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自分軸の作り方#11 ~【不登校】嫌われるのが怖い・を科学する~

 
 今回は、ポリヴェーガル理論と出会う前に読んだ本、「奇跡の生還を科学する 恐怖に負けない脳とこころ」から学んだことをシェアしたいと思う。「学校が怖い」という子供達の脳内を理解したくて、腑に落ちる何かを探していた。

この本を手に取ったのは、ニキ リンコ氏が和訳していたからだ。

 ニキ リンコ氏は、自らが自閉症であり、マイノリティな自閉症をもっと広く知ってもらうべく、たくさんの本を書いておられる。自称「脳みそオタク」で、脳みそのしくみを追求していて、和訳されていない脳科学関連の本を、和訳して出版している方だ。ニキさん自身の本も、読んでいて楽しい。ニキさんの著書のなかで脳の奥のほうにある「扁桃核」という、情動や記憶など、原始的な機能を担当している部分が紹介されていた。本人も覚えていないような恐怖心が、ここには蓄えられていて、外界に何か危険かもしれないものをキャッチすると、「怖い」という感覚が呼び起こされるという。

 さて、今回紹介するこの本には、パイロットが操縦中に、九死に一生を得るような危険な状況になったとき、とんでもない能力が発揮されることがある、というエピソードや、逆に、 恐怖心に飲み込まれて、本来持っている力が発揮できずに、オリンピック以外で好成績だったが、オリンピックだけは何度参加しても結果を出せなかった選手のことなどが書いてあった。

興味深かったのは、第6章「死ぬのが怖い」と「嫌われるのが怖い」に記載されていた内容だ。この章では、「社交恐怖」にスポットを当てている。

一般的な動物にあるのは、突然の脅威に対する恐怖心である。目の前に猛獣が出てきたときにおこるような恐怖だ。

しかし人間には、追加の恐怖メカニズムが存在する。赤ちゃんが、放り出されたら死ぬ、という恐怖だ。赤ん坊は親に保温され、栄養を与えられ、保護されなくては生き残れない。そしてまた、群れで生活するため、集団の中での自分の立場、地位を定めなくてはならず、そのためには他の個体に挑戦して、降参するか威圧するか、という手順を踏むことになる。

 我々が他個体との絆を形成するためには、「オキシトシン」というホルモンの分泌が必要で、ハツカネズミにオキシトシンを妨げる薬を投与すると、子供の世話をやめてしまう他、他の顔見知りのネズミを見分けることができなくなるという。サンガクハタネズミはつがいを形成して子育てをする種類のネズミだが、同じようにオキシトシンをブロックする薬を投与すると、どのメスとでも交尾するようになるという。オキシトシンは、社会性・絆を司るホルモンなのだ。

 ヒトの脳には、物理的な恐怖と、集団内での地位が脅かされる時、同じ反応が起こるよう設計されている。生まれたての赤ちゃんの泣き声は、近しい味方(親)を刺激して援助行動を誘発するものだが、赤ちゃんを親から引き離してオキシトシンを投与すると、救難信号を発する回数が、ぐんと減る。

 社会的ネットワークから排除され、やさしく触れ合う喜びが与えられなくなると、人間はさみしくて不幸せな気持ちになる。対人関係を担当する脳内回路は、身体の痛みを仲介する部位のすぐ近くにあって、そもそもそこから別れて進化してきた。「失恋して胸が張り裂けそうに痛い」は、比喩ではなく、本当に痛いのだ。

 不登校のこどもが、学校に恐怖心を抱くことは、すごく一般的なことだし、いろんな不登校経験者に聞いても、学校は怖い、という子が多い。そして、学校が怖いと感じている子供は、実際に頭痛や腹痛を経験している。

仲間外れにされれば痛みが生じるのと同じように、人間関係で危険は状態になりそうだと予感すると恐怖反応が起こる。知らない人の顔を目にすると、「集団内地位チェック回路」が刺激されて、一瞬にして扁桃核が活発になる。もし相手と衝突することになれば、苦痛を味わうことになる。対人恐怖症の人は、その回路が暴走する傾向にあるという。

 アメリカ国立精神衛生研究所の研究では、人の怒り顔や、銃などの怖い画像を見てもらうと、被験者の扁桃体が激しく活動した。ところがオキシトシンの点鼻薬を数回吸入してもらうと、扁桃体の活動は静まった。中でもオキシトシン効果の高かったのは、見せた画像が人の顔だった場合だ。そのことから、オキシトシンは社交不安に効果的に特に有効だと結論づけたそうだ。

 このことから思ったのは、不登校のこどもが恐怖を感じているのは、原始的な脳が、集団内の地位チェック回路を暴走させていて、本人にも原因がよくわからないけれど、嫌われるのが怖い、という恐怖で動けなくしている可能性が高い、ということ。

その原始的な脳内回路の暴走を止めるには、オキシトシンというホルモンの分泌を促す行動をすることが大切なのだ。

 親が子供を抱きしめる。パートナーに抱きしめてもらう。それが、オキシトシンを分泌させるのに効果的なのである、と筆者は語る。

 コンプリメント(子供のよいところと、持っている力を見つけて、その事実を子供に伝える)ということをコツコツ積み重ねていくと、中学生の息子が子供返りをするという経験をした。中学生になる息子をハグしたり、膝枕・手を握る、なんてことを、させてもらえるようになるなんて、「不登校は1日3分の働きかけで99%解決する」を読むまで想像もしていなかったことだ。

 恐怖に支配されている子供の脳内で、何が起こっていて、何を怖がっているのか。科学的にわかると、なんだ、そうだったのか!と対処法もわかってくる。それが嬉しくて、私は脳科学関連、自閉症関連、自律神経関連の本をいろいろ読んでいる。

子供の恐怖心の回路は、完全になくすことはできないかもしれないけれど、母親の笑顔と、言葉と、スキンシップで居心地のよい時間を毎日毎日重ねていくと、居心地の良さの回路が、恐怖を上回る瞬間がやってくる。

その時、子供は自分の力で立ち上がり、自ら動き出すのだ、と感じている。

子供返りについては、次の記事にしようと思う。






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