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地域リハビリとインセンティブ:習い事を通じた社会参加の促進

 本記事では、医療・介護分野の一次予防領域において実施されているインセンティブ事業に注目し、「習い事と社会参加」の事例を特集しています。

 作業療法士として3次予防の領域で働く私は、病気や介護が必要な方々の日々の活動性を向上させるために趣味を通じたアプローチを取り入れています。しかし、新しい趣味や活動に挑戦することは、高齢者にとって意外と難しい課題です。特に、新しい趣味への躊躇や不安は心理的なハードルとなりがちです。

 加えて、昔楽しんでいた趣味を再開してもらう試みも容易ではありません。多くの高齢者は、以前容易にこなしていた活動が今では難しくなっており、これが自信の喪失に繋がることがあります。その結果、以前の趣味を継続することは思うように進まないこともあります。

 これらの経験から、一次予防の段階で健康状態やライフステージに合わせた新しい趣味に挑戦することの重要性が明らかになります。初期段階で新しい趣味や活動に取り組むことで、高齢者が将来的により高度な介護が必要になった際にも、これらの経験が役立つ可能性があります。このプロセスは、3次予防の領域におけるリハビリの効果を最大化することができると考えられます。

 本記事では、民間大企業が受託し運営する4つ習い事と社会参加に関連する事業を紹介します。愛知県豊田市の「ずっと元気プロジェクト」は、ドリームインキュベータがノウハウを活かし、大阪府堺市の「あ・し・た」プロジェクトは阪急阪神ホールディングスの子会社が、多彩で質の高いサービスを提供しています。奈良県天理市の「脳の健康教室」では、アカデミー賞でも話題となった手法が用いられ、岡山県岡山市の「S I Bを活用した生涯活躍就労支援事業」では、人材派遣や転職支援事業を手掛ける株式会社パソナと株式会社グロップが社会参加をサポートしています。

 この記事が読者の皆様にとって、社会参加への新たなアプローチのヒントになることを願っています。それでは、どうぞお楽しみください。

1.「JAGESプロジェクト」とは

 このプロジェクトは、健康長寿社会を目指す日本老年学的評価研究(JAGES)によって推進され、千葉大学の近藤克則教授が代表を務めています。JAGESは、低所得者の高齢者が高所得者に比べて要介護認定を受ける割合が高いことを発見し、ソーシャルキャピタルを活用してこの問題に取り組んできました。

 具体的には、2003年の大規模調査を通じて、所得の低さと鬱病、地域の会への参加と転倒頻度の関連を明らかにしました。さらに、自治体でのボランティアによるサロン運営が要介護認定や認知症の発症を減少させることも判明しました。この研究は、全国の自治体が行う介護予防・日常生活総合支援事業における「集いの場・通いの場作り政策」の基盤となりました。

 JAGESは、現在もWHOを含む国内外の機関と共同研究を行い、成果連動型民間委託契約方式の評価者としても活躍しています。このプロジェクトは、予防医学と社会参加の結びつきを強化し、地域社会に大きな影響を与え続けています。

 そして、2013年のJAGESの研究に参加していたのが、愛知県豊田市で、その研究を発展させたのが、「ずっと元気プロジェクト」になります。

2.ずっと元気プロジェクト

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