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パン屋さんとの出会いと別れ

お店を始めると仕入れ業者さんとの関わりというものが出てきますが、
今回はその中のワンシーンだと思ってください。
当店のようにコーヒー以外のメニューが極端に少ないお店でも、実は多くの食材仕入れを行っています。コーヒー豆の他には、乳製品、卵、砂糖、小麦粉、カカオパウダー、細かいものを含めると結構な数にのぼります。そしてこれらそれぞれに仕入先というものがあります(一社から複数という場合もあります)。


開業までの間に最後の最後まで難航を極めていた仕入先それが「パンメーカー」でした。
 そうです、カレーパンの「パン」の部分です。中身のカレーは店で作っていますが、パンは仕入れようと思い、大きなメーカーをはじめ、フードショーのようなところにも足を運び、それこそ開業直前まで探し続けていました。
 そんな時にいくつかのパン屋さんが掲載されている特集本があり、その中にあったのがのちに当店が取引することになる「からくり時計のパン屋」でした。


その本では「にくまん」という名前で販売されていたパンがあり、中身の具はいわゆる肉まん(中華まん)の中身の具がそのまま入っており、それを覆っているパンがシャンピニオンという丸いフランスパン生地のものでした。名称も「にくぱん」とせずそのまま「にくまん」としたセンスも含め、感じるところがあり、早速翌日に青葉区美しが丘にある店舗を訪ねてみました。そして「にくまん」を購入し、テラス席でそれをいただき、自分がまさに探し求めてきたものであり、オーナーのSさんと商談に入りました。
 最初はSさんも単なる一介の個人店主(しかもまだ開店すらしていない)がいきなりやってきて商談を始めたものだから驚いたと思いますが、こちらとしても仕入先では唯一の個人店、つまりこの時より個対個の、いたって人間臭い取引が始まりました。


振り返ると創業当初の私はあらゆる部分に過分な熱量をもって取り組んでいたということもありますが、それまで他の仕入れ業者さんに対して言ってきたような細かい要望、要求をここでも同じようにすると、相手はやはり職人さんゆえの切り返し(!?)もあり、
 双方でヒートアップすることも何度かありましたが、
 今思えばこの対等性はとても尊いことだったと思います。
 実際2015年までの8年間、常に丁寧で確実で誠実な仕事をしていただけました。


さて、今ここでの書き方が全て「過去形」のようになっていますが、
 そうなんです、この「からくり時計のパン屋」の時計は既に止まってしまっています。


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