コンカフェ小説「おやすみセカイ」
かわいいって、会いたいって、好きだって、推せるって、言われたい。
本当は、触りたいとか、キスしたいとか、そういう風に思われるのも別に嫌じゃないけど、でも、そういうことが簡単にできるとか、そういうことを簡単に言っていいとか、そういう風に扱われるのは、嫌。なんか、普通にイヤ。ちょっと距離のある感じ、手が届かない子みたいに思って。そしたら、頑張れる。安心して…優しくできる。
◆
<みんな、おやすみセカイ>
画面の中、小さな送信マークを、つっと押す。ベッドの中から世界に飛び立っていく私の言葉を見届けないように、急いで枕元に画面を伏せる。ぐりぐり頭を枕に押し付けて、ちょうどいいくぼみを探す。
はやく、はやく終わって、世界。
ブン…
スプリングをほんの少し震わせる、スマホのバイブレーション。私の言葉が誰かに届いたこと、その誰かが、好意的な感情を送ってくれたことを知らせる、世界を、ほんのほんの少し揺らす振動。
ブン………ブン…
意識しないようにと思えば思うほど、微かな気配に尖りそうになる意識。 つとめてゆっくり、息を吐いて、枕の匂いを吸い込んで、肩の力を抜く。 微妙でたっぷりの間を置いて、思い出したように続く、この気配が途切れないうちに、消えたい。この世界から、意識を消したい。誰かに思い出してもらえる、少し必要とされてるって救われながら消えたい。
今日もちょっとだけ飲みすぎたお酒が、ゆるく頭の中にマーブル模様みたいな流れを描く。くわぁああん、ふわわぁぁん、そんな、クラムボン的擬音が浮かんで消えれば、そろそろ眠れるはず。いつもそう。
おやすみセカイ。 定型文のように発信するメッセージは、どうしようもないくらい本気。私の眠ったセカイは、私にはもう見えないから、見えてる世界でだけ、少し楽でいたい。 私は毎晩、私の生きてるセカイを、小さく殺して生きてる。
◆
「こゆりん、カフェパ入れて」
「えっ、よいんですかぁ~~! もしかして、かみさまっ? えんじぇる? ごっど?」
「神とゴッド、かぶってる。あ、青りんごやめてね、あれ苦手なんだ」
「あっ今ね~、イチゴあるんですよ、ストロベリー! 限定なの! こゆ、飲みたかったんだ~」
「じゃそれと、あとなんかナッツとかある?」
「あるある~ハニーローストピーナッツ~」
「甘っ、マジか」
「まじまじぃー、こゆ、砂糖の国から来たから」
「じゃ…それでいいや、とりあえず」
「はーい! 少々お待ちを~」
今日は調子がいい日だ。たまに来て、来たときはだいたいカフェパを入れてくれるお客さん。でも、たまに入れてくれないときもあるから、そういう日はがっかりするけど、今日はいつもより早い時間に限定ボトル(当然しれっとお値段乗せてる)を入れられたから、よし!
メイドアイドルゆるもえきゅるるんアニマルカフェバーって、何がどうメイドでどこがどうアイドルなのか、でもってアニマルって言われても…な、そんな感じの全部乗せ!風味のお店が、私の職場。パニエを穿いて働くお店の3件目、私には今のところ、ここが一番居心地がいい。市販のコスプレ衣装に、それぞれ自称する動物の耳。わかりやすくてかわいくて、むずかしくなくて、そういうの。
高級に、スマートにお茶を出す動きとか、そこで微笑んでいるだけで見てる人が楽しいビジュアルとか、そういう存在価値がない私でも、「一緒に飲もう」って言ってもらえる…認めてもらえる感じが、安心する。その一杯を飲み干すまでは、私は選ばれてここにいるんだ、ってホッとする。
…もちろん、全然ドリンク入らない日とか、初見に雑にされた日とか相当落ち込むけど。でも、さっきのお客さん、本当は全然楽しくなかったんじゃないか、他の子と話せなくて嫌だったんじゃないか…って疑心暗鬼になるよりは、ちょっとだけマシだから。
「砂糖の国ねぇ…ちょっと待って、前なんか違かったよね」
「んー…、ブルーベリーたうんは、砂糖の国の中にあるんですぅ~」
「適当だな~。ブルーベリーってあれでしょ、鹿のうんこみたいなやつ。あれが砂糖まみれみたいな国か」
「えっひどぉいぃぃ~!」
「ほんとこゆりんは天然だよね~」
「あ~やだ、気にしてるんですよ~、人間になりたーい!」
「いいじゃんいいじゃん、うさぎの方向でがんばってよ~」
「〇〇ちゃんはツッコミきついからな~。やっぱ女の子はこゆみたいにニコニコしてるのがかわいいよ~。まぁ〇〇ちゃんは美人だからあれはあれでいいけどさ~」
「ちょっとまって~、こゆ、微妙にディスられてない?」
「いやいや? 全然? あっ! なんか飲む?」
「あはは~? は~い、ありがとうございまーす!」
アルコールを潤滑油に回るオルゴールのような、お約束の、くだらない会話。薄っぺらい笑い。 そして、私のゴミみたいなリアクション。楽しくないわけじゃない。もちろん。でも、なるべくイキイキして見えるように、かわいい、元気な子、無邪気なワタシに見えるように、って頭の中で…計算してる。
…計算ってさ、よくないみたいに言うけど、私、自分では、頑張ってるってことだと思うし、それって、いけないのかな。生まれつき明るくて、元気で、無邪気で、人に好かれるようにいられたら、それって最高だけどさ、そうじゃなくたって、頑張って、憧れの女の子みたいになりたいって思うことは、いけないのかな。まぶたを留めたり、ダイエットしたり、まつげ増やしたり、ピンクの服着たり…、ちょっと声のトーンを上げたり、そういうのって、いけないのかな。
◆
「はぁああ~??? えっ何それ、全然いけなくないでしょ、全然」
外国の人みたいに両手を広げて、肩をすくめて、大きなクエスチョンマークを浮かべた表情で、あの子は言った。私の話を聞いて。本気で意味がわからない、って顔。邪魔そうに折り曲げていたマーチンの編み上げブーツを履いた脚をざっと抱え込んた。投げやりな動きで膝に顎を乗せて…って脚、長いな。全体的にスローで雑な動きなのに、目が離せない。不思議な凄みを漂わせながら、あの子はこっちをジロっと見据えてくる。体入から多分まだ1ヶ月半くらい。基本夜型だし、5回くらいしかシフトがかぶったことないよね?って感じの子。どう考えても、ふたりっきりで時間を過ごすような距離感じゃないのに。後悔し
週末だけの昼営業に久しぶりに出勤したら、昼から夜の通しシフトがかぶってしまって、なぜかお気に入りの非常階段までひょこひょこついてこられてしまった。 すましてポーズきめれてば普通にパッと華やかな美人さんで、まぁ…苦手に近いタイプ。でも、ちょっと厚めの唇がなんか存在感があって、微妙に「美人」の枠に入ってない感じ…が、さらにつかみづらいな〜ぶっちゃけ絡みづらいな〜って思ってた。 お客さんに対してもバリバリ強め営業な感じで、入れてくれたシャンパンそっちのけで「あたしコーラ!」とか言って…自分的には、それないな〜って感じだし。 よくわかんないけど、「こゆりさんって、あれですか? あの紙を細くクルクルってやったやつが名前なんですか?」「えっ知らない? ちょっと待ってちょっと待ってググるから…あ!違うわ。それ、こよりでした。あの、お笑いとかで鼻に入れてくしゃみさせるやつ…なんでそんなの名前なんだ??って思ってたんですよ〜」とか一人で喋り倒して一人でうんうん言いながらどこかに行っちゃったりして、なんか合わないな〜、みたいな。
でも、こっちは合わないな?って思ってても、向こうはそうでもないのかも?って空気もあって、「こゆさん、かわいいのプロっぽい感じ、いいですよね」とか「こゆさんのお客さん、みんな楽しそうだな〜って見てました」とか、別に冗談でもない感じでポソっと言ってくれたりして。こうやって着いてこられて、二人っきりで、つい、話さなきゃって思ったのは、あたしが悪いんじゃないと思う。
でも、失敗だった。時々感じる…嫌な気持ち。ちょっとした愚痴っていうか?自虐っていうか?そういうゆるっとしたネガトークを仕掛けたのは、失敗だった。なんか好かれてるのかな、そしたらちょっと弱音を吐いても、優しいこと言ってくれるかなって期待半分と、なんとなく…テンプレコンカフェ嬢あるあるですよね〜みたいに笑い飛ばしてくれるかなって思ってたんだけど。多分間違えた。内容も、相手も。軽い話のつもりだったのに。こんなリアクションは想定してなかったのに。
「ちょっと私よくわかんないんだけど、なんなの、本気で言ってるんですか? それとも何、これ〝些細なことも真剣に考えちゃうんですワタシ、繊細なので。がさつなアナタにはわからないと思いますけど〟マウンティングですか?? ちょっとそういうんだったら普通に苛つくんでやめてほしいんですけど」
「え…すいません」
「すいません? すいませんって? 同意? これマウント取られてるの私?」
「違っ…そうじゃないけど、」
「えっじゃあ謝らなくてよくない? とりあえず謝るとかもまぁまぁ苦手なんですけど…」
「……」
ダダダダっと放たれる言葉。何て名前かわかんない、あのシューティングレンジで貼ってある人の上半身の紙みたいなやつ、ボコボコに穴が開いたアレ。言葉の弾丸で撃ち抜かれまくったアレになったみたいで、言葉が出てこない。穴ぼこの私の身体をすうすう風が通り抜けていく。
酸素が足りなくて、ぽかんと口が開きっぱなしになってしまった。…きっと、哀れに見えたんだろう。一気にトーンダウンして、あの子は、優しい声になった。
「…ん。すいません。大丈夫。言いすぎ…ましたー」
カッカッ、プシュッ。 たー、の音が少し長めに伸びて、その余韻を断ち切るように、炭酸飲料の缶が開く音。外国のリップクリームみたいな毒々しい甘い香りが漂う。気まずくてうつむいてしまった視界に、にゅっと差し出される缶。目を上げると、いる?って無言のアイコンタクト。私も無言で首を振って答える。ううん、いらない。
「…わかりました」
0.5秒くらいの間。で、それならまぁ遠慮なく、って感じに、缶のおしりをグッと天に向けて、ビールのCMみたいに豪快な動き。液体が滑り落ちる瞬間が見えるような、かくっと動く喉の筋肉。思わず、ただじっと見てしまう。さっきより強く漂う、甘くて嘘っぽいチェリーの香り。
「っつー…」 声になってない声。
どうせさんざん甘いお酒を飲むから、普段お茶しか飲まないけど、あまりに気持ちよさそうに見えて、なんだか羨ましくて、そして悔しかった。
「……なんか、いけないのかな、ズルなのかなって思っちゃうんで、すよね」
缶を両手で握りしめるあの子が、少し沈黙していたから。その沈黙は、私に「どうぞ」と差し出されているようで。さっきより柔らかく、この場に漂っていたから、私は、私が思うことを、何か言わなきゃいけない気がした。言った端から不安になるけど、でも、言わないまま誤解されたままは、なんか嫌で。さっき一瞬近づいて、また「ですます」に戻りかけた距離を、振り払う。
「だって、言うじゃない、みんな。天然とか、天然じゃないとか。そんなの、天然で最高だったらいいけど、そうじゃないから、だから」
「あー…、ちょっと待って」
言葉の端っこを音にして外に出すと、その先にはまだ絡まったままの続きがあって、ほどけないままずるずる連鎖する。上手く話せない。最初は、言いたいことの糸をぎゅっと握りしめているつもりなのに、こんがらがって、風に乗れなくて、すぐに見失ってしまう凧のよう。だから、ふわふわしていればなんとなくうまくいくのに、一生懸命話そうとすると、いつもこうなってしまう。
本当はちゃんと言って、誰かに聞いてもらいたいのに。
いつも。
「あー…」
きっとうんざりしたあの子は、めんどくさそうな感じで微妙な声を発すると、ゆるり立ち上がった。狭い休憩室の外、非常階段。踊り場にいた私と、5段上の出入口に寄りかかっていたあの子。片手で缶をペコペコさせながら、重い鉄の扉の向こうに、スッと消えてしまった。
ちょっと待って、また今度、あとにして。
そういう言葉は、割と慣れてる。つまんないことしか言えなくて、言いながら意味が分からなくなってしまう私の話を聞きながら、相手の笑顔が曖昧にぼやけていくのは、慣れてる。だから、もう意味なんてなくても、気持なんかなくても、かわいくて楽しくなりたかった。一緒にいて楽しいとか、誰かの話を楽しく聞くとか(これは苦手じゃない。リアクションは苦手だけど)、そういうの、得意な子になりたかった。
小さな雑居ビルが乱立する隙間。6階なのに見晴らしがよくない外階段。少しだけ見える夜の始まりかけた街。見下ろしていると、行きかう人みんなに置いて行かれるような堕ちる気分に引っ張られそうで、意識して顔を上げると、西日の反射が目に刺さる。
ギッ。
もう戻ってこないかもしれないと、そう思っておこうと思った。休憩時間を過ごす場所は、他にもあるから。
でも、ドアは鳴った。
「はい、あげる」
慌てて振り向くと、真っすぐに差し出された缶。西日にくらんだ目には、表情はよく見えないまま、あまりに真っすぐためらいなく伸びてきたから、思わず考える前に受け取ってしまった。
「えっ」
いらないって言ったのに。
ううん、言ってはいないけど、いらないって示したつもりだったのに。
さっきあの子が「飲む?」って合図したのと同じ缶が、今私の手の中にあった。飲んだことのない、赤茶色のパッケージのジュース。
「あげる、おごり。おいしーから」
「……」
飲み干したのかと思っていたけど、あの子の片手にはまださっきの缶があって、それを目線まで上げて首をかしげる。
「ほら、はやく」
乾杯の予備動作で急かされて、仕方なく缶を開けようとする…けど。ネイルが引っかかって、プルタブがカスカスするばかりで。
「んっ、はい」
口を尖らせたあの子にひったくられた。
右手の腹を器用に使って、2つの缶を一緒に持ちながら小さな爪がひらり、動く。
カッ、パシュッ。
さっきよりスムーズに、小気味いい音で開く缶。
と思ったら、
「っあぁ、え~…」
シュワシュワと噴き出した炭酸に、めちゃめちゃ情けない声。
「まじか…」
ふさがった両手を容赦なくびたびたにしていく炭酸。滴る茶色い甘い水。それでもとっさに制服にかからないように引けた腰と、突き出した腕。
「…フッ」
笑うなら笑えばよかったのに、笑っていいのかわからなくて、こらえた笑いが変に皮肉っぽくはみ出した。
「んーーーーー」
私の笑いに、への字口で思いっきり不満げなうめきを漏らしたあの子が、ぐいぐい突きつけてくる。赤茶色の缶。えっやだ、こぼれたまんまでベタベタじゃん。
「ほら」
圧に負けまいと抵抗したけど、結局押し付けられてしまう缶。
パーのかたちで拒否った手のひらが、あの子の指先に包まれてしまう。ラメのネイルが塗られただけの爪。大きめな手のひら、関節がスッとした指。シンプルで、つよい感じ。ジェルを盛って、ハートとリボンでデコってもらったネイルが、急に恥ずかしくなってくる。
それなのに、濡れた手、指先が、甘い。 もう、缶は持ったのに。
なんで?
それでも、その手は離れない。
「…いいのに」
あの子の手がそのままだから、私も、動けない。何がいいのか、わからない。
「そのネイルとか、かわいいし」
重ねられた手に、クッと力が入る。手の甲に伝わる甘さが脳をしびれさせるなんて、そんなこと、ある?
「かわいくて、好きで、好きなようにやって、それで、いいと思う、私は。天然とか嘘とか、どうでもいいよ。飲んで」
(私は)まで、そっぽを向いていたあの子が、(どうでもいいよ)は口を尖らせて、そして(飲んで)で、へにゃっと笑いながら口角を下げた。
離れていった右手に持ち替えられた缶が、私の手に残された缶に軽く打ち合わされて、それは乾杯のしぐさ。
「甘っ…」
飲み口が、唇に触れるか触れないか。その段階で、鼻に抜ける香りの嘘くさい甘さ。チェリー、カラメル、とにかく砂糖。ひとくち飲んでもとにかく甘くて、炭酸、妙なクセ。コーラがシンプルに思えるくらい、おもちゃみたいな味。
「ねぇ、なんでこれ好きなの?」
「ね、おいしいでしょ?」
完全にかぶった、かぶらない意見。
思わず、顔を見合わせて笑ってしまう。
全然肯定的でない、っていうか無理、っていう私のニュアンスを理解して、あの子はプイっと向こうを向いた。
「いーんだよ、好きなんだから! 私にはおいしいの!」
「ぜんぜんおいしくないよ! 甘すぎるし、酔えないし!」
「くだらない! おいしいものに酔うとか関係ないし!」
「何それ、そんなに好きとか…変なの」
子供みたいにふてくされて勝手なことを言うから。あの子が自分の言いたいことしか言わないから。気付いたら、私も、言いたいことを言えていて。
どうでもいいことなのに、そんなことは久しぶりだって気付いた瞬間、なんだか泣きたくなった。
「もう…手だって、ベタベタだよ~」
涙声になりそうなのをごまかしたくて、手をひらひら振って、わざと情けない声を出す。気持ちのアップダウンを冗談にしなきゃ、いけない気がした。
「んー、それはごめん」
笑ってくれるか、怒ったふりをしてくれると思ったのに。あの子は、すまなさそうにサッと目を伏せた。違う、そういうわけじゃ、なくて。ちょっとふざけたかっただけで、
えっ、
一瞬、ほんの瞬間。 ひょいっと持ち去られた私の手の甲、指先近く。スッと寄せられた唇。
温かく湿った柔らかいものが、ちらり、撫でていった。
「ほんとだ、甘い」
指先同士、第一関節を引っ掛けるように留まったままの手と手。重なった部分だけが柔らかくて、熱い。
「行こ、そろそろ」
指先にかかる、ほんの少しの動きだけで、体中が引っ張られるように動いてしまう。本当にほんの少し、少しだけの力が、身体を駆け抜けて、私をぐにゃぐにゃに柔らかくさせる。なんで?
指と指、合わさった第一関節の負荷は、くるり私の身体をひるがえす。踊るように回転。あの子の腕に出迎えられて、世界は浮遊したまま私のことを抱きしめる。
もしかして。
もしかして。この指が重なっていれば、セカイを殺さなくても、ここが居場所なのかもしれない。
急に不意に、そう思えた。押し寄せる、感じたことのない、嘘みたいな現実感。セカイが甘いまま、リアルになる。指の第一関節の先だけ、重力に逆らう、小さな動き。甘い質感に接着された指と指が離れないから、それだけの動きで、あの子は私を、立ち上がらせる。引き寄せる。
私たちの初めてのキスは、甘い炭酸飲料の味がしたーー。
おわり