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徳島県の地域リハビリテーション支援体制

 こんにちは。私は大阪府の北摂地域で、作業療法士として約13年間のキャリアを重ねてきました。地域社会に何か意義深い貢献をしたいという思いから、全国の地域リハビリテーション支援体制がどのように成り立っているのかを調査し、各地での工夫について学ぶことに決めました。

 今回の記事は、徳島県の地域リハビリテーションです。地域リハビリの支援体制を築くために、理学・言語・作業療法士の協会がどんな役割を果たしてきたのか、その歴史や特に素晴らしいと思うポイントについてシェアしています。

 この記事を読んでくださったあなたに、何かひらめきや新しいアイデアが生まれたらいいなと思っています。もしよかったら、ぜひ読んでみてください。


(1)在宅リハビリテーション体制整備事業

 徳島県の「在宅リハビリテーション体制整備事業」取り組みが、2015年10月28日に開催された「第5回医療介護総合確保促進会議」で紹介されました。この会議は、厚生労働省が主催し、全国のモデルとなるような事業や取り組みが共有される場として注目されています。

 徳島大学をはじめとする実施者たちによって進められたこの事業は、在宅リハビリの現状を把握するための調査からスタートしました。その上で、リハビリ専門職と医師、行政との意見交換の場が設けられ、患者さんが病院の急性期から回復期、そして在宅療養に移行しても、途切れることなくリハビリテーションを受けられるよう、「リハビリ手帳」の発行が検討されました。

 この事業の財源には、消費税率が5%から8%への引き上げによって得られた税収が充てられ、1,400千円が国から、そして700千円が徳島県から提供されました。事業を通じて得られた重要な成果の一つは、医療職を含む多職種間の相互理解と情報共有の重要性です。この成果を受けて、ICTの利用による支援体制の強化が検討されました。

 2016年度には、関連ツールの開発が行われましたが、評価項目の設定の難しさや共同開発企業の事情により、残念ながら中止となりました。それでも諦めずに、2017年度には多職種情報共有ツールとしての再検討がなされ、翌2018年度にはその完成を見ることができました。このツールを通じて、在宅リハビリテーションに関わる職種の人材育成が推進され、事業はその役目を終えました。

 本記事では、全国に示範を示すようなユニークな取り組みを実施している徳島県における地域リハビリテーション支援体制に焦点を当て、地域リハビリの更なる充実と発展に向けた可能性を探っていいきます。

(2)地域リハビリテーション体制整備支援事業

 地域リハビリテーションの普及とその重要性は、国が1999年に補助事業としてその事業を開始した時から認識されていました。この事業は、寝たきりや要介護状態への移行を予防し、地域住民の生活の質を高めることを目的としています。当初は7つの都道府県で実施され、その後、2005年までには41の都道府県に普及しました。しかし、翌年には国の補助事業の目標が達成されたとして、補助が終了し、各都道府県の一般財源に移行しました。結果として、事業を継続する都道府県の数は減少し、2009年には30都道府県にまで減ってしまいました。また、実施している都道府県の中でも、事業の内容や質、連携している機関の数に大きな差が生じていました。

 徳島県においては、2008年3月に徳島大学病院が徳島県地域リハビリテーション支援センターの拠点病院として指定されました。これを支援するために、さらに6つの病院が地域リハビリテーション広域支援センターとして指定されましたが、県からの予算配分はされていませんでした。県主導でのリハビリテーション協議会の設置や人材育成の研修なども行われず、指定された各機関が自主運営を余儀なくされ、積極的な活動が難しい状況にありました。

 それでは、このような状況の中で、徳島県の地域リハビリテーションの体制はどのように築かれたのでしょうか。

(3)鳴門市と地域リハビリを進めた組織

 2014年の介護保険制度の改定により、地域リハビリテーションの支援体制において重要な転換点が訪れました。それまで国が中心となって内容を定めていた介護サービスが、市町村ごとに地域の実情に合わせた独自のサービスを計画し、展開するように変わったのです。加えて、「地域リハビリテーション活動支援事業」という新たな枠組みが設けられ、専門職による高齢者支援がより積極的に行える環境が整いました。

 この流れを受けて、徳島県の鳴門市は先駆的な取り組みを開始しました。市は2015年、リハビリ専門職団体である「一般社団法人徳島県作業療法士会」や「公益財団法人徳島県理学療法士会」と「介護予防の充実及び地域リハビリテーション活動の推進に関する協定」を結びました。この協定により、介護が必要になりうる高齢者を対象に、体操教室の開催や自宅訪問でのアドバイスといったサービスが実施されるようになりました。さらには、住民が自ら運営する「いきいきサロン」の設立や、地域ケア会議、認知症対策推進事業といった多角的な活動が行われました。

 これらの努力が実を結び、2021年3月に発表された「鳴門市第8期高齢者保健福祉計画及び介護保険事業計画」は、より充実した内容となりました。多様な機関が協力し合うことで、高齢者が地域で自立した生活を続けられるよう、手厚い体制が整えられたのです。 

(4)リハビリ専門職団体の苦労と功績

 作業療法士会と理学療法士会による鳴門市への支援を皮切りに、言語聴覚士会も加わり、県下の市町村に広く支援の手を伸ばしています。この協力体制は、2016年2月の「リハビリテーション専門職協議会」の設立によって、更に強化されました。この協議会は、地域支援事業や合同研修会、そして訪問リハビリといった活動を通じて、地域福祉の推進に寄与し、2021年度からは災害時の支援も手掛けるようになりました。

 このような取り組みが地域で広がる一方で、その背景には、様々な困難が存在していることを、我々は忘れてはなりません。

 一般社団法人日本リハビリテーション病院・施設協会が提供する「地域包括ケアシステム構築に向けた地域リハビリ整備マニュアル」によれば、リハビリ専門職団体が都道府県リハビリテーション協議会や県リハビリテーション支援センターなどの機能を果たす場合、その任は決して軽くないとされています。特に、人材の調整において、病院勤務のリハビリ専門職が地域へ派遣される際には、勤務先との調整が難しいという課題が挙げられています。

 さらに、地域リハビリの整備に積極的な自治体では、20を超える団体や専門職が協議会に参加しており、サービスの多様化や役割分担が進んでいます。しかし、専門職団体の数が少ない場合には、専門家がさまざまな知識や技術を身につけ、サービス提供を行う必要があります。

 2016年には、大阪府で行われた北摂療法士連絡会主催の勉強会で、徳島県作業療法士会の経験が共有されました。そこでは、鳴門市に派遣する資格のあるスタッフの確保や、事業運営の苦労について深い洞察が語られました。参加者からは、その迅速な対応とサービス提供が高く評価され、他地域から参加した行政職員からも多くの質問が寄せられました。

 徳島県の地域リハビリテーション支援体制は、専門職団体の努力によって、着実に進化し続けています。また、専門職団体間の連携強化は、地域包括ケアシステムの発展にとっての鍵となっています。

参考文献
【註1】厚生労働省H P、第5回医療介護総合確保促進会議、『平成26年度地域医療介護総合確保基金(医療分を活用した事業の事後評価について)』(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000102560.html)、2022年5月12日時点。
【註2】徳島県、『平成27年度徳島県計画に関する事後評価』(https://anshin.pref.tokushima.jp/med/docs/2016040700013/files/H27hyouka.pdf)、38〜39ページ、2022年5月12日時点。
【註3】厚生労働省老健局老人保健課、『各都道府県の地域リハビリテーション関連事業の実施状況等』(https://www.pref.chiba.lg.jp/kenzu/shingikai/rehabilitation/documents/siryou6_3.pdf)、2022年5月12日時点。
【註4】公益財団法人徳島県理学療法士会HP、情報公開、『総会資料(平成25年度〜令和4年度)』(https://www.tokupt.or.jp/report)、2022年5月12日時点。
【註5】北摂療法士連絡会、『第19回北摂療法士連絡会』(http://toyono.web.fc2.com/19-hokusetu.pdf)、2022年5月12日時点。
【註6】鳴門市、『第8期鳴門市高齢者保健福祉計画及び介護保険事業計画【素案】』(https://www.city.naruto.tokushima.jp/_files/00365451/kekka_choju_no8_soan.pdf)、2022年5月12日時点。
【註7】一般社団法人日本リハビリテーション病院・施設協会発行、『地域包括ケアシステム構築に向けた地域リハビリテーション整備マニュアル』(https://www.rehakyoh.jp/wp/wp-content/uploads/2021/04/r02roukenmanual.pdf)、2022年5月12日時点。

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