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岩手とエジプトは、ともに古代の黄金文化が花開いた土地

最近、岩手県に引っ越して、かつて暮らしていた中東の料理を岩手の食材を使って作ってみるという試みを始めた。

おいしいと評判の岩手産ヨーグルトを使って「ラバネ」という水切りヨーグルトを作ってみたら、ヨーグルトのコク味が倍加して、かなり成功だった。

岩手が生産量日本一の雑穀「ヒエ」を中東のひき割り小麦「ブルグル」に見立てて、シリア・レバノン料理として知られる「タッブーレ・サラダ」を作ってみたら、これも本物にかなり近いものになった。

そして、羊肉はニュージーランド産ではあったが、北海道と同様「ジンギスカン」を食べる文化がある岩手のヨーグルトにつけ込んだケバブ(イランでシシリクと呼ばれる骨付き肉のグリル)を作ってみたら、肉のうまみとやわらかさに感動した。

こうした料理を作ってみたのは、多くの岩手の人々にとって、おそらく遠い存在である中東に親近感を持ってもらえたら、という思いからだった。

もちろん、こうした料理は、岩手と中東を分かちがたく結びつけるものとはいえないだろう。私が、いわば「こじつけ」で考え出したものではある。

では、日本から遠く離れた中東と、日本の本州の最北部に近い岩手。この両者の間を結ぶもっと確かなつながりはあるのか。これから何回かに分けて、考えてみたいと思う。

先日、久しぶりに岩手県平泉町にある世界遺産の中尊寺や毛越寺を見学してきた。黄金色に輝く中尊寺金色堂を建設した奥州藤原氏の文化は2011年のユネスコ世界遺産登録を機に世界の注目を浴びるようになった。ツタンカーメンの黄金のマスクに代表される古代エジプトとともに世界を代表する「黄金芸術」になったと言っても過言ではないかも知れない。

古代エジプトと奥州藤原氏の文化との間に、何か親密性のようなものを感じられるのは、ひとつは両者の特徴である「黄金の文化」ではないか。そんなもの、こじつけだろう、と感じる人もいるかも知れない。だが、両者に親密性を感じるのは、どうも私だけという訳ではないようだ。

実は、平泉町とその南隣りの一関市は、エジプトとの文化的交流をすでに行っている。2003年に設立された団体「北上川リバーカルチャーアソシ
エーション」がエジプトとの交流を続けている。同年、エジプトの河川関連の民間団体との間で、ナイル川と北上川の「姉妹河川協定」を締結した。

ここでは、黄金文化を共通点に、というよりは「川」が両者のつながりの軸だ。東アフリカに源を発し、エジプトを通って地中海に注ぐ文字通りのナイル川と、日本という枠でみれば大河である北上川という二つの「大河」が結びつけた形で。ただ、同アソシエーションの交流を基礎に、2009年に設立された「一関・平泉地域エジプト・ルクソール友好協会」は、両者の古代文化の共通性に注目していた感がある。実際、名誉会長には中尊寺貫首の山田俊和氏が就任した。ルクソールは古代エジプトの都があった場所の一つ。ツタンカーメンの墓があるのもルクソール。一関・平泉とルクソールの友好関係樹立により、二つの古代黄金文化に焦点を当たるようになったという印象がある。

友好協会は、中尊寺金色堂に安置された棺の中からみつかった800年前のハスの種を開花させた「中尊寺ハス」の種をエジプト・ルクソール県に贈った。友好協会は、その後2019年7月に「北上川リバーカルチャーアソシ
エーション」に統合されたようだが、地道な活動が続けられている。

北上川とナイル川。奥州藤原氏の平泉文化と古代エジプト。「エジプトはナイルのたまもの」という言葉はあまりに有名だが、大河が育んだ文明・文化という共通性は、岩手とエジプトをさらに深く結びつける重要な要素になるかも知れない。今回はエジプトの話に終始したが、次回以降、別の中東の国と岩手の接点も取り上げていきたいと思う。

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