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イスラム教vs怪奇現象(レビュー:『呪餐 悪魔の奴隷』)

オススメ度:★★★☆☆

母と祖母を立て続けに亡くし、末弟のイアンも行方不明になったリニ。それまで住んでいた一軒家を後にし、父親とふたりの弟と共にジャカルタ北部の高層アパートに4年前に越して来た。一方、数年に渡り2,000人が犠牲となっている前代未聞の連続殺人事件が世間を賑わせていた。そして、慎ましく暮らしていたリニたちの周囲を、度重なる不幸が襲い始める。アパートのエレベーターが落下し、多くの住人が命を落とし、父親も重傷を負う。さらに、死者の埋葬もままならないまま、局地的な大嵐が襲い下層階が浸水。停電も併発し完全に孤立してしまう。リニたち住人は、暗闇を纏った寒々しいアパートで、多数の遺体と一夜を過ごさなければならなかった―。

 雰囲気の良いホラー。そして、イスラム教が強いインドネシアでのホラーと言う興味深さ。しかし、よく分からない話……。

 タイトルが出てきて、原題の最後に「2」と出てきた時には、われわれ一同「は!???」となってしまった。シリーズ続編を1作目かのように打ち出すのは映画業界ではしばしばあることだが面食らってしまう。普通に1作目があることを教えて欲しい……。そして、本作の問題点は「それでも2から見ても楽しめる」作品かといえば、そこはだいぶ微妙なのである。

 本作を一概に否定できないのは、冒頭で書いた通り、雰囲気はだいぶ良いのだ。全体的にガタが来ているボロアパートを舞台に、さらに大雨により孤立状態&停電となった状態で閉塞感に満ちたホラーが描かれる。

 その一方で、お国柄というべきか時代性というべきか(1980年代の設定である)、アパート住民たちはそれなりに仲が良く、コミュニティの中での助け合いも描かれており、妙にほっこりさせられる。事故死による人死にも出ているのに、残された家族を周りがフォローしてあげているので、ものすごく悲惨な感じにはならない。

 現代日本の感覚から見れば異質な閉塞感(貧しさ)と助け合い(人間関係)が興味深く、その新奇性だけで大分見ていられる。これはタイホラーである『女神の継承』を見ていた時にも感じたことだが、やはり馴染みのない国の映画は、その文化が伝わるだけでだいぶ情報量が多く感じられて視聴中の集中力に繋がる。たぶん日本の時代劇なんかも、海外ではこういうノリで楽しまれているのだろう。

 もう一つ興味深いのはイスラム教である。インドネシアは国民の9割がイスラム教徒らしく、本作でもイスラム教の説教師(先生と呼ばれる)が登場する。この人は霊能者というよりは、「みんなの世話を焼く地域の人格者」といった立ち位置だ。本作ではよく分からない怪奇現象が発生するのだが(見終わっても結局なんだかよく分からない)、それをイスラム教のガチの信仰者がどのように認識するのか……という視点からも興味深い。

 大昔にイスラム教徒に聞いた話では、日本人が「オバケだ!」というところで、彼らは「ジンだ!」というらしい(魔法のランプから出てくるアレだ)。その点には触れられなかったが、作中では説教師が「全ては気の迷い」と言っていた。まるで仏教である。さらに作中では「礼拝」(五体投地)により怪異に対処しようとするシーンも登場する。

 結果としては、礼拝中にもバリバリに怪異に襲われるし、説教師もあっという間に殺られるしで、劇中におけるイスラム教は「頼りになりそうな宗教的要素が無惨に敗れることでの恐怖描写」に一役買っていただけだが、それはそれで「インドネシアではイスラム教がこういう扱いされても別に怒ったりしねえんだな」と興味深く見ることができた。

 さて、そういうわけで、劇中のほとんどを異文化要素とホラー要素により楽しめていたわけだが(なお一番怖かったのは怪奇現象ではなく老朽化したエレベーターの故障事故シーンだ)、終盤に至るにつれて話がよく分からなくなる。分からないというか、あまりに説明が足りない。初代を見ていないから分からないのか、とも思うがそれすら分からない。

 断片的な情報を繋ぎ合わせるに、

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