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「政府からの賃上げ要請」に思うこと

賃上げを狙った政府の取組みが目立つ

岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」の実現に向け、政府が賃上げに向けた活動を具体化している。

新しい資本主義の重要なコンセプトとして「成長と分配の好循環」を掲げており、成長なくしては分配の原資が存在しないため、まずは経済の成長を狙うのが順当であろう。

賃上げの効果とは?

経済の成長とは、一般的には(実質)GDPの伸びで計測されるので、①労働力を確保して生産活動を沢山行い、結果として売れる財やサービスが増え②働いて得た給料でより高いものを多く消費活動をしてもらう、ことを目指したいはず。

仮に賃上げが実現した場合、①②のそれぞれに対する効果を簡単に考えてみる。

①については、賃上げが行われることで、働くことに対するインセンティブが強まり、労働したい人が増え、離職の防止にもつながるだろう。結果として、労働力が多く確保され、生産活動が活発になることは自明である。

②については、①よりも簡単で、得られる給料が増えれば、当然可処分所得も増加して、市場にお金が回り始め、物価の上昇も含めて消費活動の増加が期待できる。

非常に端折った説明ではあるが、経済の成長を行うにあたり、賃上げがポジティブに働くことを直感的に感じてもらえるだろう。

賃上げに向けて政府が本来やるべきこととは何か

では、その賃上げが実現されるために、政府は何をすべきか、と考えたときに、企業に対してただ賃上げ要請をすることが本当に効果的なアプローチなのか、と聞かれれば、極めて懐疑的にならざるをえない。

こういったニュースになって閣僚クラスからの要請(パフォーマンス)を受ければ、経団連をはじめとする経済界の重鎮は、建前上協力する姿勢は見せるだろう。少なくとも、無意味に反発してマーケットからの評価を下げたり、監督省庁から無駄に目を付けられることは、企業に何の利益も生み出さない。

一方で、賃金水準というものは個社ごとに短期的に上げるように努めたところで、それが持続的なものになる可能性は極めて低い。合理性なく賃金を上げて会社の懐を痛めて収益が上がらないのであれば、必ず数年後に定期的な賃金上昇の抑制や、人員整理を含めた人事方針の見直しを迫られる状況になる。これは個社が悪いのではなく、資本主義社会の原理原則なので仕方がない。

本来なら政府は、単に民間企業に要請して丸投げするのではなく、企業が賃上げをすることによるインセンティブを設計し、政策・施策を実行するのが仕事である。具体的には、公的価格・最低賃金の引上げや税金制度の見直し、補助金の設立、雇用の流動性を高めるため法律改正や、摩擦的失業(職探し時の失業期間)を極小化させるような施策による市場原理の活発化などが考えられる。当然それぞれに一長一短があり、とくに雇用の流動性を高めること、すなわち企業側が首切りしやすくなる仕組みづくりには副作用も大きいため慎重に行わなければならないが、日本が世界経済の成長に取り残されている原因の一つとして、雇用慣習へのメスはいずれ避けられなくなるだろう。

日本政府の経済政策に対する評価

最近、こんなツイートがバズっている。

実は元ネタ(と思われる以下リンク先)では、政策のミスの部分については言及していないようだが、このツイートのいいね数を見ても、政府の失政について不満を持つ人間の数を伺い知ることができよう。

これからの日本政府に期待したいこと

労働賃金を含め、政府が行うべき施策は、マクロ経済学的な視点が非常に肝要であるが、近年の政府が(人気取り的な意味も含めて)行う施策は、どうしてもミクロな視点に終始していると言わざるを得ない。もちろん、その方が大衆に理解されやすいのは確かだし、優秀な東大経済学部卒業の官僚が日々頭を悩ましたうえでの結論ということが承知の上だが、もっと根本的な課題認識と解決方針の模索に尽力してもらいたいところである。

ちなみに、経済成長のために賃上げという論理自体が、因果関係的に正しいかは意見が分かれるところではあるが、鶏が先か卵が先かは、その時々で変わりうるし、話が長くなるので、また機会があれば別の記事で書きたい。


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