見出し画像

日本で食べるマクルーバ⑩(完結)銀座「ミシュミシュ」

アラブの「炊き込みご飯」、マクルーバの食べ歩きもついに。フィナーレの10回目は、東京・銀座のアラブ料理店「ミシュミシュ」へ。にぎやかに終わりを迎えようと、全て一緒に食べ歩いた映像ディレクターの比呂啓さんの発案でイベントを企画。イスラエル・パレスチナを舞台にした映画「ピンクスバル」の小川和也監督や出演俳優、スタッフが参加して、「パレスチナの思い出を語り合う」食事会という形にした。なお、参加した19人から各500円ずつお預かりしたパレスチナ支援金(9500円)を、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)に寄付した。

ミシュミシュは、「中東・アラブ・地中海料理」と銘打っている。草野シェフは、パレスチナの食材・食文化にこだわり続けている方。パレスチナは、アラブ圏のなかでもとりわけマクルーバをよく食べる土地柄であり、最終回の場所にふさわしい店といえる。丸鶏を煮込んでダシ汁を作り、それでご飯を炊いてくれた。その鶏は、皿に盛られたマクルーバのまわりに置かれた。さほど広い店内ではないが、鍋二つを皿にひっくり返し、鍋を外すというクライマックスシーンを参加者が座るテーブルの上で見せてくれた。トッピングは、イタリアンパセリとアーモンドスライス。鶏のダシがご飯によくしみていて、ほどよくきいたスパイスとハーモニーを奏でていた。スパイスとだし汁の調和という、アラブ料理の核心を実感する料理だった。

マクルーバの最終仕上げの場面

食事会メンバーは総勢19人。草野シェフは、この日のために鍋を新調した。数分内に立て続けにひっくり返し、テーブルの上に置く。木槌で入念にたたいて鍋を外す。新品だったせいもあったのだろうか、一部野菜は鍋にひっついて残った。一見なんでもないような、具材がきれいにはがれるようにすることの難しさを、改めて実感。した。

鍋底から野菜をはがす草野シェフ

これまで訪れた店でも出てきた、キュウリ入りヨーグルトソース。マクルーバにかけると味が変化して、さらに食が進むことはすでに実証済み。それにしても、ヨーグルトとキュウリを使った料理、派手さはないものの中東料理を支える土台のような重要さがある。

キュウリ入りヨーグルトソース

ここからは、マクルーバ以外の料理を紹介する。前菜の盛り合わせ。ひよこ豆ペーストのホンモス、ヨーグルトチーズのラバネ、ナスのペーストのババガヌーシュ、オリーブ漬け、トマトが盛られていた。真ん中にはパセリやひきわり小麦を使ったタッブーレサラダ。これまで食べ歩いた店でも、だいたいこのペースト3つを食べることが多かった。食べ歩きの本丸ではなかったが、基本メニューを比較することができて、各店の個性を知る有力な手がかりになった。

前菜盛り合わせ

ひよこ豆のコロッケ「ファラーフェル」。これもスタンダードなアラブ料理の前菜であり、ファストフードでもある。タヒーニ(ゴマペースト)ソースがかかっていた。赤キャベツが敷き詰められ、キュウリのピクルスも添えられている。これをピタパンに詰めると、ファラーフェルサンドになる。

ファラーフェル

エビとムール貝のタジン。日本のアラブ料理店でシーフードが出てくるのは珍しい。味がしっかりしみこんでいた。ワインといっしょに味わいたい一品だと感じた。

エビとムール貝のタジン

羊肉のハンバーグ「コフタ」。したにゴマペースト「タヒーニ」が敷かれていて、それとからめて食べた。添えられたジャガイモもホクホクしておいしかった。

タヒーニの上にコフタ

比呂啓さんが担当した「ピンクスバル」のメイキング映像を上映。小川監督がパレスチナの思い出や撮影の苦労話を語り、エグゼクティブプロデューサーの田中啓介さん、主演の小市慢太郎さん、川田希さん、スチルフォト担当のパークさんも当時の思い出などを披露した。制作から10数年の歳月を経て、今もパレスチナでの濃厚かつ豊穣な記憶を持ち続けていることに感動を覚えた。

ピンクスバルに出演した俳優も参加

私、カフェバグダッドも20年ほど前に起きたパレスチナ人の対イスラエル蜂起「第二次インティファーダ」の時に訪れたガザの思い出を話した。

「ミシュミシュ」は、銀座6丁目の雑居ビルの二階にある。入口の地上階段下には、大きなパレスチナ旗がはためいていた。

ミシュミシュの看板とパレスチナ旗

去年の12月2日に始めたマクルーバの食べ歩き。中東に行くようになって四半世紀になるが、これほど集中的に食べた経験は初めてだった。東京を中心に10店を訪れたが、どの店も、それぞれに個性的で、マクルーバひとつとっても、どれとして同じものはなかった。だいたい4人以上で席を囲む必要があり、なかなか簡単に食べに行けないという難しさはあるものの、大勢で食べるからこそ、おいしい、楽しいという「食の醍醐味」が味わえる料理だといえる。

もし、人数がそろわない時は、私や比呂啓さんにぜひ声をかけてください。喜んで駆けつけると思います。マガジン「この広い世界を知るための10皿」に連載してきた、「日本で食べるマクルーバ」は、これで終わりになります。お付き合いいただきありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?