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結界を張る

毎年この季節になると感じるのは、ようやく暖かくなる喜びと、今年こそ花粉症の症状が現れるのでは、というかすかな恐怖心です。

今のところその心配は杞憂に終わり、屋外でも素顔で過ごせているのですが、私の知人のうち何人かは、どこであれ決してマスクを外しません。

けれど、その人たちが警戒するのは、花粉ではなく人の目です。
それも、コロナ禍になり「見知らぬ人に突然絡まれた」ことによって。
屋外をマスクなしで歩いていた時「どうしてマスクをしていないのか詰問」されたり「すれ違いざまに怒鳴られ」たり「暴言を吐かれ」たり。

私は何度もこういった経験談を聞かされましたし、SNSなどを見ても、同じような目に遭われた方は多いようです。
なかには、嫌味を口にするためわざわざ遠くから近寄って来た、他の人はスルーなのに自分だけが文句を言われた、一度の外出で何人もの人から注意をされた、という方まで。

そこまでいくと気の毒としか言いようがありませんが、私の友人のカウンセラーは、それを一言で表現しました。

「結界がゆるいんでしょうね」


神社やお寺の入り口に位置する鳥居やしめ縄、山門にみられるように、結界は俗世と聖域を隔てる役割を持っていますが、それはなにも“場所”だけに限ったことではありません。

“人”にもまた結界は存在しており、私たちは日々それを無意識的に感じ取っています。


個人的な例を上げると、私が人生で最も不安定だった20歳頃は、外に出るだけで妙なことが連続しました。

やたらと人に“つかまる”のです。
アンケートや何らかの呼び込みには間違いなく声をかけられますし、お店では押し売り的なセールスをされ、誰でもいいから話したいといったタイプの人から一方的に話しかけられ、私たちの教会にいらっしゃいませんか、と見知らぬ女性に優しく迫られたこともあります。

今だからわかるのですが、その時の私は極端にガードが低く、まさに結界がゆるい状態でした。

どんな人なら自分の話を聞かせられるか、誰なら容易に取り込めそうか、そんな鑑識眼を持つ人たちは、あの頃の私をたやすい相手と判断したのだと思います。

もちろん今ではそういった声かけをされることはありませんし、先だってのマスクの件でも、因縁をつけられたことは皆無です。

一度だけ睨むような目で見られたものの、見返すと目をそらされました。
こちらとしては、せっかくウイルス学の第一人者の講義も受けたし、屋外でのマスクの有用性について、ぜひディスカッションがしたかったのですが。

「だからだよ。そんな変な人に挑むわけがないって」

私の話に笑いつつ、カウンセラーの友人は話します。

「行きずりの相手を傷つけたがる、下衆な人間の嫌うものは何だか知ってる?
相手の自信と知性。そういうものを感じる人にはまず絶対に近寄らないし、逆に、いける、自分は負けないと思うと、しつこく絡んでいく」
「それは、下衆過ぎるね」
「うん。だから、人との間にはちゃんと結界を張っておかなきゃ」


もし結界について調べてみれば、あらゆる世界のバラエティ豊かな論説に出会えます。
そこでは、心理学、スピリチュアル、氣功、整体、武道、神道などの専門家が、それぞれの見識を惜しげなく伝えているのです。
結界の張り方や壊し方ひとつでも、特定の道具を使うもの、イメージ法、ハンドサイン、念力に呪文。目移りするくらいに様々です。

もっとも、日常的な結界ならば、私たちだってとうに使っています。

友人が口にした“自信と知性”がそうですし、お守り代わりのジュエリーやアクセサリー、派手めのヘアメイク、好きなファッションを身につけること、香りもまとうこともそうです。
話しかけないで、というわかりやすいサインであるイヤホンや手元のスマートフォン、高級ブランドのバッグや時計も、時に結界となりうる道具のひとつです。


特に人や場所から色々なものを受けやすい自覚があるなら、自分なりの結界を張り巡らせたり、その時々で強度を使い分ける、という工夫も必要かもしれません。

〈元気、勇気、陽気、やる気、気のせい、気が塞ぐ……〉これだけ日常で〈気〉という言葉を使い、それを当たり前に感じているのに、簡単に結界をオカルト扱いすることはできないでしょう。

常に神経を尖らせたり気を張らずとも、結界が自分を守ってくれる、という考えは魅力的です。
本格的に取り組むのなら相応の勉強も必要ですが、まずは先にあげた例など、無理のないものを習慣にしてみるのはいかがでしょう。


私がよく使う簡単な方法で、“金色の球体の中にいる”とイメージするものもあります。
自分の周りを穏やかな金色の光が取り巻き、やわらかく覆って保護してくれる。安心できる繭の中にいる感覚です。

慣れれば数秒で完了しますし、乗り物や混み合ったお店の中など、人が密集する場面で、面白いほどの効果を発揮します。

信じるか信じないかはあなた次第……ではありますが、人生を生きやすくする道具として、結界はひとつの大きな武器となるように思います。

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