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ヘビの飼い方⑤ヒゲミズヘビ

ヒゲミズヘビErpeton tentaculatumは一般名の ”Tentacled snake(触手ヘビ)" の名の通り、鼻先にある触覚のような突起が特徴です。この特徴的な "触覚" は索餌、あるいは外敵の察知に使われます。

ヒゲミズヘビは水生種の "入門種" と言えるかもしれません。多くの水生のヘビに必要な作業を全うすれば健康障害の心配が少なく、水生種としては餌の要求量もそれほど多くない点からも、見た目ほどのクセは少ない種だと言えるでしょう。

自然下ではタイ、ベトナム、カンボジアなど東南アジア各地の水田や湿地、クリーク、池や沼などで見られるヘビで、成長しても最大1mに満たない程度にしかなりません。この点もペットスネークとしてのメリットかもしれません。

以下、飼育のポイントを具体的にご紹介して参りましょう。

運動量は比較的多い、ケージサイズは大きめに

水生のヘビの中にはミズモグリ属Hydropsなど、シェルターやブッシュに潜り、摂餌の際以外はほとんど動かないというようなヘビもいます。
しかし、ことさらヒゲミズヘビについていえば、比較的動きの多いヘビだと言えるでしょう。

摂餌の際も独特の動きで身体を歪曲させ、餌となる魚類を頭から飲み込みます。このユニークな摂餌の様子もこのヘビを飼育する醍醐味の一つですが、同時にこうした動きに支障がない程度の広さのケージが必要だともいえるでしょう。

一応の目安としての理想的なケージサイズは以下になります。
横幅:頭胴長の1.5倍以上
奥行き:頭胴長と同サイズ以上
高さ:頭胴長の1.5倍以上

陸生のヘビとは異なり、ケージに十分な通気性などは必要ありませんが、壁面を伝って脱走することが得意ですので、堅牢性が求められます(全面アクリル製のケージが理想です)。
また天面は必ず施錠できる仕組みとし、ヘビが脱走しない程度の強さ、そして網目のスパンが細かい金属製のメッシュ板を使用したカスタムケージを用意する方がよいでしょう。

また、臆病な性格は他の多くのヘビと変わりませんので、全面クリアなケージを使用するというような場合には、側面4面のうち3面はタオルなどで覆って視認性が高すぎないようにする工夫が必要です。

底材と水の管理

ヒゲミズヘビに限らず、水生のヘビで最も重要なポイントが "底材" と "水" の管理です。
傾向としては若干アルカリ性に寄った水が良く、それを考慮した底材が適しているというのが基本的な考え方です。

底材に適した素材は麦飯石もしくは溶岩石、これにクヌギやクリ、ブナ、カエデ、カキなど落葉広葉樹の枯葉を底に3-4㎝程度堆積するようにして使用します。
*枯葉は近くに農薬を使用している農園、果樹園などがないことを確認したうえで、近くの公園や街路などに落ちているものを使用できます。また、使用にあたっては水道水に2-3日つけて "アク抜き" をしてください。

こうした枯葉を使用すると酸性傾向に水質が寄るのではないか、とお感じの方もいるかもしれません。
しかし、実際に使用してph値を計測してみていただくと、いかがでしょうか。麦飯石や溶岩石を入れていることとは無関係に、これらを使用することによって極端に酸性傾向に寄ることはないのではないかと思います。

酸性傾向に寄るとすれば、おそらく原因はバクテリアによる排泄物等、有機物の処理が不十分なためではないかと推測されます。

なお酸性傾向を予防・確認するためには10日~2週間に1度、ph値をチェックすると同時に、硝酸塩およびアンモニアのテストを行うことが有効です。
このテストでph値、および硝酸塩とアンモニアの数値に異常が出た場合にのみ水槽の水を1/3程度入れ替えて水質の浄化を図ります。

硝酸塩とアンモニアの数値を確認、水の換水をしていれば濾過フィルターは投げ込み式の簡単なもので問題ありません。
*もちろん、ケージは濾過フィルターの使用を想定した仕様とする必要があります。

麦飯石や溶岩石を底材に使用することにより,多孔質なこれらの鉱物の表面に有機物を分解する微生物が付着しやすくなるものと思われ、硝酸塩やアンモニアの数値は立ち上げ後1カ月程度でかなり安定することと思います。

シェルターとして使用できるもの

ヒゲミズヘビのシェルターとして適したものは、彼らが ”身体を絡ませることができるもの” です。基本的な考え方は陸生のヘビと同様で、できるだけ多くの体表面積を何かに触れさせていたい、というのが彼らの希望なのでしょう。
したがって筒状のものや、ドーム型のものは 設置しても使用してくれないことがほとんどです。

水中シェルターとして適したものの1つは、竹製の ”ささら” と呼ばれる清掃用具です。
これの先の部分を放射状に広げ、根元を釣りで使う鉛製のワイヤーシンカーでぐるぐる巻きにすると底に沈んで理想的なシェルターとなります。
*放射状の部分を含めた "全体の半分(左右どちらかのサイド)" にもワイヤーシンカーを巻き付けることでささらが水底で ”横倒し” になり、よりシェルターとしての有効性が高まります。

これはサイズ的には幼蛇から若い個体で使用できるアイテムですが、より成長したサイズの場合には模造水草が有効です。
模造水草にもいろいろな形状がありますが、樹木のように中心から放射状に ”葉” の部分が広がっているものが理想的です。

これをいくつも集めて水槽内の一部に ”模造水草の森” 状の場所をつくると、ヒゲミズヘビがシェルターとして利用してくれます。
イメージとしては、水中に "ブッシュ(茂み・やぶ)" をつくるというような感じでしょう。

なお、"模造水草" については製品によっては強い "樹脂臭" が沁みついてることもあります。こうした場合には重曹水に1週間ほどつけ、さらに10日から2週間ほど天日干しにすることで匂いはほとんど気にならない程度になります。

"適正水温" とその作り方

ヒゲミズヘビに適した水温は摂氏25~27,8℃程度が目安です。ポイントは水槽内各所にあまり極端な温度勾配ができないこと、すなわち水中で "暑い" ところと ”寒いところ" の差が少ないことが理想です。

とはいえ先の通り、ある程度の広さのケージを用意することを想定した場合には観賞魚用、あるいは爬虫類用のヒーターを使用しての適切な温度調整は現実的には難しいと考えられます。
部分的に温度が高すぎる(酷い時にはヘビが火傷を負うこともあります)、あるいはうまく熱が伝わらない(水温が低い場合には皮膚疾患が起きやすい傾向があります)ということが往々にしてあるためです。
*ヒゲミズヘビは水温変化、水温勾配には非常に敏感なので、水槽内の複数個所に水温計を設置することが理想的です。

水槽内の水をまんべんなく穏やかに温めるのに有効な加温・保温器具は、陸生種と同じようにヒト用に作られたホットラグです(部屋とケージの温湿度操作①加温と保温|cobra_thief (note.com))。
これで水槽側面の周囲3面(観察用の手前側を除いた3方向)を覆い(水槽のサイズによってはホットラグが2-3枚程度必要な場合もあります)、ビニールひもなどで縛って固定します。

部屋の環境によりこれでも水温が低すぎる場合には、さらに底面にもホットラグを敷くことで十分な暖かを保つことができるでしょう。

自然光が射す場所に水槽を設置する

これはヒゲミズヘビだけでなく水生のヘビ全般に言えることですが、陸生種と同じく自然光の照射が欠かせません。

いわゆる "紫外線ライト" の波長だけでは拒食が起きる(地中生のヘビと同じく彼らにおいても自然光で1日あるいは1年の周期を感じているものと思われます)、あるいは皮膚疾患が生じる(水生種はヒゲミズヘビ以外においても全般的に皮膚組織があまり強くなく、水カビ病のような感染症を発症するケースが多く見られます)リスクが高くなります。

ヒゲミズヘビは主に日中に活発に運動する傾向があり(摂餌行動を含む)、概ね5-6時間程度は自然光が射す場所に水槽を設置する必要があります。

餌として使用できる魚類

餌は魚類、それも生きた魚類を与えます。ヒゲミズヘビは他の水生のヘビと比較すると餌の要求量は多くない方ですが、とはいえ成蛇であっても年間を通じて1週間から10日に1度は餌を与えた方がよいでしょう。

栄養価やカロリー量などを鑑みた際、最も適した魚はドジョウMisgurnus anguillicaudatusです。成蛇であれば1度の給餌機会で概ね4-5匹程度(ドジョウは4-5㎝前後の場合。さらに大きいサイズの場合には2-3匹程度に適宜調整)が理想的です。

ドジョウは脂肪含有量は少ないので、多少多めに与えても問題ありませんが、あくまで水生種の消化器系は強くありませんので、飼育個体の様子を見ながら与えすぎには十分に注意してください。

また、ごくまれにネズミ類に餌の嗜好をリードするというような記事も見られますが、水生種にそうした給餌は潜在的に致死のリスクが付きまといますので絶対に避けた方が良いでしょう。

ドジョウのほかに与えるとよい(栄養価, カロリーなどを考慮して)魚類には、淡水生ハゼのヨシノボリ(オオヨシノボリRhinogobius fluviatilisなど)やドンコOdontobutis obscura(かつてハゼ目、現在はスズキ目)、コイ科ではカマツカPseudogobio esocinusなどが適しています。
これらの魚類は観賞用に販売されているものを入手できますので、しばらく自家飼育してデトックスしたうえで与えるのがよいでしょう。

なお、一部のコイ科の魚類やワカサギなどはビタミンBを破壊する酵素 "チアミナーゼ" をもつため、与えない方が良いという情報もありますが、これまでの飼育経験では実際にどのような悪影響があるのかを確信できる事態はありません。
ただし餌用に販売されている小金やメダカなどは、カロリー量が頼りないことに加え、餌として何を与えられているかわからない不安もありますので、万全を期すのであれば控えるか、ヨシノボリなどと同様に自家飼育でデトックスしてから与える方がよいでしょう。


今回は "水生ヘビ" の入門種として適したヒゲミズヘビの飼育についてご紹介して参りました。
外見や捕食の様子がユニークで、うまくすると20年以上生きるとされ、”これから水生種と付き合っていきたい” とお考えの方に "最初の水生種のヘビ" として自信をもってオススメできる種だと思います。

なお "卵胎生" ということはわかっていますが、繁殖については私も経験したことはなく、省略させていただきましたことをご容赦いただけましたら幸いです。
加えてもし繁殖に成功した、という方がいらっしゃいましたら、ぜひともご教示・ご案内賜れますと嬉しく思います。

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