"理想のケージ" とはどんなものか
次に、ヘビの飼育における "理想のケージ" についてご紹介しましょう。
いうまでもなくケージはヘビそれぞれの特徴に合わせたものである必要があります。
先に部屋はケージを収納する倉庫ではない、と申し上げましたが、同じようにケージはヘビを閉じ込めておくための牢屋ではありません。彼らの生活の場である以上、彼らが暮らしの中でストレスを感じにくい仕様である必要があります。
まず先にヘビのケージに求められる "必須条件(絶対条件)" を挙げてみましょう。
1.空気が常に抜けている通気性
2.絶対にヘビを脱走させない堅牢性。それと同時に鍵を2つ以上設置できる仕様
3.ヘビのサイズと比較して十分な横幅、高さ、奥行き
4.床材を深く敷くことを想定した "天面開閉式"
これらのどれか1つでも欠けている場合には、ヘビの飼育におけるケージとして使うことはできません。そして、市販製品ではこれらを満たしたものは私の知る限りではありませんので、先にご紹介したような "カスタムケージ" を用意する必要があるというわけです。
以下に、それぞれのポイントについて詳しくご紹介しましょう。
1.空気が常に抜けている通気性
ヘビがとても嫌がることの1つに湿度の高さ(さらに正確には湿気がこもった状態)があります。"水辺や熱帯多雨林を好むヘビでは高湿とするのが良い" とする情報がありますが、実際に飼育してみるとこれは明らかな誤りであることがわかります。
自然下で見られるような、空気や湿気が常に開放された "健全な高湿状態" を飼育下に再現することはほぼ不可能だと言えるからです。
その中でも自然下の "空気の状態" に近づけるために有効な方法が、ケージを "常に空気が抜けている状態" とすることです。
具体的にはケージの6面のうちの底面を除いた5面。このうち4面以上を金属のメッシュの仕様とすることが理想的です。これにより常にケージの中を空気が通り抜けられる状態となり、過剰に湿度がこもることがありません。
通気窓に使用する金属のメッシュのスパン(網目の細かさ)は、ヘビのサイズやそれに伴うパワー、あるいは床材としての土に使用する微細生物や土壌動物の脱走も鑑みた上で決定される必要があります。
2.絶対にヘビを脱走させない堅牢性。それと同時に鍵を2つ以上設置できる仕様
ヘビは身体の構造上、相当狭い隙間でも通り抜けることができます。したがってケージの開閉部分は完全に隙間なく閉じることができる仕組みとしなければなりません。
一見して身体のサイズと比較して "こんなところから逃げ出せるわけがない" というような場合でも、彼らはやすやすと脱走することがあります。したがってとにかくどんなに狭い隙間も、たとえ1㎜以下であってもケージに隙間があることは許されません。
ヘビが脱走した場合の捕獲方法は改めてご紹介しますが、部屋の外にさえ逃げ出さなければ、実は捕獲することはそれほど難しいことでありません。しかし、部屋の外へと脱走してしまえば、再びケージへと戻すことが難しい場合も少なくありません。"自分以外の誰か" に捕獲された場合には、さまざまな形でヘビが命を奪われることもあるでしょう。
飼育しているヘビを愛すればこそ、絶対に脱走を許さないケージの仕様とする必要があります。
なお、それに伴って開閉部分には必ず "2つ以上" 施錠ができる仕組みとすること。これは、今では愛玩目的として飼育することが不可能である特定動物の飼養の際、動物愛護センターから確認される条件です。しかし、そのように何らかの形で人に重大な危害を加える危険性がない種であっても、念には念を入れる意味でケージに鍵を2つ以上つけられる仕様とすることは必須条件です。
ヘビのことを知らない人の中には "ヘビ=毒ヘビ" と考える人もいることは、常に留意しておきたいところです。
3.ヘビのサイズと比較して十分な横幅、高さ、奥行き
"ヘビは狭いところが好き"。確かにそうなのですが、それは "狭いケージが好き" という意味ではまったくありません。広いケージの中の狭い場所(理想は自らの身体にぴったりと周囲の土がくっついてる地中)が好きだというだけで、ほとんど動けなくてもよいというわけでは決してないのです。
一見してあまり動いていないような彼らでも、1日を通して考えてみると相当の距離を動いているらしいと考えられます。それは比較的運動量が少ないボアやニシキヘビの一部の種、あるいは地中性の一部の種であっても同じです。
飼育下における多くの場合で彼らがあまり移動していないというのは "動かない" のではなく、"動けない" ためであると理解をする必要があります。
ケージの横幅、高さ、奥行きの理想的なサイズはそれぞれ、
ケージの横幅:頭胴長の2〜できれば2.5倍以上
高さ:頭胴長の2倍以上
奥行き:頭胴長と同じか、できれば1.5倍以上
これが理想的な数字になります。もちろん飼育管理者にはそれぞれ事情がありますから、必ずしもこの数字を確実に全うすることは難しいかもしれません。しかし、これよりも著しく小さなケージで飼育することは、彼らのストレスを日々増大させてゆく大きな要因となることでしょう。
なおしばしば誤解をされやすいのですが、地中性のヘビは縦方向(地面から見た垂直方向)の動きをあまりしないというまことしやかな情報が見られますがそんなことはありません。
たとえば、ほぼ完全地中性と考えられるサンビームヘビXenopeltis unicolorであっても高さのあるケージを用意してあげれば、活動時間帯である夜間にケージの壁面を登っているところを見ることもできます。
彼らが縦方向の運動をしないとされるのは、やはり "しない" のではなく "できない" のだろうと考えられます。
4.床材を深く敷くことを想定した "天面開閉式"
ヘビの床材については、非常に奥が深いので改めてご紹介しますが、彼らは活動域を問わず(地上徘徊生、樹上生そして地中生。完全水生のヘビについては泥の中に潜るようなことはないようですが、水草や枯れ葉のブッシュの中はやはり好むようです)、ほぼどんな種類であっても地中に穴を掘って過ごすことを好みます。
これはナミヘビ、イエヘビ、コブラあるいはボアやニシキヘビであっても同じです。
クサリヘビはどうか、と言われると申し訳ありません。これらのヘビはほとんど飼育したことがありませんのでわかりません、としかお答えのしようがありませんが、おそらくクサリヘビだけ特殊な生態があるとは思えませんので、彼らも地中を好むのではないかと思われます。
こうした生態を考えると "地中に潜ることができない" 素材を床材に使用することは彼らにとって大きなストレスになるのではないかと考えられます。例えて言えばミミズやモグラなどを新聞紙の上で飼うようなものでしょう。
どのくらいの深さの "土" を床に敷けば良いか、ということですが、最低限身体が全て隠れるくらいの深さは必要になります。それを考えると、例えばケージの側面を観音開き、あるいは引き違いのようにして開閉するケージでは土が外に溢れてきてしまうので使用することができません。
したがって必然的に天面開閉式のケージが必要となるわけです。
他にも天面を開閉する仕様では、ケージ内のヘビの動きを確認してから扉を開放することができるというメリットもあります。特に動きの素早いヘビや、ケージに納入したてでまだ気の荒いヘビなどの場合には開閉時の脱走を予防する意味でも、"天面開閉式" は効果的です。
今回の記事はだいぶ長くなりました。しかし、それだけケージの仕様が重要だということがお分かりいただけたのではないでしょうか。
これらはあくまでも " 必要最低限(なくてはならないもの)" の条件で、ここにヘビそれぞれの特性に合わせた "プラスα" の必要条件条件(あった方がいいもの)が加わってゆきます。
飼育されるヘビの生態を鑑みた上で、これらをオプション的に組み合わせることで、理想的なケージの仕様が完成するというわけです。
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