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ドイツの難民文学「行く、行った、行ってしまった」

文学ラジオ第64回の紹介本
「行く、行った、行ってしまった」
ジェニー・エルペンベック 著
浅井晶子 訳
白水社

今回はドイツの難民文学をご紹介。社会派なテーマを扱う小説ですが、主人公リヒャルトはじめユーモアある魅力的な登場人物がいて、物語の展開もよく、おもしろく読めました。難民に対する予備知識がなくても読んでいけると思います。リヒャルトは難民の人たちとの交流を通じて、国や境界について、また自分自身についてなど、多くのことに考えを巡らせます。リヒャルト同様、この小説を読むと、難民について、自分が知らなかったことについて考えてしまいます。ラジオではテーマトークとして、もし友人にリヒャルトがいたらどうするか、どう思うかについても話し合っています。

ダイチ、ミエとも感銘を受けた小説で、心に残る言葉が数多くありました。その一部を書き記します。
〈アフリカ人たちはきっと、ヒトラーが誰かは知らないだろうが、そうだとしてもーー彼らがいまドイツで生き延びることができて初めて、ヒトラーは本当に戦争に負けたことになるのだ。〉
〈人生のほとんどの時間、リヒャルトは心の片隅のどこかで、アフリカの人たちは自分たちほど死者を悼まないのではないかと思ってきた。アフリカでは昔からずっと人がたくさん死んできたからだ。いま、その心の片隅には、代わりに恥がある。人生のほとんどの時間を、そんなふうに軽々しく考えてきたことに対する恥が。〉
〈人類はあらゆる時代に平和を熱望し、目指してきた。にもかかわらず、平和は世界のごくわずかな場所しか実現していない。そしてその平和も結局のところ、逃げ場を探している人々と分け合うものではなく、ほとんどそれ自体が戦争のように見えるほど、あまりにも攻撃的に、彼らから守るべきものになってしまうのだろうか?〉

本書のあらすじ
大学を定年退官した古典文献学の教授リヒャルトは、アレクサンダー広場でアフリカ難民がハンガーストライキ中とのニュースを知る。彼らが英語で書いたプラカード(「我々は目に見える存在になる」)について、リヒャルトは思いを巡らす。
その後、オラニエン広場では別の難民たちがすでに一年前からテントを張って生活していることを知る。難民たちはベルリン州政府と合意を結んで広場から立ち退くが、彼らの一部は、長らく空き家だった郊外の元高齢者施設に移ってくる。
難民たちに関心を持ったリヒャルトは、施設を飛び込みで訪ね、彼らの話を聞く。リビアでの内戦勃発後、軍に捕えられ、強制的にボートで地中海へと追いやられた男。命からがら辿り着いたイタリアでわけもわからず難民登録されたが、仕事も金もなくドイツへと流れてきた男。
リヒャルトは足繁く施設を訪ね、彼らと徐々に親しくなっていく。ドイツ語の授業の教師役も引き受け、難民たちとの交流は、次第に日常生活の一部となっていくが……東ドイツの記憶と現代の難民問題を重ね合わせ、それぞれの生を繊細に描き出す。ドイツの実力派による〈トーマス・マン賞〉受賞作。

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ラジオ案内役の二人
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