『聖』とは、どのようなことか

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昔々、あるところに、赤い帽子とコートの少女、がいました。

赤い少女は、お祖母さんの家までパンとワインを持っていくため、

暗い森に入ります。

すると森の中で、木陰で休んでいた青い鎧の騎士と出ったのでした。

『お嬢さん、この森を一人で行くのは危ないですよ。

私が一緒 行きましょう。荷物は私が持ちましょう』

青い騎士がパンとワインの籠を持つと、二人は歩きはじめました。


『どうして騎士さんは、この『黒いオオカミの森』で休んでいたのすか?』

『この森の『聖なる泉』にいけば、

『聖なる存在』が『聖なる剣』を与えてくれる、という話を聞きました。

しかし・・・』

『聖なる・・・。それら 一体、どういうものでしょう』

『「行けば分かる」とも言われました。

しかし、どうしたら見つけられるのか・・・。

私には、『何か』を感じる自信が無い』


赤い少女は、青い騎士を追い越し、振り向いて、言いました。

『祖母が言っていました。

『聖なる時間』は繰り返されるけれど、それは『記念日』とは異なる、と 』

 青い騎士は立ち止まります。

『記念日は、過去の記憶を現在から眺めるもの。

でも『聖なる時間』は、現在が真に過去のその時間そのものなんです』

『しかしそれでは時間というものが。

・・・・いや、そうか。それは『瞬間』で『永遠』なのか』

『難しいことは分かりません。

ただ現在が過去と同じなら、『聖なる時間』は、

『懐かしさ』があるのかもしれません』

『懐かしいなんて。

私は『聖なる』ものに、『恐怖』さえ感じる。

同時に、『聖なる』ものに接し、認められたい。矛盾している』

『恐れながら求める、という気持ちは、自然なもののように思います』

『矛盾だよ。きっとそれは、この世界の雑事や、個人の倫理善悪、

私の想いなんて気にしない。それでこそ、『絶対』的な・・・』

『そうかもしれません。さあ、暗くなる前に、祖母の家に行きましょう』

 そうして二人はまた、歩きはじめました。


『祖母の家は、真っ白で、とても静かな場所で、

その場所にいても、見つけられないことがあります』

『見つけることが出来ないなんて、

そんなに小さいのか、それとも透明なのかい?』

 騎士は笑いながら尋ねます。

『『祖母の家』は静かな場所です。

静かでなければ『祖母の家』ではありません。

そして姿形は本質ではないのです』 


ふと青い騎士は、自身の『聖なる』経験を思い出しました。

山の頂上、

教会での祈り、

ある絵画、芸術作品を見たとき、

喧噪の中に『聖なる』ものを見いだした時・・・。

その時はいつも、無音という意味とは別の、

深い『静寂』を感じていなかったか。


『あ、たどり着くことが出来ました。

騎士さんと一緒の今、この場所が『祖母の家』の現れです』

ひらけた野原に出た青い騎士は、

それまで吹いていた風が止んだことに気がつきました。

一面の白い芝生の中心には泉があり、

そのほとりで一頭の黒いオオカミが水を飲み終えると、

騎士を見つめています。


『これは泉・・・。私は、どうすれ 』

赤い少女の方を向くと、そこには誰もいません。

パンとワインの籠は無くなり、

青い騎士のその手には、

一振りの見知らぬ剣が握られていたのでした。

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