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静謐な風景の中の痛々しい心理劇…フランス映画「落下の解剖学」

予備校に通っていた時代の友人と久しぶりに会って会食していた時に勧められた作品。カンヌ映画祭の最高賞「パルムドール」受賞作。勧められた時には、この作品のことを知らなかったのだが、公式サイトをチラ見した段階では、コーエン兄弟監督作の米映画「ファーゴ」みたいな?と反射的に思い、その友人も否定しなかったので、そんな感じかな、と思って劇場に行ったのだが、かなり色合いの異なる作品だったように思う。

スランプに陥っている作家が、自宅から謎の転落死を遂げる。他殺か、自殺か、事故死なのか、をめぐり、殺害を疑われた妻(こちらも作家で、死亡した夫より売れている)を被告とした裁判を中心にストーリーが進んでいく一種の法廷劇といえる。

ハリウッド映画だったならば、有名作家のドタバタ・スキャンダル劇といった形に仕立てる方向性もありなのかも知れないが、この作品は、一貫して静謐な心理劇として進行していく。特に、現場にいたひとり息子の心理を遠巻きに分析しながら、家族の群像を描いていく。

自殺説の裏付けとして、思うように創作が進まない夫の、痛々しいほどの焦燥感が浮き彫りになる。それを見る妻の冷ややかな態度。フランス・アルプスの寒々しい雪の情景と重なってみえる。

作品の筋書き上、仕方ないのかも知れないが、みた後の鑑賞後感があまりよろしくない。重苦しい気持ちを抱えて帰路についたのだった。

「落下の解剖学」、私は東京・日比谷のシャンテで鑑賞したが、封切りからだいぶたっているものの、全国各地で上映が続いているようだ。


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