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今年のトレンド

毎年、春先のテラス席にて交わされる、わたしと隣に住む姉の会話。

わたし:「今年は、何が流行るんだろうね?」
姉:「なんだろうねー。嫌だなあ……」
わたし:「大きいのはやめてほしいなあ……」
姉:「何にしても、ぶら下がるのだけは勘弁!」

もちろん、わたしたち姉妹が今年のトレンドについて語るのは、ファッションではなく、虫です。我々の天敵、芋虫毛虫。
街に暮らす皆様にはあまり関係のないことかもしれませんが、山に暮らす虫嫌いのわたしたちにとって、何の虫が流行るのかはファッションよりも断然重要な問題です。

森の中に暮らし始めて、その年によって流行する虫が違うことを知りました。去年はヒョウモン系が多かったけれど、今年はマツケムシ系の蛾が多いなとか、春先に出没し始める幼虫で、その年に流行る昆虫がだいたいわかります。
マイマイガやシャクトリムシなどの「ぶら下がり系」が続いた年は、「あちこちぶら下がってるから、シャシャッと避けて歩いてシャドーボクシング状態」なんて言ってご来店されるお客様もいらっしゃいましたが、ホントぶら下がる系の虫は勘弁してほしいです。
スズメガ系の幼虫が大当たりの年もありました。黄緑色で(茶色の種もあります)太くて大きな、いかにも「ボク、芋虫代表!」というヤツです。とにかく大きくて食欲旺盛だから、庭のナナカマドが丸坊主になりかかりました。巨大な終齢幼虫がもごもごと草むらを這う姿を目撃しては、江戸川乱歩の『芋虫』を思い出したものです。
わたしが勝手に「阪神」と名付けていた、頭が黒と黄色で、黒白の縦縞模様のシャクトリムシが大流行の年も。あとで調べたらヒメコメノエダシャクというガの幼虫でした。モミジとかシラカバにつきます。似ているものにホソバセダカモクメがいますが、こちらはノゲシなどにつきますね。一昨年大発生でした。
黒字に白い斑点の太短い印象的なシロシタホタルガの幼虫が、サワフタギにたくさんついた年もありました。
栗の木の下を通るのが嫌になる巨大毛虫「白髪太夫」(クスサン)の年も。
蛹が水玉模様になる、ダークグレーに輝く毛虫が大量発生した年もありましたし、メタリックグリーンとオレンジの爬虫類みたいなマツ系につく虫の年もありました。この2種はいまだに名前が特定できていません。

あまりの虫嫌いで気配で存在を察知できるし、いろんな幼虫の名前と簡単な生態を述べられます。落ちているフンから、葉に隠れている幼虫がわかったりもします。苦手すぎるゆえに、発生時期や食性などの生態を把握して、いつどんな植物につくのか、成虫はどんな形態なのか、その出現に備えようと調べまくってしまうからです。
嫌いな人のSNSをつい見てしまうのと、同じ習性らしいです。わたくし、note以外にSNSはやっていないから、そういうことはしないけれど。
とはいえ嫌いな生き物の生態を、「あーキモチワルイ!」と眉間に皺を寄せながら調べる自分も、相当気味が悪いなと思います。

「あの曲が流行った時、あんなことがあったなあ」と思い出すのと同じように、「あの虫が流行った時、あんなことがあったなあ」と、いろんな記憶を蘇らせてしまうわたし。
本当に不思議なんですが、ほとんどの場合、一度流行った虫は翌年以降ほぼ見かけません。流行歌と一緒です。虫の世界も、栄枯盛衰。
その中で、マイマイガだけは3年にわたって流行を保つという快挙(?)を成し遂げました。

さて、今年は何が流行るのか。
何が流行っても気が重いのですが、ここは肉食系の野鳥、昆虫の皆さんに期待します。捕食、頑張ってくださいね。

芽吹きの頃の森の景色は美しいのだけれど、虫のことを考えると気が滅入るシーズンです。

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