ってます?」
甲 子「いえいえ。正反対のあなたたちだからこ
そ、違った視線で見届けてくれると思ったん
です」
美 菜「(崇めるように見て)」
北 岡「まぁ、俺としてはありがたいけどねぇ」
三 浦「(頭を掻き)好きにしろとは言ったが、
せめて報告してくれ」
甲 子「悪い悪い」
北 岡「早速記事に出来そうなことはあるのか
な、スーパースターさん」
甲 子「(ニコッと)ええ」
三 浦「! お前、また勝手に」
甲 子「報告も兼ねてだよ」
三 浦「(溜息をつく)」
甲 子「(美菜に)試合に勝てるか聞いたよね」
美 菜「え? あ、はい」
甲 子「(三浦に)4つの特別少年刑務所にある
野球チームの実力はどこも同じと言ったろ」
三 浦「ああ」
甲 子「うん……じゃあ勝てないね」
三 浦「え」
北 岡「こりゃ傑作。スーパースターがいきなり
お手上げ! 言い記事になるぞ」
三 浦「甲子、それじゃあ困るんだよ」
甲 子「そこそこの選手はいるけど……そこそこな
んだよ。このままやってもプロと小学生が試
合するみたいな感じ」
美 菜「相手は高校生ですよ」
甲 子「甲子園の優勝チームをなめちゃいけな
い。昔、優勝した強豪校が、弱小だったプロ
のチームより強いって言われたこともあった
からね」
美 菜「えッ、そうなんですか」
甲 子「(微笑んで)うん」
三 浦「笑顔で、うんって言われてもな」
北 岡「で、本題は別にあるんだろ」
美 菜「(オーバーに)そうなんですか!」
北 岡「いちいちリアクションでかいな、お前」
甲 子「(三浦に)好きにやっていいって言った
よな」
三 浦「言ったが……嫌な予感」
甲 子「このプロジェクトはまず、選抜した4チ
ームから更に選抜し、チームライジングを作
る」
美 菜「は、はい」
甲 子「変更だ」
3 人「え?」
甲 子「5チーム目を作る!」
第3話へ続く
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?