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ヘビの飼い方①ガーターヘビ

ここまで、大まかに ”ヘビ全般” における飼育の基本についてご紹介して参りました。
"ヘビ" と一口に言っても、種によっては(たとえば霊長類でいえば)人とシロガオサキPithecia pitheciaほども違うものがいますので、一律に飼育方法を統一するということができない場合も少なくありません。 

そこで、ここからは(同じ種、同じ亜種でもかなり生態が異なるものはいますが)ヘビの "種" ごとに飼育のポイントを具体的にご紹介して参りましょう。

まず第1回はガーターヘビ(Thamnophis)についてご紹介します。
このヘビは非常に飼育が容易、かつ美しい亜種が多く、素晴らしい動物だと思いますが、なぜかいろいろと誤った情報が流通しているようです。

同じ北米産のヘビでもコーンスネークやセイブシシバナヘビなどは、飼育についての書籍が刊行されているにもかかわらず、このガーターヘビについて記された書籍というのはついぞ見たことがありません(洋書は除く)。
*過去には雑誌で特集された記事などはあるようですが、その内容もこのヘビに適した飼育方法が紹介されているか、というとそこからはかなり遠くかけ離れた内容のようです。

そこでこの素晴らしいヘビの飼育方法について、以下にご紹介することといたしましょう。

運動量は多いヘビ:ケージサイズは広めに

まずこのヘビはかなり臆病、かつ運動量の多いヘビで、それに応じた広いケージが必要となります。逆に狭いケージで飼育した場合には運動不足による肥満の傾向が顕著となるほか、”動けない” ことによるストレスが原因と考えられる様々な疾病によって早逝するリスクが高くなります。

一般的にこのヘビの寿命は10-12年などと紹介されますが、これは私の考える寿命からするとかなり短い印象です(私のうちでは15年を過ぎても元気にしている個体もザラにいます)。
おそらく飼育下における環境の不備により、本来の寿命よりかなり短くなっているのではないかと推測されます。

理想的なケージサイズはかつてご紹介した規格("理想のケージ" とはどんなものか|cobra_thief (note.com))でよいと思いますが、これに従えば必然的に生涯において2度から3度程度ケージの更新を余儀なくされます。
年齢に合わせて、しっかりと運動できるサイズのケージを用意してあげること、これがまず何よりも大切なことです。

温度と湿度の管理

ケージについてご紹介したのと合わせて、温度と湿度の設定についてもご紹介しましょう。

近年流通しているガーターヘビでは、メキシコ原産の亜種が多いようです。これらの亜種を含め(多くの亜種の原産地は北アメリカ各地方およびカナダ)、いずれも ”低温には比較的強く、” 高温には非常に弱い " 傾向があります。

したがってまず、温度についてはあまり上がらない設定とした方がよいでしょう。"一応の目安" としての適性温度は気温の低い時期が摂氏18℃~25℃、気温の高い時期が摂氏25℃~30℃程度と考えられます。

次に湿度についてご紹介しましょう。
一部の亜種を除き、比較的水辺に依存していることが影響してか高湿を推奨する情報もありますが、ガーターヘビについても他のヘビと同様、どちらかというと乾燥した飼育環境の方が健康状態が良好な傾向があります。

これはおそらく、以前にご紹介したように "空気の動き" と関連したもので(部屋とケージの温湿度操作③湿度管理|cobra_thief (note.com))、高い湿度であっても空気に明確な動きがあれば(空気が解放されていれば)よいのでしょうが、ケージ内のように空気がこもる傾向のある環境では乾燥気味のほうがよい、ということなのだと考えられます。

一応の理想的な湿度の目安は乾燥した時期が30~50%、梅雨時など比較的湿度の高い時期が60-70%程度といったところでしょうか。

餌は何でも食べるが消化器系は比較的脆弱

次に餌についてです。
メダカや小金など、餌用に販売されているコイ科の魚類を与えるという情報が紹介されていますが、これらは栄養価を考えると心もとないと言えます。

魚類を与えるのであれば栄養価を考えるとほぼドジョウだけがよいですが、このヘビの嗜好を考えるとさまざまな餌をブレンドして与える方がよりよいでしょう。
具体的には、かつてご紹介した雑食性のヘビの餌としてむく様々な動物性の餌たちです(ヘビの餌:①雑食性のナミヘビ類の餌|cobra_thief (note.com))。

ネズミ類についても与えれば食べる個体が多いですが、ガーターヘビは比較的消化器系が脆弱な傾向がありますので、あまり大きなものではなく、与えるとしてもピンクマウスなど毛が生えていないサイズのものがよいでしょう。

給餌間隔についてもあまり詰めて与えると消化器系へのストレスとなります。
ガーターヘビのように自然下で外温性動物を主食としているヘビに対しては、できるだけ消化のよいものを、身体のなかに餌が残っていない状態まで待ってから与えるという意識が重要です。
一応の目安としての給餌間隔は、気温の低い時期が20日~3週間に1度、気温の高い時期が10日~2週間に1度です。

ケージ内の環境設定

ガーターヘビは一部の亜種を除き、ほとんどが遊泳を好む傾向があります。これを考えると、ケージ内には泳いだり潜水したりすることができる程度の大きさをもったウォータープールを設置する必要があります。

また、それとは別にヘビが飲用に利用できるトレーのように深さのない水場を設けることで、万が一、ウォータープール内で排泄をした場合に備えることができます。

床材についてはガーターヘビは特に地中に潜ることを好むことから、用土などの柔らかい素材とするか、あるいは地中にシェルターを埋めた ”半地下型シェルター” を設置するのがよいでしょう(床材の考え方|cobra_thief (note.com), ヘビにとってシェルターとはどんな場所か|cobra_thief (note.com))。 

自然光がしっかりと射しこむ場所にケージを設置

気温の低い時期、高い時期を問わず、ガーターヘビはバスキングを好む個体が多い傾向があります。したがって、特に晴れた日には自然光がしっかりと射しこむ場所にケージを設置する必要があります。
先にもご紹介した通り、高温には非常に弱いことから1日のケージ内温度の変化を確認しつつ、おおむね5-6時間程度は陽がケージ内に射すことを確認してケージの設置場所を決定するとよいでしょう。

繁殖・出産と仔ヘビの管理について

ガーターヘビは仔ヘビを産む ”卵胎生” で、多くの場合、気温の低い時期が開けて暖かくなるとともに交尾・交接を行います。
孵化後、おおむね2年程度で性成熟し、交尾・交接を行えるようになることが多いようです。

一部には繁殖スイッチが入るためには、気温の低い時期にあえて ”低温状態にさらす必要がある” などという情報がまことしやかに紹介されることがありますが、これはヘビの健康を考えると非常に危険なことです(ガーターヘビだけではなくほかの種のヘビでも絶対に避けた方がよいでしょう)。

短期間でいたずらにケージ内温度を下げることはヘビのストレス負荷を高めると同時に、呼吸器系、循環器系あるいは神経系の健康異常の原因となるリスクがあります。
また、一度下げた温度を元に戻す際にも身体に負担がかかり、以降、恒常的な拒食が起こるというケースもあるようです。

ヘビが最も嫌がる(ヘビに最も負担がかかる)ことは短期的に急激な温度・湿度の乱高下が起こることですし、どんなに保温・加温器具を使用していても自然に温度は上がったり下がったりします。
この自然な(多くの場合緩やかな) 温度変化だけで、繁殖のON/OFFの切り替えには十分な効果があります。
あくまでも人為的、かつ不自然な温度操作はヘビの身体に大きな負担をかけるのだ、ということは留意をしておく必要があります。

ケージ内にストレス要素が少ない場合には、多くのケースで交尾・交接の様子を確認できることがほとんどです。
すなわちオスメスのペアが身体の1/2より後方を絡ませている様子が数十分程度続く、これが数日(連続した数日の場合もあれば日を隔てる場合もあります)にわたって見られれば交尾行動を行っている(行った)と考えてよいでしょう。

妊娠期間は2-3カ月が一般的で、孵化間もない仔ヘビはだいたい10㎝前後のサイズの場合が多いようです。
親ヘビの健康状態に異常がなければ、通常1度の出産で10~20匹程度の仔ヘビを産みます。

多くの場合において孵化後1週間程度から餌を食べるようになりますので、先に挙げたようなさまざまな動物性の餌をブレンドしたものを口に入るサイズに細かくミンチ状にして与えます。

孵化後の幼蛇は1カ月-2カ月程度、親ヘビを含めた成蛇と別にして飼育管理した方が良いでしょう。これは摂餌の際に成蛇が誤って幼蛇を飲み込んでしまう事故を予防するためです。

ガーターヘビのように ”卵胎生" のヘビは "卵生" のヘビと異なり、卵の扱いに気を使う必要もなく、繁殖はそれほど難しくありません。
摂餌中も含め、成蛇どうしの接触トラブルもこれまでに経験したことはありませんので、ケージ内での多頭数の同時飼育でも問題が起こることはほぼ考えられないと言えるでしょう。

ここまでガーターヘビのケージ、温湿度管理、餌、繁殖についてそれぞれご紹介してきました。
まだまだ飼育については誤解の多いヘビですが、ご覧の通り飼育は決して難しくなく、餌もなんでもよく食べてくれます(ガーターヘビの不可解な拒食というのは、少なくとも私はこれまでにただの一度も経験したことがありません)。

また美しい亜種が多く、動きも多いので見ていて飽きない素晴らしいヘビだと思います。
最近は残念ながら北アメリカ産の美麗な亜種は流通があまり多くなくなってしまい、お店によってはべらぼうな値段がついている場合もあります。
しかし繁殖させることも難しくないので、"種" となる個体を入手してご自分で殖やしていくというのも良いでしょう。

先の通り、日本国内では誤った情報が流通して翻弄されることも多いですが、欧州やアメリカでは飼育者も多く、Facebookなどで正しい飼育情報を募る、あるいは交換するということもできることでしょう。

もし現在、購入・飼育を迷っているという方には、自信をもって背中を押せるペットとして大変すばらしいヘビだと言えると思います。
ぜひ飼育に挑戦してみていただけたらと存じます。

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