本屋はロックだ
本屋さんになりたい
どんなカフェにしようかと考えていた時、店内に古本を置いて販売もしようと決めていた。
古本屋さんといっても、基本的に買取はせず、自分の好きな本、読んで見たい本だけを並べた。店内に置いてある古本の数は三百冊程度だろうか。新刊書も「夏葉社」というひとりでやっている出版社の本を中心に少しだけ取り扱っている。
これで一応カフェと古本の販売もしている本屋さんでもあると謳っているのだけど、買取もしないで本の数も本屋さんにしては少なく、自分の好きな本だけを置いているので、果たして「本屋です。」と声を高らかに上げてもいいものだろうか?
オープン当初、そんな懸念を抱いていた。
普通の本屋さんに比べると、ラインナップが本当に少ないし、お客さんの事を考えず、売れそうな本、世間での評判を考慮した本はセレクトしておらず、自分の好きな本と読んでみたい本しか置いていないので、案の定あまり本が売れない。本がほとんど動かない。
正直に言いますと、古本は月に10冊程度しか売れてません。
今の売上の99%はカフェの売り上げです。
本屋さんは薄利多売の商売で、数を売らなければ全くもってやって行く事はできません。
しかも、うちの古本の仕入方法は、直接古本屋さんに行って普通に購入しているだけです。今は行けていないのですが、お店をオープンする前はよく京都の下鴨神社の糺の森で毎年開催されている『下鴨納涼古本まつり』などの古本市でもかなり本を仕入れていました。
古本屋さんや古本市で購入した本の金額に数百円上乗せして値付けしているので、1冊本が売れても100円、200円程度の利益にしかなりません。
もう趣味ですね、これ。
本を売る楽しみを知る
本を自らの手で売ってみたいと思うようになったのは、一箱古本市に参加し始めた頃からだ。
一箱古本市とは…
古本を販売する出店者のことを“箱主さん”と呼び、自由に店名や屋号を付け、各自でセレクトし値付けしたダンボール一箱分ぐらいの古本を持ち寄って販売する誰でも「1日本屋さん」になれる古本のフリーマーケットのようなイベント。
それまで本は好きだけど、「本を売る」という行為には全然興味がなかった。
一箱古本市に参加してきた理由は、カフェを開業する前、お客さんとの売買の経験を積むためだった。僕はカフェで働くという経験どころか、アルバイトすら今までした事なかった。高校を卒業してすぐに就職。職場は一日工場での作業でお客さんと接することが皆無で、いわゆるサービス業の経験が全く無かった。
そんな時、少しでも売買のやり取りの経験を積みたいと、売ってもいいかなという本は沢山あったので一箱古本市に参加し始めた。
初めて参加した一箱古本市の時に、すでに本を直接お客さんと対面しながら販売する楽しさに魅了されていました。
箱の中には2、30冊の本しかないのに、その中から本を選んで買ってくれる人がいる。数少ないラインナップの中から選ばれた1冊は運命の出会い、奇跡ではないだろうか。
買ってくれたお客さんとも話が弾む。
それもそのはず、売っている本は僕自身が買って読んだ本、もしくは結局全部読むまでには至らなかったが、運命的に出会った本たち、本屋さんで目を閉じて適当に選んだ本ではなく、何らかの意図や目的があって手に取った本なのだから、それらの本の中から選んでくれたお客さんに親近感を覚えるのだ。もしかしたら僕と同じ思考の持ち主かもしれないし、趣味が会うかもしれない。
目の前でお金を払って買ってくれて僕の物からそこで初めて出会った見ず知らずの相手の物になる瞬間を一通り目撃できる。
その場で「この本探してました!」「気になってました!」「ありがとう」などと直接声をかけてもらえることに深く感動を覚えた。
これは古本屋さんで買取してもらったら絶対に経験しない体験だ。顔も名前も知らない人に知らないうちに買われて行くのだから。
顧客が見える。
直接顧客と触れ合うことができる。
これが直接サービスできる喜びか!
一箱古本市に売る側で参加する事で、本を対面販売する楽しさを知った。
本屋はロックンロール!
カフェ内で古本の販売をする事も決めて、行ける一箱古本市には出来る限り”箱主さん”側で参加した。カフェをオープンするまでの間に、10回以上は参加したと思う。
本を売る楽しみを知り、本も販売しているブックカフェとしてオープンしたが、冒頭でお話しした通り、本はなかなか売れなかった。
実際に仕事として本を売ってみて、やはり本屋さんは本を売るプロなのだと思った。
僕のお店の本棚は、所詮一箱古本市の延長なのだ。
お客さんの期待に応えられるセレクトもできてないし、棚は全然動かないけど、僕はこれからも本屋さんでもあると公言して行きたい。
一箱古本市も「誰でも一日だけ本屋さんになれる」と謳っているのだから、一箱古本市で本を売っている人たちも立派な本屋さんに違いない。ダンボール一箱分の本しかなくても、本を売ればそれは本屋さんだ。
本が少なかろうが、本が全く売れなかろうが、本屋と名乗れば本屋なのだ。
東京には「森岡書店」という1冊(1種類)の本しか販売してない本屋さんだってある。新しい形の立派な本屋さんとして認められている。
だから、僕のお店も本屋さんを名乗って良いはずだ。
あるアーティストがこんな言葉を言っていた。
「ロックに定義は無い。自分がロックと思えばロックだ」
このアーティストの曲は、ギターをジャカジャカ掻き鳴らすハードな音で一般的にロックというジャンルには入れずらい曲が多いのだが、自身はジャンルはロックだと言っている。
ロックに定義はなく、自分が思えばロックンロールなのだと。
※昔テレビか何かで偶然耳に入ってきた話なので、かなりうる覚えです。多分セリフは間違っているがニュアンスはこんな感じだったと思う。詳しく知っている人がいたら教えてください。
本屋さんも同じではないだろうか。
どんな形であれ、自分が本屋さんだと言えば本屋さんなのだ。
ロックに定義は無い。
本屋にも定義は無い。
自分がそう思えばロックンロールなのだ。
自分がそう思えば本屋さんなのだ。
つまり、本屋はロックだ!
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