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とあるカフェのトロールの話。おじいちゃんのピアノ。

毎日、お店が終わって
店主夫婦が帰ってからが私の時間だ。

もう、忘れ物だなんだと戻ってこないことを確認して
みんなで力を合わせてピアノの蓋を開ける。

私たちにはおてのものだ。
同じものを二つ作った。

私に合う寸法のものと
もう一つ小さい寸法のを。
どうしても欲しいというから・・・。


あの日、ピアノの蓋を開けたとき
中からふっとでてきた
数枚の楽譜。

人間サイズの大きな楽譜だった。


そこには何が書かれているのか
どうしても知りたかった。

なぜ、この楽譜がピアノの中に入っていたのか。
誰がここにしまったのか。
どんな人が引いていたのか。
どんな音が鳴るのか。



どんな想いが詰まっているのか。



まだ、指がつっかえると共に
音もつっかえる。
もどかしい旋律だが、


ミの音を鳴らせば
時計のねじが旅に出た
あの日の事を


ドの音を鳴らせば
キリムが青空を眺めるその憂いを


レの一つ下を鳴らせば
あの日、祖母の足元で鳴らした
優しい音楽を


一つ一つの空間が
ポン、ポンとあたりに広がっていく。


あたたかく、
胸をギュッと掴むような
そんな時間が流れ続ける。




最後の最後に
ドの音を優しく優しく押した。


長く長く、
ゆっくりと。


あたりの空間が
スーツと消えて


いつもの床、
いつもの壁の色、
いつもの匂いに


少しづつ
いつもの光景が
私の目に飛び込んでくる。


そして、そこに


大切な
大切な人たちの笑顔が
私を待っていた。

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