見出し画像

日本外食新聞掲載原稿 第52話

第53話が掲載されたので第52話をアップします。
今後どうなるかわからないドキュメンタリー(実話)連載です。


実録!飲食業界のパラダイムシフトに田舎の喫茶店マスターが巻き込まれたとき、現場をこなしながらどのように活路を見出すか。511日目。




たった一週間の催事だったがあまりにも色々なことが起こったため、心身の疲労はピークに達していた。特に最終日のトラブルはなかなかのもので、朝納品した40個のティラミスのうち30個にコーヒーの漏れを確認し、オープン前にショーケースに並べられたのはたったの10個。常連さんも挨拶に来てくれるであろう最終日に在庫10個では話にならないので、大急ぎでお店に戻ってすぐ作って、また持ってくるという段取りにはしたが、さてさていつ戻ってくるのかも見当がつかないザマ。そうこうしているうちに10時の開店を迎え、常連さんが朝イチで買いに来てくれた。というか内心『もう来ちゃったよ~』の方が大きかった。
「いよいよ最終日だねー、友達のところに持って行くから4個ちょうだい」
「私は夕方から挨拶回りがあるので7個欲しいんだけど…なんかショーケースの中少なくない?」
…足りない(涙)開始15分でもう足りないじゃないか!どうする!どうする!!どうする!!!
「夕方何時までに用意すればいいですか?」
「18時までに受け取れれば大丈夫だけど…」
「お店に取りに行ってもらうことは出来ますか?」
「うん、行けますよ」
「じゃあ今ここで代金だけ貰ってお店でお渡しする形でもいいですか?」
咄嗟に思いついた裏技だった。三越の社員は当然びっくりだ。
なにせお金だけ払って(それも結構な金額)手ぶらで帰るのだから。
そんなこんなで12時半に第2便が来るまでの間を耐え忍び、最終日は目標を達成することができたのだが、こんな綱渡りの緊張感から解放された反動だろう、催事が終わってからの一週間は全てにおいてやる気が出なかった。もしかしてこれが俗に言う燃え尽き症候群ってやつなのか?とも思ったりした。
とにかくやる気が出ないのだが、お店はそれに反して猛烈に忙しかった。なにせ10日間も休んでいたのだ。コーヒー飲みたくてウズウズしている人もいれば、三越催事の裏話を聞きたい人もいる。やる気は出ないけど忙しければ考えずに身体が勝手に動くので、今は有り難かった。とはいえ、SNSを使って問い合わせが結構な数きていたことも事実。
「ティラミスの販売はいつからですか?」
「三越で買った者です。美味しかったので再度購入したいのですが販売はされていないのでしょうか?」
こんな問い合わせが来るたびに「早く準備しなきゃ」と思うのだがなかなか重い腰が上がらない。自分で自分が嫌になる。あーどうしちゃったんだろう俺。

ワイドショーでは連日「感染力が高い未知の新種オミクロン株」が連呼されメディアはここぞとばかりに煽りだしたが、愛知県の大村知事は意外にも低いテンションで「このところ感染状況が落ち着いているので、飲食店などの規制を順次緩和するのは自然なこと」として入店に関する人数制限などを緩和した。協力金も無くなって早1ヶ月経つが、やっと経済を回す方向に舵を切るのか、大村知事の動向に注目が集まる。
そんな折、一本の電話がお店に入った。あの漏れに漏れたティラミスの紙パックを扱っている業者さんからだった。
「漏れた原因を解明できたのでお伝えに上がりたいのですが、ご都合いかがでしょうか」と。翌日早速会う段取りにした。ふとカレンダーを見ると催事が終わってから10日も経っている。早いなぁ、あっという間だ。だがこの10日ほど時間が空いたのが逆に良かったのかもしれない。電話を受け取った時、やる気の出ないあの『嫌な感覚』が無くなっていて単純に「ティラミス進めなきゃ」と思えたからだ。
紙パック屋さんの話では「この商品は今まで一度も漏れたことのない弊社の看板商品」ということと「芦屋の老舗洋菓子店が長いこと使っているが漏れたという話を聞いたことがない」ということから始まり、では実際なぜ漏れたのかというところを詳しく解説してくれた。それは紙パックの構造上の問題だった。この容器は紙の表面に防水・耐水加工を施してあるが、さらに防水効果を高めるために紙を二重にしてその間にビニールシートを貼ってあった。裏の紙はあくまでビニールシートを挟むためのもので防水加工はされていない。それらを織り込んで容器を形作るのだが、織り込んだ時、容器の四隅の1番上の所だけ構造上どうしてもビニールが被らず、裏側の防水加工されていない紙がほんの0.1ミリだけ出てしまう。つまり今回はティラミスのクリームを容器パンパンに詰めたことで、その四隅の僅か0.1ミリ出てしまった防水されていない所が湿り、そこから時間を追うごとに漏れていくということが発見されたのだ。逆に言えばティラミスを容器パンパンに詰めなければ絶対漏れないということでもある。実際その老舗洋菓子店の商品は容器に対してクリームを9割で止めていた。もしかして同じ失敗を経験したのだろうか。じゃあウチもクリームを減らせば問題ないじゃん、とも思ったが一度クリームをパンパンの状態で販売してしまったので、減らしたらどう思われるかは心配だった。そして減らしたらそのお店との差別化が難しいことと、元々容器がそれほど大きいものではないので、食べた時の満足感が減るのは確実。だからなるべく減らさない方向で解決したかった。
クリームを満タンに詰めても四隅が湿らない方法…んんー…そして催事で明らかになったもう一つの問題、解凍した後に卵白が潰れてクリームが沈むことも同時に解決しなければならなかった。泡立てた卵白は空気をたっぷり含んでいるのでクリームを軽くし持ち上げる効果があるが、冷凍→解凍によってそれが壊れてしまい潰れるのは当然のことだ。だが崩れないように生クリームなどを使うと重くなってしまう。私のティラミスはマスカルポーネチーズのミルク感とエスプレッソコーヒーの苦味を卵白で軽くすることでバランスを取っている。砂糖は控えめであまり甘くないが、その分軽さを出しつつ崩れない強度をどうやって作るか。それから数日悩み続けたが、答えは一向に見つからなかった。

2週間ほど過ぎた12月8日、それは突然降りてきた。頭の中にふっと浮かんで直感で「これだ!!」と思ったのだ。ヒントは数日前に常連さんに頂いた今流行りの「バターサンド」だった。そこのバターサンドは厚みもありしっかり固まっているのだが、バタークリームの半分がチーズなので口当たりが軽い。
「へ〜、チーズが半分なんだ〜」とその時は何も考えずに、ただただ美味しいなぁぐらいにしか思っていなかったが、それから数日経ってスタッフと話している時に急に降りてきた。
「バターサンドのバターって冷凍OKだよね?でさぁ、チーズとバターも合うじゃん。この前食べたバターサンドぐらいクリームが固まっていたら……ん?……ティラミスのマスカルポーネにバター少し入れて固めたら……四隅の蓋になるんじゃない?そうしたらコーヒー漏れないかも……いやいや、あそこまで固くしたらダメだよ。食感悪くなるから。冷やした時にギリギリ蓋になって、でもギリギリ柔らかさを保つライン。で、バターで強度が出るってことは卵白が潰れて沈むのも回避できるよね?」
「そっか、確かにそうっすね。言ってることは分かります。ってことはクリームに対して何%までバターを入れるかってことですよね?ギリギリ固まるけどスプーンを入れた時にスッと入って取り分けやすくって、食べた時にふわっと感がぎりぎり感じ取れるラインってことですもんね」
そこが伝わればあとは実験あるのみ。すぐ試作に取り掛かった。バターの割合を変えた5種類のクリームを作り冷やす。翌日『バターが入っていることに気付くか気付かないかのギリギリ』を狙ったクリームが完成した。
「これでティラミスを作って冷凍して解凍して、4日間状態が変わらなかったら合格にしよう」いよいよ完成が見えてきたぞ!

4日後、自信が確信に変わった。4日間毎日味見をしながら経時劣化を見てきたが、卵白が潰れて沈むこともなく、コーヒーが漏れることもなかった。
「シャー!完成だ!!」催事からちょうど1ヶ月経っていたが、ようやく納得のいく代物ができて正直ホッとした。さぁいよいよ販売を…とも思ったが、いやいや待て待て。まずはクリスマスだろう。クリスマスのコースを今年は5500円にして内容的にもかなりお得にしたのだが、10日前だというのにまだ予約が埋まらないでいる。やはりメディアの「オミクロン煽り」が影響しているのだろうか。
年末に向けてメディアの報道がまた熱を帯びてきた気がするし。あーぁ、今年も忘年会は無いんだろうなー。2年連続で忘年会が出来ない飲食業界はホント大変ですよ。これだけ煽られて田舎にも影響出ているんだから、東京なんてもっと大打撃なんだろうな〜。
そうそう、東京といえば先月一緒に飲んだ蝦夷ホールディングスの相馬社長から「オヤジの寿司食いに行きませんか?」とお誘いを受けていたんだった。相馬社長のオヤジといえば、ずっと興味があって会いたかった和僑ホールディングス会長「高取宗茂」のことだ。こんなチャンス二度とないぞと思って二つ返事で了承したのだが、その日がいよいよ明後日と迫っていた。今の東京も気になるけど、それより何より高取会長に会えるなんて…人は出会うべくして出会う。そしてそれは必然で、会うべきタイミングは既に決まっているという。多分このタイミングで会うのがベストなのだろう。人の縁と義理人情を大切にしてきたからこそ、ご縁は広がるのだ。
いざ東京へ、しっかり勉強させて貰おう。




カフェパルランテ/秘密工房   三井隆義

〒487-0026 愛知県春日井市不二町2-6-7  0568-53-2477

営業時間 12:00~22:00 (ランチ12:00~14:30LO・ディナー17:30~21:00LO)
月曜定休 + 不定休あり(noteで告知します)
P7台(乗り合わせて来てください)

http://www.caffeparlante.com/ ←カフェパルランテの歴史(2009年7月~)
https://www.facebook.com/ciccio.don.925 ←マスターのFacebook
https://www.Instagram.com/caffeparlante2009 ←マスターのInstagram
https://caffeparlant.thebase.in/ ←珈琲豆の通販


お豆の購入はコチラからどうぞ↓↓↓ _|\○_オネガイシャァァァァァス!!


私が現在連載中の日本外食新聞が気になる方はこちらを↓↓↓


最後まで読んでいただきありがとうございました。
記事をシェアして頂ければ、寝る前にあなたの幸せを願います。
私をフォローしていただければ、必ず幸せになります(๑•̀ㅂ•́)و✧

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!いつも応援してくださる皆様に支えられています。頂いたサポートは感謝の気持ちを込めて私の仲間(飲食業界)のために全額使わせて頂きます!宜しくお願いします!