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『ヘル中女の唄』 第2話

○穂高中学・外景
 
N「新学期が始まる1週間前、ひばりたちは学校
  に来ていた」
 
○穂高中学・体育館
 
   体操服姿の女子生徒が「めんどくさい」
   「帰りたい」などと言いながら並んでい
   る。
N「本日は身体測定日」
詩音「佐々木さん、話がある」
   詩音、ひばり、茜がいる。
詩音「騙したでしょ、帰宅部が楽しいって」
茜「楽しめるかどうかは、あんた次第でしょ」
詩音「責任とって」
ひばり「(しどろもどろに)アワアワ」
茜「はあ?」
詩音「勝負よ」
茜「勝負?」
詩音「(胸を張り)どっちが大きいかね」
   バストを強調する詩音。
茜「!」
   茜もバッと胸を張り、バストを強調する。
   バチバチと火花が散る2人のバストは山の
   様。
ひばり「(シュンとして)……」
茜・詩音「(ひばりに気づいて)!」
   自分の胸をサスサスと擦るひばり。
ひばり「(悲しそうに)」
詩音・茜「(しどろもどろに)アワアワ」
 
○同・3年3組の教室
 
   「詩音ちゃんって可愛いよな」「佐々木の
   身体、エロくね」などとゲスい会話が飛び
   交っている。
幸太郎「(頬を赤らめ)子供だな、あいつら」
   幸太郎と奏音がいる。
奏音「顔赤いよ、幸太郎」
幸太郎「あ、ああ赤くねぇえし!」
奏音「ははは、冗談だよ」
幸太郎「そういうお前も、いやらしい目で見てる
  女子とかいるんじゃねぇの」
奏音「気になる人はいるかな」
幸太郎「え」
奏音「児玉さん」
幸太郎「えええッ」
   男子が一斉に幸太郎を見る。
幸太郎「(咳払いして、小声で)マジ?」
奏音「うん」
幸太郎「……」
奏音「どうしたの」
幸太郎「マジなら応援する。ただ」
奏音「ただ?」
幸太郎「遊び半分で言ってるなら許さねぇからな
  (微笑み)ひばりと茜は、俺の大切な幼馴染
  みなんだ」
奏音「(微笑み)わかってるよ」
 
○同・校門
 
   ぞろぞろと帰宅していく生徒たち。
   ひばり、詩音、奏音、茜、幸太郎もいる。
茜「久々に遊びに行くか」
幸太郎「いいねぇ。奏音も行くだろ」
奏音「うん」
茜「ひばりは?」
ひばり「行く」
茜「そちらのお嬢様はどうしますか」
詩音「(ピクッとして)」
茜「せっかくだから楽しさってのを教えて差し上
  げてもいいんですよぉ。敗者への情けってや
  つ」
詩音「(ピクピクと反応して)」
奏音・幸太郎「敗者?」
ひばり「(苦笑い)」
詩音「望むところよ!」
 
○ボーリング場
 
    バンッと弾け飛ぶ10本のピン──。
茜「しゃあああッ」
詩音「くッ」
   「……」と見ているひばり、奏音、幸太郎。
 
○ゲームセンター
 
   エアホッケーのパックがガコンッと茜の方
   に吸い込まれる。
茜「くッ」
詩音「しゃおらあッ」
   「……」と見ているひばり、奏音、幸太郎。
 
○カラオケ・一室
 
   ──にいる5人。
詩音「点数で勝負よ」
茜「その前にトイレ」
詩音「待ちなさい」
   いがみ合いながら出ていく2人。
幸太郎「負けず嫌いだな」
奏音「2人ともね」
ひばり「ふふふ」
幸太郎「楽しそうだな、ひばり」
ひばり「うん! 茜、楽しそう」
幸太郎「(微笑み)そうだな」
奏音「楽しそう?」
ひばり「茜って口は悪いけど、ホッとけない性
  格。おせっかいさんなんだ」
奏音「……そうなんだろうね。詩音があんなにも楽
  しそうにしてる姿、久々に見た」
幸太郎「え」
奏音「僕たちの周りには、一緒に遊べるような友
  達いなかったから。同年代なんかは特に」
   ドンッとドアが開き、詩音と茜が入ってく
   る。
詩音・茜「勝負だッ」
     *    *    *
   チーンとお葬式の様に疲れ果てている詩音
   と茜。
詩音「あなたが、あんなに上手なんて」
茜「嫌味か。100点連発ってどういうことだよ!」
奏音「詩音は絶対音感があるから。音を外さない
  んだよ」
茜「はあ?」
詩音「外さないだけよ。上手いかどうかは別」
幸太郎「上手いだろ、普通に」
詩音「音が合ってるからと言って、その歌が相手
  の心に響くかどうかは別ってこと」
奏音「がたいに似合わない幸太郎のか細い歌声の
  方が響いたよ、僕には」
幸太郎「バカにしてんのか」
茜「でも負けは負けだ」
詩音「引き分けっていうのはどう?」
   ガチッと握手する2人。
奏音「何を見せられてるんだろう」
詩音「あ、児玉さんは歌わなくていいの?」
ひばり「え?」
茜「ひばりは恥ずかしがりだから、いいんだよ」
詩音「そう。聞いてみたかったのに」
ひばり「ご、ごめんなさい」
詩音「……」
 
○たまきの家・奏音の部屋(夜)
 
   サッカー雑誌を読んでいる奏音。
   コンコンと入ってくる詩音。
奏音「?」
     *    *    *
   奏音のベッドに寝そべっている詩音。
詩音「私、余計なこと言ったかな」
奏音「児玉さん?」
詩音「うん」
奏音「気にすることないんじゃない。楽しいって
  言ってたし」
詩音「(顔が明るくなり)ホント?」
奏音「……何か変わったね、詩音」
詩音「え」
奏音「そんな表情見せなかったじゃん、オースト
  リアに居たときは」
詩音「……」
奏音「で、このままでいいの?」
詩音「……」
奏音「やりたいんだろ、バンド。その為に日本に
  来たんだし」
詩音「……でも私ひとりでまた暴走したら」
奏音「大丈夫だよ、きっと。僕もフォローするか
  ら」
詩音「奏音……(立ち上がり)まずはボーカル探し
  ね!」
奏音「先に軽音部じゃない?」
詩音「軽音……ぶ?」
 
○桜神社・入り口(日替わり)
 
   『祝 桜祭り 1000年祭』の立て看板
   ──。
   多くの人で賑わっている。
 
○同・境内
 
   賑わう境内──屋台がズラリと並んでい
   る。
     *    *    *
   おみくじ売り場に巫女装束を羽織ったひば
   り、詩音、茜がいる。
詩音「あ、ありがとうごいます」
   お客さんに頭を下げる詩音。
茜「何緊張してんの」
詩音「緊張するでしょ。何なのよ、急に手伝って
  って」
ひばり「(モジモジして)ごめんね、詩音さん。
  来れなくなった人がいて」
詩音「あ、いいのいいの。私もいい経験させても
  らってるから」
   「すいません」の声。
詩音「ひゃい」
茜「(ぷぷぷと笑いを堪える)」
幸太郎「ひゃいってキャラじゃないだろ」
奏音「(スマホを詩音に向けて)いいネタになる
  な」
   カシャとスマホのシャッターを切る。
詩音「奏音!」
   「お姉ちゃん」と、神主装束を着た児玉隼
   人(13)が来る。
ひばり「隼人?」
隼人「(見て)いつもお姉ちゃんがお世話になっ
  てます。いたらない姉ですが、今後ともお付
  き合いのほど、よろしくお願いします」
詩音・奏音「(呆気に取られ)」
茜「(隼人の耳を引っ張り)何大人ぶってんの、
  隼人ぉ」
隼人「痛たたたたッ、ちょっとぉ、茜ぇ!」
幸太郎「(隼人に)よッ」
隼人「幸太郎さん、久しぶり痛ああああ」
茜「(耳を離し)で何しに来たの」
隼人「(赤くなった耳を押さえ)暴力女め」
茜「何てええ?」
隼人「姉ちゃんを呼びに来たんだよ。準備がある
  から」
ひばり「もうそんな時間? ごめん、ちょっと抜
  けるね」
   出ていくひばりと隼人。
茜「いってらぁ」
詩音「……」
 
○同・大桜前のステージ(夕方)
 
   ぞろぞろと人が集まっている。
   私服姿の詩音、茜、そして奏音、幸太郎が
   いる。
詩音「何が始まるの?」
幸太郎「神楽だよ」
詩音「かぐら?」
茜「皇室や皇居と深い関わりがある神社で行う歌
  舞を御神楽と言って、民間の祭儀で行う歌舞
  を里神楽」
詩音「???」
幸太郎「これから歌と音楽と踊りが行われるって
  わけ」
奏音「なるほど」
茜「この桜神社では、桜神楽って言うの」
詩音「……」
   小鼓のポンポンと音が聞こえてくる。
茜「始まるよ」
詩音・奏音「(何が始まるのかとドキドキしなが
  ら)」
   小鼓の音に合わさり、笏拍子、篳篥(ひちり
   き)、神楽笛、和琴の4種の音が、面を被っ
   た神楽男たちによってリズムよく奏でられ
   ていく。
奏音「わああ」
   と、透き通った歌声が聞こえてくる。
詩音「!」
   手に幣(みてぐら)を持ち、面を被った巫女装
   束を羽織った女性が舞い踊り、歌いながら
   出てくる。
巫女「(歌い舞って)!」
   固唾を呑んで見ている一同。
奏音「凄い」
詩音「(ツーと涙が頬をつたる)え」
   歌い舞い踊る巫女の姿は、夕陽に照らされ
   女神が降臨したかのような姿に見える。
詩音「(涙が止まらない)」
N「もちろん、神楽が何なのかわかるわけではな
  かった。初めて耳にした音は、日本の伝統文
  化なのだろう、それぐらいの知識しかなかっ
  た」
奏音「これは……」
幸太郎「今年はヤバいな」
茜「(も涙を流している)」
巫女「(汗がキラリと飛び散る)」
N「が、その音と舞、そして……歌声に心を奪われ
  た」
詩音「(胸を抑えながら、見つめ)綺麗」
   大桜が称えたかのように、桜の花びらが辺
   り一面に降り注ぐ。
巫女「(面の下から覗く、輝いた表情で)!」
 
              第3話へ続く
 

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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