東浩紀「観光客の哲学 増補版」

東浩紀先生の「観光客の哲学 増補版」を読みました。1週間くらいかけた読書は久々です。
仕事(弁護士)の関係で、いろいろと法律雑誌は読むのですが、ある程度の速さで読まないとこなせない量ですし、さすがに弁護士を10年近くやっていると題名から内容についてある程度の推測はできますし、法律に関することなので慣れているということもあって、そういうのは早く読めるんです。
しかし、哲学書というものはとにかく読みにくいです。何言っているのかわからないことも多いです。

そんな中で東浩紀先生の文章は門外漢にも読める文章(一定程度難しさはあるけれども)で書かれています。
大学でちょっとだけ思想をかじった私ですが、もはや先人が正確に何を言っているのか(誰が何を言っていたのか)を覚えてはいません。
それをちゃんと覚えていて、自分なりに解釈しておられて言語化できる研究者ってすごいなあと思います。

そして、東浩紀先生のすごさは、先人の研究の結果を普通の人にわかるように伝達する能力の異常なまでの高さだと思います。
なお、本書についてはゲオルグさんという方がすでに秀逸なレビューを書いていますが、
https://note.com/georg69/n/n67ea52b5f840
その中で「哲学を民主化している」とおっしゃっています。
まさにその通りで、特に現在のリーダビリティが重視される世の中では、「何を言っているのかわからない」というような思想はあまり普及しませんよね。
フランス現代哲学はまさにそれで衰退していったわけですし(ソカール事件とかいろいろありましたしねえ)。

東先生の意識として、「現実の生きている人間、私たちに役立つ考えがあるはずだ」ということをとても意識されていて、それは文章の全体に流れる考えであるなと思います。
まさに大学の先端的な哲学(わかるまでとても時間がかかる)人たちとの差異がそこにあるのだろうなと思います。
もちろん、東先生の考えを理解するためにはある程度の教養は必要ですし、そこは皆さん頑張ろうという所ですが、比較的到達しやすい頂におられるかと思います。

とはいえ第5章の本論は流石に主論ということもあり、とても難解でした。
読み直したけどまだちゃんと血肉になっていないなあということは思います。

gennron12で掲載されていた訂正可能性の哲学も今月には内容を新しくして出るということでそれもとても楽しみですなあ。

あと、個人的な体験として、人文系で「生きている人」の文章を読む機会が少なかったので、それはとてもエキサイティングでした。
これを書いた人が、今ちゃんと生きて生活してものを考えているんだ、というのは、亡くなった方の文章を読むときと何かが違うんでしょうかね。
未来にひかれている感じを持つのかもしれません。

私自身、癌の病身で5年後10年後を語ることは難しい身分ですが、生きている間は楽しい読書をしたいなあと思いました。
皆さんも読もうぜ!

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