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【30分台本 ♂2♀2∞1】Honey&Bear  第二話 「聖杯にマティーニを」

【あらすじ】
実在するロサンゼルスを舞台に、派手な盗みを繰り返す『怪盗Honey&Bear』。二人を追うロス市警強盗殺人課のマーシャルとアレックスの元に、今日も彼らからの予告状が届く。『2月28日 午前0時 ロサンゼルス自然史博物館、ベニト石を頂きに参る。Honey&Bear』その予告状から、彼らが思いもしなかった事件が始まるのであった・・・。
 
【シナリオ約束事項】
利用条件などはシナリオの約束事項をお読みください
https://note.com/caitsith151/n/n2c2f578d39d0

その他:
・ベニト石は、べにといしで統一してください
・note版とは一部表現が異なります。使用時は各メンバー使用台本を統一してください。

【登場人物】
○ハニー
性別・♀
怪盗ハニーベアのプランの立案、盗み実行役など体力面を担当。
セクシーでキュートな見た目に反して体術などを得意としており、ベアとはとある事件をきっかけに、共にチームとして『盗みはクレイジーなほど面白い』を信条に怪盗劇を続けている。刺激的なものや、面白そうなものを見つけると「セクシーじゃない?」という口癖がある。
・性格:過去の記憶を失っているが、楽天的で好奇心のままに現在を生きている。頭脳明晰だが、あくまで動機は「楽しいか楽しくないか」。人を茶化すのが好きな小悪魔タイプ。だが、過去を思い出しかけるとナーバスになる。
・好きなもの:スリル、美しいもの、ミステリアスなもの。かわいいもの。
・参考年齢:19〜28
・雰囲気キーワード:セクシー、キュート、小悪魔、アクティブ
・口癖:セクシーじゃない?

○ベア
性別・♂
怪盗ハニーベアのハッキング、電気、機械系統、ドライバーをこなすオタクハッカー。Honey &Bearでは頭脳面を担当。とある事件をきっかけに、ハニーに『盗み』出されたことをきっかけに、チームとして『盗みはクレイジーなほど面白い』を信条に怪盗劇を繰り返している。本人は今の暮らしを気に入っており、ハニーは相棒としてしか見ていないが、恋愛とは異なる特別な存在として認めている。
・性格:オタクだが、熱く純粋。天才肌で、集中すると目の前のことしか見えなくなる。また、ハイテンションになると大好きな、チーフガードナーのフィギュアに早口で話しかける癖がある。
・年齢:19〜32(ハニーの立ち回りによっては、お兄さん、ショタもあり)
・雰囲気キーワード:オタク、情に厚い、厨二っぽいワル
・好きなもの:ネット、発明、エナジードリンク、ゲーム、アニメ、チーフガードナー

○マーシャル
性別・♂
ロス市警警部/強盗殺人課 『ハニーベア』事件の担当。古風な警察官だが、勘が鋭い。仕事でも実直であり、捜査は資料と現場、足で稼ぐタイプ。仕事一徹の彼だが過去にリアーヌ・カウチという女性と交際しており、突然消えた彼女のことを今も忘れないでいる。
・性格:冗談を言わず、冗談が通じないタイプだが、ハニー&ベアの捜査でヤケになっている部分があり、冒頭で冗談を言うシーンがある。感が鋭い。
・年齢:35〜50
・雰囲気キーワード:渋い、古風、熱血漢
・好きなもの:タバコ、酒、コーヒー、つば広の中折れ帽子

○アレックス
性別・♂♀どちらでも演じられる
マーシャルと同じく、ロス市警警部補/強盗殺人課 『ハニーベア』事件担当。マーシャルの秘書的な位置にいる。主に、情報整理、収集を得意としており、頭脳派。実は、署内ではエリートコースを歩んでいた敏腕。だが、マーシャルに憧れ、強盗殺人課への配属を希望した。
・性格:真面目で誠実だが、マーシャルと違い、柔軟で従順。データ分析にも長けており、時にマーシャルよりも早く事件の核心に迫るが、あまりに飛躍している事実が多いため、「まさかね」と自分で終わらせてしまうことが多い。
・年齢:20〜50
・雰囲気:秘書、冷静、真面目、マーシャルを尊敬している
・好きなもの:シワのないスーツ、仕事道具、コーヒー

○リアーヌ&リアーヌ?
性別・♀
ベニト石発見者の家、カウチ家の娘。宝石商をしながら様々なファッションブランドのオーナーも務めている。表向きは強気な女性実業家を演じているが、実は気が弱く、自分を退屈で、つまらなくて退屈な女と自嘲している。
何か秘密があるようだが……?
・性格:自分に自信はないが、名声の落ち始めていたカウチブランドを近年の流行を取り込むことで一流ブランドへと復活させた才女。だが、家柄のこともあり、自分に幼い頃から自信を持てない。褒められてもその裏にある欲を見てしまうタイプ。
・年齢35〜4
・雰囲気キーワード・優雅、大人な女性、コンプレックスをもつ、影がある
・雰囲気キーワード(銀行シーン)・妖艶
  
♦♥♦―――――以下、本編―――――♦♥♦
  
○【ウェストハリウッド銀行 金庫内】
  
銀行員:これはこれは、リアーヌ・カウチ様。本日はようこそ、当銀行(とうぎんこう)へおいでくださいました。今回は、どのようなご用件で?

リアーヌ:あら、そんなにかしこまらないで?……少し頼みたいことがあるのだけれど……

-リアーヌ、机に重そうなブランド物のアタッシュケースを置き、

リアーヌ:このお金で足りるかしら……?
  
-マーシャル、タイトルコールしてください
  
マーシャル:Honey&Bear  第二話『聖杯にマティーニを』
 
-ハニーのナレーションと、各キャスト前回のセリフで海外ドラマっぽく演じてください。

ハニー:前回までのハニー&ベア。

マーシャル:『2/28 午前時 ロサンゼルス自然史博物館、ベニト石を頂きに参る。ハニーベア』か……。

ハニー:私達は、ロサンゼルス自然史博物館の、ベニト石を頂きに行くはずだった。

ベア:ったく、気軽にいってくれるぜ……。うちのお姫様は……よっと。

ハニー:けれど……、ロサンゼルス自然史博物館で私たちを待っていたのは……。

リアーヌ:ベニト石もお前達が盗むのよ!

ハニー:FBIを名乗る、妙な女に鉛玉を頂いたあげく……ベニト石は盗まれ、……その罪は私たちに被せられてしまった。

ベア:ブラックリリィだとぉ?あの大怪盗か?

ハニー:その女は顔は全くの別人だけれど、2年前に焼死したはずの大怪盗、ブラックリリィに似ていた。その時の記憶は失っているはずなのに、頭から離れない気色の悪さったら……。
でも、相手が誰であろうと、ここまでコケにされて黙ってなんかいられない。ベニト石と鉛玉の借りを返すために……、ベアはあの妙な女について、私はベニト石の伝説について調べることにした。
 
-ハニー、怒りを込めつつ、不敵に
ハニー:ブラックリリーだろうが誰だろうが、この借りは数百倍にして返してあげるわ!
 
○【ロサンゼルス市内 某地下】
 
-ハニーは銀行に潜入するための工作中、ベアとベニト石の伝説について話している(ハニーは地下で作業をしながら、ベアはパソコンの前で聞いている雰囲気です)

ベア:イタズラの準備はどうだ?ハニー?

ハニー:…上々よ。マーシャル警部はまたカンカンになるでしょうね。

ベア:そいつはいい。……で?石っころの話の続きだけどよ?つまりあのベニト石(ベニトいし)は、この近くのサンベニトで初めて見つかった……ってことか。

ハニー:そ。日本でも見つかってるそうだけど、世界最大のものはサンベニトのものだけ。採掘されるのもこのあたり一帯のみ……と言っても、過言じゃないわね。

ベア:んで?その石ころの、どこがセクシーなんだよ。

ハニー:……ねえ、ベア、聖書に出てくる天使の堕天(だてん)は信じる?

ベア:ああ?なんだ?藪(やぶ)から棒に。世界一のベストセラーが、なんの関係あんだよ?

ハニー:聖書は時代とともに、形を変えてきたわ。それは、あなたの知ってる聖書だけじゃなくて、いろいろな宗派でも同じね。
現存(げんぞん)する最古の聖書は……

ベア:死海写本(しかいしゃほん)、だろ?エアンゲリオンに出てくる。……んなこと世界中のオタクが知ってるぜ。

ハニー:(ため息)……エア……?……まあ、いいわ。
ともかく、聖書には、古代に起きた本当にあった事実が含まれている……という話があるの。そして、興味深いのは天使が堕天(だてん)して、地に落ちたという話。

ベア:ああ、カードゲームでおなじみのやつだな……。

ハニー:……けれど、実は隕石の落下がその話の元になっているのではないか、という説があるのよ。

ベア:ほお……。

ハニーで、アメリカもその例外ではないというわけ。

ベア……おい、ちょっと待てよ。アメリカ大陸が発見されたのは、早くて11世紀ごろだぞ?死海写本が生まれたのは紀元前で、新訳聖書にしても2〜3世紀だ。なんで、アメリカに天使が墜ちた……なんて、話が出てくるんだよ?

ハニー:アメリカ大陸に……具体的に、天使が堕天(だてん)した、という話はないわね。だって、そのころは……地図どころか、地球を中心に宇宙が回っていたと思われていた時代よ。

ベア:……だろうな。……地動説をコペルニクスが唱えたのは、16世紀のことだ。それ以前に、その時代のアメリカ大陸には天国のスーパースターをあがめるような宗教自体、なかったはずだ。
堕天(だてん)なんて話……、出るはずがねえ。

ハニー:けれど……、このあたりのインディアンの壁画(へきが)には、大きな火の玉が降り注ぐ絵がいくつもあるの。

ベア:実際に、隕石が降った……ってことか?
ハニー:そ。隕石は大きなものほど、落下した場所の地質(ちしつ)に大きな影響を与えることがわかっているわ。

ベア:そういえば、聖書に出てくるソドムとゴモラも、消失したのは隕石が原因という学説(がくせつ)があったな。

ハニー:その通り。そして、そのソドムとゴモラが在ったとされる場所は……

ベア:死海近く……か。

ハニー:ビンゴ!ベアは知ってるでしょうけど、死海そのものやその近辺の地質は今もなお、科学的に未知な部分が多いわ。

ベア:そういえば……、ベニト石の見つかったディアブロ山脈のあたりも科学的にありえねえ地質だってサイエンス誌に載ったことがあったか……。他にも、あのあたりは世界で唯一の地底火山があったり、対策してるにもかかわらず定期的に山火事が起きてる……。
……考えてみれば、妙な話だ。

ハニー:サえてきたわね。くまちゃん。

ベア:だがよ……、なんでディアブロ山脈なんだ?地球にゃ、……隕石が落ちた場所なんて珍しかねえだろ?

ハニー:聖書の一説によれば……、最も有名な堕天使は『暁の星』。青い光に包まれて地に落ち、消えたと言われているわ。
……ベニト石は紫外線を当てると青く光る。……言ったの覚えてる?

ベア:その堕天使の元になった隕石が……、ベニト石だった……ってことか?

ハニー:さあね?けれど……、ディアブロ山脈の近くでのみ、採掘されるベニト石。そして、そのベニト石は……聖書の堕天使と同じ色でかがやく。

ベア:おまけに……その堕天使ってのは、隕石を元にした逸話(いつわ)。そして、隕石が落ちた場所に共通するおかしな地形が、ディアブロ山脈にもある……か。
ペーパーバックのネタとしちゃ……面白かったぜ。本にして売れば、熱心な信者たちが配り歩くかもしれねえ。

-ベア、エナジードリンクを飲んで、少し考え、

ベア:だが……、らしくねえな。それだけじゃ、セクシーとは言えねえんじゃねえか?

ハニーあら、せっかちな男は嫌われるわよ?ベニト石とディアブロ山脈に関するセクシーないわれは、それだけじゃないわ。

ベア:……まだ、あんのかよ……。

ハニー:聖杯伝説は、知ってる?

ベア:ああ……、なんでも願いをかなえてくれるってアレだろ。

ハニー:フフ……、それは映画の中での話ね。伝説によれば……聖杯は飲んだ人間の、傷や病をたちどころに癒し、不老不死を授ける。
……全ての女性のロマンね。

ベア:へー、そうかい。是非とも、このモンキーエナジーを注いで……

-ベア、飲む演技

ベア:飲んでみたいもんだな。

ハニー:(軽く笑って)……また飲んでるの?好きね。

ベア:カフェインなしでこんな話、できるかよ。

ハニー:あらそう?じゃあ……その聖杯が、この近くにあるかもしれないって言ったら?

ベア:はっ!笑 正気を疑うな!

ハニー:あら、それがそうでもないのよ?聖杯を隠したといわれる、テンプル騎士団はスコットランドから大西洋へ……西に謎の航海をしたと言われているわ。

ベア:それだけなら、アメリカとは限らn……

-ベア、気がついたようにパソコンに向かう

ベア:いや、……聖杯が隠されたのは……13世紀から14世紀。そのころの船舶技術(せんぱくぎじゅつ)から、シミュレートして……、テンプル騎士団が西に向かったんだとしたら……、

ベア:そこには……アメリカ大陸。

ハニー:そ。そして、その頃のアメリカ大陸は欧州圏(おうしゅうけん)が、こぞって開拓(かいたく)をしていた未開の地。

ベア:なるほどな……、何かを隠す場所にはうってつけだったわけか。

ハニー:ベニト石の見つかる、ディアブロ山脈は昔から、人体に有害な場所だったわ。しかも、悪魔の風が吹き、火の絶えぬ山として古代の原住民からも恐れられていた。……加えて、テンプル騎士団は聖杯の位置に関してこう記している。

ベア:『ヘラクレスの柱の向こうにある』……だろ?日本のコミックスで、読んだことがある。

ハニー:不思議に思わない?唯一神(ゆいいつしん)のはずのあの宗教が、他の神話の神の名を使う……だなんて。

ベア:……そういえば、そうだな……?普通なら、……名前を出すことも嫌がるはずだ……。ヘラクレスは……ギリシャ神話の英雄だったか?

ハニー:その通り。彼の12の功業(こうぎょう)については省くけど……、

-ハニーネジを締めて、

ハニー:ネメアーの獅子、ヒュドラなどが有名ね。

ベア:ああ、なんかのゲームで見たことがあるな。

ハニー:それらの12の功業(こうぎょう)を……、当時のアメリカ大陸になぞらえていたとしたら?

ベア:……?……どういうことだ?

ハニー:テンプル騎士団が、本当にアメリカにたどり着いたとしたら……そのころはアメリカにはまだ、獅子がいたの。

ベア:獅子?アメリカライオン……、ピューマか!

ハニー:そ。……他にも、神話の中でしか聞いたことがないようなモンスターや、数々の光景を彼らは目にしたはずよ。

ベア:まさに、神話の世界だったわけか……。確かに、聖杯なんて有名な伝説を隠すにはうってつけだな。

ハニー:……葉を隠すなら森に……、ね。

ベア:だが、いまだに繋がらねえ。何で、ディアブロ山脈に聖杯があるってんだ?
どっか、そこら辺に隠せばいいじゃねえか……。

ハニー:(ため息)……くまちゃんったら。カフェインが頭に回ってないのかしら?原住民の描いた、堕天使を思わせる火の玉。そして、その原住民は皆、その光が堕ちた大地に……悪魔がすむとウワサする。
テンプル騎士団は……どう思ったかしらね?

-ベア、少し考え、

ベア:なるほどな……。このディアブロ山脈は、熱心な信者にとっては……堕天使のすみかだったてわけか。

ハニー:それにね、実際に『ヘラクレスの柱』は……神話にも登場するの。彼は旅の途中、近道をするために巨大な山脈を2つに砕いた……のちの人々は、その二つの山脈を『ヘラクレスの柱』と呼んだ。

ベア:……ふたつの山脈……?そうか!ディアブロ山脈の南には、サンタクルーズ山脈がある!

ハニー:テンプル騎士団は、アメリカ大陸を旅する中で……神話の中でしかあり得ない生き物や光景を見てきた。そして、……二つの巨大な山脈を見て、……思ったはずよ。

ベア:『まるでヘラクレスの柱だ』……か。

ハニー:……どう?セクシーだと思わない?

ベア:ハッ!そいつぁ……、セクシーだな。
だが、なぜ、……誰も気がつかない?

ハニー:ここからは憶測よ?ディアブロ山脈については、伝承などのくわしい文献(ぶんけん)が一切残されていないの。それに、あのあたりで吹く、悪魔の風は……、現代でも、定期的に山火事を起こしつづけてる。それなのに……、なぜ、アメリカ合衆国は大規模な対策に乗り出さないのかしら?

ベア:……おい、もしかして……。アメリカ合衆国の……隠蔽(いんぺい)か!?

ハニー:……もしくは、世界全体かもしれないわね?

ベア:おいおい!勘弁しろよ!?そんなもん、一体どうやって盗む!?
そもそも!そんなもん盗むこと自体、世界を敵に回すようなもんじゃねえか!
ハニー:あら、勘違いしないで?私が欲しいのは、あくまで……世界最大のベニト石の方よ?紫外線を当てたら、どんな風に輝くのかしら?しかも、その石は伝説のお宝の鍵かもしれない……。
……最高にセクシーじゃない?

ベア:(ため息)……セクシーどころか、……クレイジーだ。

ハニー:あら、いつも言ってるでしょ?
ハニー:盗みはクレイジーなほど……

-同時に合わせて

ハニー:面白い!
ベア:面白い……。

○【ロス市警 マーシャル警部のデスク】

マーシャル:リアーヌ……カウチか……。
リアーヌ、また話すことになるとは……。最初に出会ったのは……もう3年前……か……。

○【3年前 ロス市内 とあるバー】

-マーシャル、ブランデーを味わいながら

マーシャル:……ブラックリリー、焦っているな……。待っていろよ。もう少しで顔を拝んでやる……。

-マーシャルに女性がぶつかり、飲み物がマーシャルにかかる

リアーヌ:ああ!ごめんなさい!
あら、大変!お洋服が汚れてしまったわ!

マーシャル:気にしないでくれ。ただの安物だ。

リアーヌ:でも、シミになってしまうわ。クリーニング代ぐらいは出させていただける?

マーシャル:気にしないでいい。美しい女性に酒を頂いて、できたシミなら……勲章みたいなもんだ。

リアーヌ:フフッ、面白いかた。……それなら、別のお酒、おごらせていただけないかしら?
  
-しばしの後
  
リアーヌ:……あら、それならあなた、刑事さんでしたの?

マーシャル:いや……、そんなたいそうなもんじゃない。小さな事務所に押し込められてるだけの、ただの働きアリですよ。

リアーヌ:(軽く笑って)マーシャルさんったら、本当に面白い方ね。刑事さんって……、もっと怖い方だと思っていたわ。

マーシャル:(軽く笑って)……私の上司などはブルドッグのような男ですがね。……割と気の良い連中ばかりですよ。
……ところで、あなたはなぜこんな場所へ?どうみても……こんな、そやな場所とは、無縁(むえん)に見えるが?

リアーヌ:あら……、やっぱり刑事さんね。

-リアーヌ、イタズラっぽく

リアーヌ:こんな場所にいたら……、逮捕されてしまうのかしら?

マーシャル:いや、そんなことは……。ただ、ここは悪い奴らもたまる場所でしてね……。息抜きがてら、私も目を光らせてるんですよ。

-リアーヌ、見回して

リアーヌ:あら……、それは気が付きませんでしたわ……。

マーシャル:ええ、正直に言えば、あなたのような身なりのいいご婦人が来ていいような場所ではありません。
……理由を伺っても?

リアーヌ:(笑って)……職務質問なんて初めてね……。

マーシャル:いえ……、これは決して……

リアーヌ:マーシャルさん、わかっていますわ。……ただ、少し……長くて複雑な話になりますの。それでも、聞いてくださるかしら?

マーシャル:ええ、差し支えなければ……。

リアーヌ:そうね……、少し……息が詰まってしまいましたの。わたくし、自慢にもなりませんけれど……、何不自由なく暮らしてきましたわ。宝石商の家に生まれて、当たり前に教育を受けて、そのまま家をついで……今では、ジュエリーやファッションに囲まれる日々。
わたくしの周りのものは皆、笑いかけて、頭を下げる。けれど、それはわたくしの『オーナー』と言う立場にであって……、わたくしにではない。本当のわたくしはまったく別の人間で、その肩書を脱いでしまえば……一瞥(いちべつ)もされないつまらない女です。
そんな、……自分が嫌になって、逃げたくてたまらなくなってしまって……。

-リアーヌ、自嘲気味に笑って

リアーヌ:……世間知らずと思われるでしょう?けれど、家のものからも逃げられるのは……こんな場所くらいしかないですから……。

マーシャル:そうですか……。しかし、やはり長居はしない方がいい。
おい、お前。今、このご婦人からすった財布を、今すぐこの場にだせ。そうしたら逮捕しないでおいてやる。
 
-ベア役の方、『チッ』と舌打ちを入れる
 
リアーヌ:これは……、わたくしの……。

マーシャル:店に入る前から、目をつけられていたんでしょう。この場所じゃあ、こんなことは日常茶飯事だ。あなたのようなご婦人がいて良い場所じゃない。
それに……、あなたが誰であれ……美しいことには変わりない。

リアーヌ……。

-リアーヌ、恥じらいながら笑って、

リアーヌ:そんな言葉をかけていただいたのは、初めてだわ……。
マーシャルさん……、その……今日は、どうしても帰る気になれなくて……ホテルに泊まっていますの。……よければ、ホテルのラウンジで……もう少しお話しできませんこと?

マーシャル:シミだらけの私でよければ……あなたの気が晴れるまでお付き合いしましょう。

リアーヌ(軽く笑って)あなたって、本当に面白い方。……まだ・・名乗っていませんでしたわね。わたくしはリアーヌ・カウチ。
……もっと早く、あなたと出逢いたかった。
 
 ○【ロス市警 マーシャル警部のデスク】
 
アレックス:マーシャル警部?

マーシャル:……ああ、すまん。どうした?

アレックス:念の為、ウェストハリウッド銀行に何名か見張りをつけていますが、今のところ異常なしだそうです。

アレックス:……?どうか、されましたか?顔色、悪いですよ?

マーシャル:いや、大したことはない……。ご苦労さん。

アレックス:そうですか……。引き続き、監視カメラの確認に戻りますね。何か異常がありましたら、即報告します。

マーシャル:……ああ、ご苦労さん。

-マーシャル、つぶやく

マーシャル:……リアーヌ、君は……変わってしまったのか?
それとも、変わったのは……俺か?
 
 ○【ロサンゼルス市内 某地下】
 
ベア:……んで、そのクレイジーな盗みは……そろそろうまくいきそうか?Xファイルのネタ話は……もういい加減、飽きたぜ。

ハニー:ええ。あなたの作った、モグラちゃんたちが掘り進めてくれたおかげで、ラクに銀行の真下にたどり着けたわ。そっちは、警察に怪しまれたりはしてない?

ベア:ああ。下水工事なんざ……、ロサンゼルスじゃ日常風景だ。書類も全て『合法』。記録上も……異常なし、だ。

ハニー:フフッ、まさかマーシャル警部も、こんな『天才』がいるなんて思ってもみないでしょうね。

ベア:褒めても、何も出ねえぞ?だが……、ハニー?気を付けろよ?重量(じゅうりょう)センサーと、監視カメラは……ごまかせても1分が限度だ。その上、赤外線のセンサーは、クモ一匹も通さねえぐらい……張り巡らされてる。

ハニー:そのために、くまちゃんはラボにこもってたんでしょ?

ベア:ああ。俺の作った地上型鏡面集積(ちじょうがたきょうめんしゅうせき)ドローンがプログラム通りに動けば……、いくつかは無効化できる。だが、それでも抜けるのは至難の技。ドローンをけっとばそうもんなら……、その時点でアウトだ。

ハニー:し・か・も、金庫に入れば通信はできない、でしょ?
わかってる。そのために、シミュレーションもしたじゃない?

-ベア、食い気味にまくし立てる

ベア:間違っても!踏んだりすんなよ!?
一個もなくすなよ!?
それ一粒でも、ツーブロック先のハリウッドスターどもが、青ざめるような金額すんだからな!?
お前が金庫から出た時点で……、全てボックスに帰るようにプログラムはしているが……、とっとと……仕事終わらせて、確認してから出ろ。いいな?

ハニー:(つぶやく)……ほんと、ガジェットのことになるとうるさいわね……。

ベア:ああ!?

ハニー:ハイハイ、おしゃべりクマちゃん。わかったから、話を続けて。

ベア:……ったくよ。もう一度確認だ。銀行前の大通りに人が多くなった時を見計らって、俺が水道管を破裂させる。

ハニー:それと同時に……、私はワイヤーボムで……床をボンッ!床にエントランスができたら、ここでカウントスタートね。あなたが作ったビー玉を……

ベア:地上型鏡面集積(ちじょうがたきょうめんしゅうせき)ドローンだ!!

ハニー(ため息)……どっちでもいいでしょ!ともかく、あなたのなんとかドローンが、赤外線センサーに穴を開けてくれたら、私が侵入する。
そして、あなたの作ったメガネで……赤外線センサーを避けて、ターゲットの金庫にゴール!

ベア:ああ、そしたら、俺特製のVIPカードで金庫を開き……、

ハニー:中身と一緒に、あなたのベイビーたちを連れて帰る。……これでいい?

ベア:ああ、くれぐれも1分以内に、だ。前回みたいなことは、なしにしてくれよ。

ハニー:安心して。今回はマーシャル警部も、変なFBIも来てないから。

ベア:ああ、それと、聞くまでもねえことだが、俺様特製のスマートグラスはつけてるな?『アイテムは持ってるだけじゃ意味がないぞ』!ってな。笑

ハニー:ええ、もちろん。さっきから、あなたのメガネで通信してるじゃない。でも、金庫内はオフラインなんでしょ?本当にこれ、大丈夫?

-ベア、ゲームネタがわかってもらえないことにため息

ベア:ハァ……。

ハニー:くまちゃん?ちょっと……、本当に大丈夫なの?

ベア:……ああ、大丈夫だ。オフラインでも機能するように、内蔵システムにナビシステムと拡張現実機能をプログラムしてある。

ハニー:ふうん?よくわからないけど、大丈夫なら問題ないわ。

ベア:それにしても……気に食わねえな。その金庫の主(あるじ)、カウチ家ってのは何者なんだ?……警備、断ったんだろ?
マーシャルの旦那……、怒って、電話ぶっ壊してたぜ?

ハニー:……さあね。金庫破りなんて、お金持ちのお嬢様には……想像できないんじゃない?

ベア:リアーヌ・カウチ。例のベニト石の……、発見者の娘だったか?

ハニー:ええ。今は宝石店からファッションまで……多くのビジネスを成功させている実業家。でも、2年前から……ずっと両親の喪に服して、黒づくめの服ばかり。変わり者よねぇ。セクシーじゃないわ。

ベア:監視カメラの映像じゃ、真っ黒なベールかぶって……幽霊みてえだったぜ……。……薄気味悪い(うすきみわりい)……。

ハニー:あら?くまちゃん、幽霊なんて怖いの?

ベア:ああ、苦手だよ。大方(おおかた)、合成だがな。だが、あんな趣味の悪いもんを作る人間の気が知れねえよ。

ハニー……。

ベア:どうした?

ハニー:別に……。私も、そんなやつに覚えがある気がしただけ。
……時計を合わせて。そろそろ、団体の観光客が正面を通るわ!準備はいい?

ベア:おう。

ハニー:1、2、3、GO!
 
 ○【ロス市警 マーシャル警部のデスク】
 
アレックス:駆け込んでくる、マーシャル我に返るマーシャル警部!

アレックス:ウェストハリウッド銀行前で……水道管が破裂しました!

マーシャル:……もしや……ハニーベアか!?

アレックス:確認したところ、ウェストハリウッド銀行には……

アレックス:カウチ家の保有金庫があるそうです!

アレックス:恐らくは……

マーシャル:くそ!アレックス、行くぞ!!

アレックス:はい!!
  
 ○【ウェストハリウッド銀行 金庫内】
  
-床に綺麗な四角い穴が空き、ハニーは赤外線センサーを確認して、

ハニー……本当に赤外線だらけね。オーケー。ベイビーちゃんたち、よろしく!

-ハニーがボックスを開くと、ドローンが転がり、赤外線センサーを反射し、無効化する

ハニー……クールね。やっぱりベアは天才だわ。オープンセサミなんて言わなくても、魔法の扉を開いてくれる。
次はアタシの番ね。

-ハニー、ナレーションで

ハニーN.5秒で床に上がって、そのまま前転。足は2センチ、床上(ゆかうえ)で維持。3秒で、体を右へ9度回転。その位置から横に5センチ、体をずらしたら、立ち上がって、そのまま、1秒の間に一回側転し、体を左にひねる。

-ハニー、静かに息を吐きだす。

ハニー……。(つぶやく)オーケー。ここからね。

-ハニー、再びナレーション

ハニーN:前に飛び込んだら、そのまま前転。その勢いで、体を1.2秒スライド。止まったら、その場で、バク転して目の前のセンサーをくぐる。そして、ブレないように三回、前転飛び!

ハニー:・・・・。

ヒュー!やったわよ!優勝のぬいぐるみはいただ……

-ハニー被せ気味に慌てて、

ハニー:あっ!しまった・・!!
 
-ハニー、聞き手がドキッとするように、少し沈黙してください

ハニー:……っと……。
(ため息)……危ない……。メガネ、落とすところだった……。帰ったら、ベアにもっとしっかり固定できるように言わないとね?
……OK。金庫ナンバー322。……カウチ家の秘密、拝見(はいけん)させてもらうわよ?
……これは!?
 
 ○【ウェストハリウッド銀行正面】
 
アレックス:……マーシャル警部、どういうことでしょうか?あれだけの騒ぎが起きていながら、銀行にはなんの被害もなかったなんて……。

マーシャル:……わからん。

アレックス:ですが、それでは……あの予告状は……?

-マーシャル、苛立つように

マーシャル……それもわからん。ハニーベアは予告状を違えた(たがえた)ことがない。

-不審そうにつぶやいて、

マーシャル:それに……、あの銀行員の様子は……?アレックス!水道局からの報告はどうだった?

アレックス:はい!そちらも異常はなく、予定外の工事やおかしな工作などの形跡もありませんでした。

マーシャル:それは確かか?

アレックス:はい。データベースなども洗いましたが、クラッカー(悪質なハッカー)による侵入などもなかったようです。

マーシャル:……。

アレックス:どういたしますか?

マーシャル:どうもこうもない。被害はなかったんだ。あとは所轄(しょかつ)と消防に任せる。俺たちは……おっと……。

-女性がぶつかる

-リアーヌではない声で

リアーヌ:あら、ごめんなさい。

マーシャル:いや……、気にしないでくれ……。

-知らないはずの女を目で追いかけるマーシャル。
マーシャル……?

アレックス:どうしました?

マーシャル:……いや、気のせいだ。

マーシャル:アレックス、車に乗れ。

アレックス:承知しました。
 
マーシャル……一体、何が起きているんだ……?
 
 
 【続く】

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